教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

隠れリーダーを育てよう

小学校に勤めていると、中学校の先生と交流はあっても、高校の先生と話をすることはまずありません。

 

退職後に縁あって、政府系機関のセミナーで高校訪問をするようになり、この4年間で延べ50回ほど講演せせていただきました。そこには新鮮な発見がありました。

 

公立の小学校・中学校には、さまざまな学力レベルの子がいます。それが当たり前の世界で過ごしてきた私には、高校は驚きの世界でした。

 

現実問題として、高校入試の願書提出の段階で子どもたちは偏差値によって輪切り状態にされ受験します。そして、偏差値の幅がさらに小さくなった合格者が入学してきます。それは、「15の春を泣かせない」ための善意の措置であることは理解しています。

長らく教員をしていても、輪切り状態の子どもを受け入れる側の高校については思いが至りませんでした。よく似た学力レベルの子たちが集まっていることは容易に推察できますが、それ以上のことは外からは見えにくいものです。

 

私がセミナーで訪れた高校を、便宜上3つのグループに分けます。

Aグループ……偏差値トップクラスの進学校

Bグループ……偏差値中程度の大半の高校

Cグループ……偏差値で最底辺に位置する高校

 

【Aグループ】成績優秀でリーダー経験者が一杯

Aグループの高校には、各中学校の成績最上位者が集まってきます。そして、彼ら彼女らの中には、生徒会や部活などでリーダーを経験してきた子たちがゴロゴロいます。

このグループに属する子どもたちの一番の特徴は、自律していることです。したがって、私などが訪問しても先生が所作や態度に関して口やかましく注意されることはほとんどありません。

しかし、かつてのリーダー性は内に秘めたまま生きているように見えます。実際問題、そんなにたくさんのリーダーなど必要ないですし。

 

【Cグループ】自分を生きている

私が訪問したこのグループに属する高校は少人数のところが多く、義務教育時代に不登校であった子や特別支援学級に在籍していた子などもいるようです。

対極にあるAグループと比べると知的理解力の差のみならず、自律性やリーダー性においても歴然とした差がありそうです。

ところが、講演をしているとこちらのグループの方がはるかに楽しいのです。多少は言葉を平易にしたりはしますが、内容は基本的に同じです。それでも生活者としての聞きっぷりが明らかに違います。

先生たちのきめ細かい支えがあるのでしょう。子どもたち個々の来歴は分かりませんが、長い経験から小学校時代を想像することはできます。義務教育時代よりも自分を生きているのではないかと感じます。

私たちは、この子たちを集団の中に埋もれさせてきたのかもしれません。私自身が学ぶことの多い時間です。

 

【Bグループ】まさに「十校十色」

訪問校の大半がこのグループに属します。偏差値レベルで60超の学校もあれば40以下の学校もあって、まさに「十校十色」です。

それでもほぼ共通して感じるのは、Aグループの子たちとの自律性の差です。かつての教え子たちの進学状況から推察して、リーダー経験者も少ないようです。実際、リーダー不在の中での学校づくりの困難も目の当たりにしました。

そうした中で2年以上を過ごした子どもたちと出会うと、「十校十色」が「十校二色」の様相を呈しているように見えてくるのです。 「二色」とは、先生たちの導きが功を奏している学校とそうでない学校です。

自律性の弱い生徒が多いと、先生の規範指導がどうしても必要になります。

それがある程度生徒に定着している学校では、先生の指示は講演中も生徒に生きています。逆に定着していない学校では、講演中も指示・指導・叱責が続きます。

実は、指導が定着しているように見える学校にも2種類あります。1つは生徒が自律の方向に向かって育っているなあと感じさせてくれる学校です。もう1つは、先生の指導に押されて生徒は何とか従っていると感じる学校です。

私が興味深く思うのは、生徒が自律の方向に育っている学校です。

そうした学校に1つ共通していたのは、リーダーが育っているということでした。ある校長先生と講演後に話したことがあります。それによると、入学当初はリーダー的な子はほとんどいなかったと言います。それが生徒会役員という役割を担うことで、短時間の訪問者である私にもわかるくらいに育ってきたそうです。

別の高校では、部活動のリーダーを務める中で育ってきたという子に出会いました。

いずれにせよ「成功」のカギは、先生たちの細やかな指導にプラスしてリーダーの育ちにありそうです。

 

私は思うのです。

小学校時代にクラスや児童会のリーダーとして活躍した子は、Bグループの高校には多くはいません。

私が出会った生徒も、校長先生の言からすると小学校の頃は目立たない存在であった可能性が大きいです。しかしこの子は、リーダーとしての素質を持っていたのだと思います。それを発揮する機会がなかっただけかもしれません。あるいは、クラスのリーダーの姿を見ながら、力を蓄えていったのかもしれません。

小学校において、こうした「隠れリーダー」ともいうべき子を意図的・意識的に育てることが、多くのBグループ校を元気にすることにつながるのだと確信します。