教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

ユニバーサルデザイン化で授業力を磨く

■授業の基本■


「『教科書を教える』のではなく、『教科書で教える』のだ」とよく言われます。よく言われる割には、その意味するところが共通認識されているとは言い難いように思います。

 

たとえば、3年生の教室で「ありの行列」という教科書教材を使って初めて「要点」の指導をしている場面を考えてみましょう。

ある段落の中心文を見つけ、その段落の要点をまとめて1時間の授業を終えたとします。--この授業は「教科書を」教えた授業でしょうか、それとも「教科書で」教えた授業でしょうか。


判断の基準は、この時間の学びを使って子どもたちが自力で別の段落、別の教材の「要点」をまとめることができるかどうかにあります。

1時間の学びがその段落の「要点」止まりであるなら、それは「教科書(教材)を」教えたに過ぎません。

1時間の学びを生かして別段落の「要点」まとめができたなら、「教科書(教材)で」(教科書を通して)「要点のまとめ方」を教えたことになるのです。


つまり、「要点」がその時間の学習課題ならば、1時間の学びを通して「要点のまとめ方」がスキルとして子どもの中に残らなければならないのです。

 

教科書「を」と「で」の述べてきた「で」のような授業を、「論理」を目標にした授業といいます。具体的には別稿で述べますが、ここでは「授業は『論理』が目標にならないといけない」ということを確認しておきましょう。

 


■授業をつくる■


いわゆる「できる子」に依拠して授業を進めている教師は、お気楽でいい。「できない」「わからない」のはその子の問題であり、その子の責任なのだから。しかし、集団の平均より少し下に目線を置いて授業する習慣がついている教師は、底辺の子たちが気になって仕方ない。何とかしたいのだが、さてどうする。

 

「できない子」は「できる子」の2倍の努力をしなければダメなのでしょうか。居残り学習や復習プリントの類いは、教師が熱くなればなるほど結果として「2倍の努力」を強いています。


私は、教師が「できない子」のために2倍の努力をして、「できない子」も「できる子」と同じエネルギーでできるようになる授業をつくることが、教師の仕事だと考えています。平たく言うと「すべての子がわかる・できる授業」です。


言うは易く行うは難し。「すべての子がわかる・できる授業」は青い理想論である現実も十分知っています。

しかし、教師である限り理想に近づこうと努力を続ける存在でありたいと思うのです。ここでは、そのためのヒントを論じます。

 

 

■授業のユニバーサルデザインという考え方■

 

「授業のユニバーサルデザイン」というのは、特別支援教育の考え方を生かして、全員が楽しく「わかる・できる」授業づくりをすすめようというものです。筑波大学附属小学校の桂聖さんを中心に授業のユニバーサルデザイン研究会(UD研)が組織されています。桂さんが国語科教師だということもあって、国語科における実践が先行しています。ここでは、桂さんの授業を参観したり、講演を聞いたり、著書を読んだりして知り得た内容を、私流に咀嚼して紹介します。


国語授業のユニバーサルデザイン(以下、UDと略記)は、「学力の優劣や発達障害の有無にかかわらず、全員の子どもが、楽しく『わかる・できる』ように工夫・配慮された通常学級における国語授業のデザイン」と定義されています。

ここで、「工夫」と「配慮」という言葉が、2つの研究的アプローチを示しています。つまり、授業づくりの「工夫」という国語教育からのアプローチと、個別の「配慮」という特別支援教育からのアプローチです。授業づくりの工夫をした上で個別の配慮をするという順序で授業をデザインしていくことになります。

 

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 先に「教師が『できない子』のために2倍の努力をして、『できない子』も『できる子』と同じエネルギーでできるようになる授業をつくる」と書いたのは、まさにこのことなのです。

 

 

■授業をデザインする目標と3つの要件■


「論理」を授業の目標にします。

具体的に言うと、「論理的な話し方・聞き方」「論理的な書き方」「論理的な読み方」を教えると言うことです。


論理を授業の目標にした上で、「焦点化」「視覚化」「共有化」という3つの要件で授業をデザインすていきます。

「授業を焦点化(シンプルに)する」とは、ねらいや活動を絞ることです。

「授業を視覚化(ビジュアルに)する」とは、視覚的な理解を重視した授業にすることです。

「授業で共有化(シェア)する」とは、話し合い活動を組織することです。

 

 

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具体的には別稿「ありの行列」と「わり算の筆算」の授業展開の中で触れていくことにします。