教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

国語科「ありの行列」で授業のUD化を考える

「ありの行列」という教材を通して、授業のユニバーサルデザイン化の進め方を考えます。

 

 

「ありの行列」は、光村図書教科書3年の古典的長寿教材です。

2012年、この教材を使って、4年生の学級で連続自主公開授業を行いました。授業の流れは、およそ次のとおりです。


■公開1■1/5時
 □日時   6月13日(水) 5校時
 □内容   ・文章構成をつかむ。(全体を3つの大きなまとまりに分ける)
       ・問いと答えを見つける。(序論と結論の読み)
 □ポイント ・3段構成の見つけ方
       ・中心文の見つけ方
       ・要点のまとめ方
       ・みんなが「わかる・できる」授業をめざす工夫と配慮

■公開2■2/5時
 □日時   6月14日(木) 2校時
 □内容   ・本論の読みⅠ(ワークシートを使わないで③段落を読み取る)
 □ポイント ・接続語の読み取り方
       ・事実と意見の見分け方
       ・みんなが「わかる・できる」授業をめざす工夫と配慮

■公開3■3/5時
 □日時   6月15日(金) 1校時
 □内容   ・本論の読みⅡ(ワークシートを使って④段落を読み取る)
 □ポイント ・ワークシートの与え方
       ・みんなが「わかる・できる」授業をめざす工夫と配慮

■非公開■4/5時
 □日時   6月15日(金) 2校時
 □内容   ・本論の読みⅢ(⑥~⑧段落を読み取る)

 

■公開4■5/5時
 □日時   6月18日(月) 6校時

 □内容   ・要約
 □ポイント ・要約の仕方
       ・みんなが「わかる・できる」授業をめざす工夫と配慮

 

 

(1)第1時-文章構成をつかむ 序論と結論の読み

 

教材全体の学習課題は、説明的な文章の要約です。

子どもには、「『ありの行列』を読んで、家族に紹介しよう」と提示しました。学習課題の設定は、「焦点化(補1)の問題です。これは、学習指導要領などを参考に設定します。

  (補1)  「焦点化」するというのは、授業のねらいをしぼるということです。つまり、1時間の授業であれもこれもやろうとしないということです。学習課題をシンプルにすることで、授業が分かり易くなります。教師には絞り込む力が求められます。

 

題名から文章の内容を予想する「題名読み」のあと、全文音読をしました。音読は、ペア (補2)での段落交代読みをしました。

 (補2)   授業のさまざまな場面で、ペア活動を取り入れます。ペア活動により全ての子どもが主体的に授業に参加するようになり、また苦手意識を持つ子の垣根を低くしてやることもできます。

 

初発の感想については次のようにしました。

まず、全員を起立させて、「へえーと思ったこと(初めて知ったこと)」「なんでと思ったこと(疑問に思ったこと)」「すごいと思ったこと(驚いたこと)」を1つ思いついたら座るように指示しました。〔A〕

これによって全ての子の活動スイッチがオンになります。

座ったら、思いついた1つをノートに書かせました。〔B〕

そして、書いたことをペアの相手に話させました。〔C〕

最後に、挙手で全体発表させました。〔D〕 (補3)

全体発表までの一連の手順によって、自信をもてない子どもが生き生きと活動できるようになります。

 (補3) 〔A〕~〔D〕の一連の流れは、子どもを書かざるを得ない、話さざるを得ない状況に追い込む(=全ての子の活動スイッチがオンになる)手法として、自分の授業スキルに加えてほしいです。有効性は私が保証します。

 

続いて、説明文の三段構成図を示し、教材文が「はじめ」「中」「終わり」という組み立てになっていることをおさえました。(補4)(補5)

 

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(補4) 小学校の説明文教材は、基本的に三段構成であり、「答え(主張)」が「終わり」のまとまりに書かれている「尾括型」の文章です。したがって、ここに示した授業のノウハウは、基本的に3年生以上の他教材に適用することができるものです。
    教科書会社によっては、説明文を4つ、5つの大きなまとまりに分けることを求めている場合があります。じつは、これが子どもの理解を妨げ、学習を分かりにくいものにしているのです。教材は基本的に三段構成なのだから、大きなまとまりは「はじめ」「中」「終わり」の3つでよいです。教材によっては、「中」部分がさらに2つ、3つに細分されることがあります。上の図で「事例Ⅰ」「事例Ⅱ」としている部分がそうです。こうした場合も、文章構成図を示してやることですっきり整理されます。


(補5) 「ユニバーサルデザイン化で授業力を磨く」の稿において、授業デザインの部分で「視覚化」ということを書いています。

「視覚化」は「見える化」とも言い、学習課題や学習過程を子どもに見えるようにすることです。

私は、説明文教材を扱う時はまず三段構成を思い起こさせるために上のようなパネルを提示しました。これによって、子どもはこれから取り組むべき課題を理解し、いま取り組んでいる課題の位置づけを確認できます。

私の経験上、「見える化」によって子どもたちの学習理解は格段に深まり、進みます。「見える化」は、あらゆる学習活動において教師が意識して取り組むべき課題であるといえます。

このことは、「論理的な読み」と深く関わります。「ありの行列」という教材を通して、説明文の読み取り方を教えるのです。次に出会う説明文の読みに応用されなかったら、それは論理的な読みの力をつけたことにはなりません。(補6)(補7)

(補6)  「論理」を目標にするというのは、「ありの行列」が読み取れるということではありません。「ありの行列」の読み取りを通して、何に注目して、どういう手順で読んでいけば説明文が読めるかという「論理的な読みの力」を育てることが目標です。そのためには、まず教師が説明文の読み取り方(読みのスキルと言ってもいい)を会得していて、それを「ありの行列」という教材に落とし込む力を持っていなければなりません。


(補7) 「ユニバーサルデザイン化で授業力を磨く」の稿で書いたのはこの部分です。こと国語科においては、これまで教師の意識が希薄だったと率直に反省します。
「論理を目標にする」というのは、算数科に当てはめてみると容易に理解されると思います。たとえば、かけ算の筆算を初めて指導する場面。「34×56」という教科書問題を指導して、筆算を「教えた」と考える教師はいないでしょう。その問題を解くことを通して習得したスキルが他の問題に活かされて初めて、「教えた」ことになります。算数ではそれは自明のことです。国語科だって然り。そのほかの教科だって然りです。

 

文章構成図をもとに、「問い」を見つけさせました。

まず、「問い」は3つのまとまりのどこにあるかを問い、「はじめ」のまとまりであることを確認しました。

そして、「問い」の段落と文を次のようにして見つけさせました


㋐一人読みをして、問いの文にサイドラインを引かせます。


㋑見つかっていないペア相手に見つけ方(文末表現に注目すればよいということ)を教えるように指示しました。思考過程の共有化を図ろうとしています。


㋒ペアで確かめさせます。全員がサイドラインを引いたあと、挙手発表。「挙手-指名」方式を「作業-確認-指名」方式にすることで、全員が表現せざるを得ない状況を作れます。


㋓「なぜ」「でしょうか」を丸で囲ませました。問いの文の見つけ方を確認させるためです。「問いの文の見つけ方」という論理的な読みの力の定着をめざしています。


㋔できるだけ短くまとめてノートに書かせました。文末を「だろうか」と常態にすることを確認しました。


㋕「はじめ」のまとまりでは、「問い」の文が中心文であり、①段落の要点になることをおさえました。(補8)(補9)

(補8)  ㋐から㋕までの指導の流れを、授業展開の基本パターンの1つとして、是非マスターしてほしいです。次の場面も同じ展開になっていますが、これはさまざまな場面に応用できます。


(補9) 3つのまとまりに分けるときは、まず「問い」の文を見つけて「はじめ」がどの段落までかを決めます。

つぎに、「問い」に対する「答え」を見つけて「終わり」がどの段落からかを決めます。

「はじめ」と「終わり」が決まると、その間が「中」になります。

「問い」の文の見つけ方は、「なぜ」「どうして」「……か(?)」といった語に注目して疑問文を見つけます。「問い」の文を含む段落までが、「はじめ」のまとまりになります。

 

次に、「問い」に対する「答え」を見つけさせました。手順は以下の通りです。


㋐「答え」が「終わり」のまとまりにあることを確認します。


㋑一人読みをして、答えの文にサイドラインを引かせます。


㋒見つかっていないペア相手に見つけ方(これから「答え」や「まとめ」を書くぞという言葉を見つければよいということ)を教えるように指示しました。


㋓ペアで確かめさせます。全員がサイドラインを引いたあと、挙手発表。


㋔「このように」を丸で囲ませました。

(補10) 「答え」の文を見つけ方は、「これから『答え』や『まとめ』を書くぞという言葉を見つければよい」という微妙なヒントを与えています。これは、「このように」「以上のように」等の言い回しを指しています。また、「……である。」「……ということができる。」などのように文末が断定調(言い切りの形)になっているのも「答え」文の特徴点です。


㋕要点にまとめます。ここで、要点のまとめ方の指導をした。


 ❶述語を見つけます。(できるというわけだ→できる)


 ❷述語を修飾している語句を見つけます。(においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので)


 ❸主語を見つけます。(ありの行列が)
     

 「ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」

(補11) 「要点」のまとめ方を整理しておきましょう。

なぜ、「主語」ではなく「述語」から見つけるのかと言うと、中心文として選んだ文に主語がないことがあるからです(述語がないことはありません)。その場合、周辺の文から主語を特定することになります。
また、上の例では主語はあるのですが、「においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので、ありの行列ができる。」ではまとめ文としてすっきりしません。かといって、「ありの行列が」から始めると、あとの文が続かないのです。「述語」「修飾語」からその「主体」が「あり」であることが分かります。そこから、「ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」という要点にたどり着くのです。

 文のまとめ方について。
○文末表現を常態にする。
○できるだけ短くする。修飾語や副詞などで可能な部分を省く。
○指示語はそれが指しているもとの語に置き換える。

 

㋖「終わり」のまとまりでは、「答え」の文が中心文であり、⑨段落の要点になることをおさえました。

 

 

(2)第2時-本論の読みⅠ

 

③段落では、事実と意見の関係をとらえる読み方を指導します。子どもには、「3種類の文に分かれて読もう」という課題を示しました。

 

文を意識させるため、③段落は次のようなプリントをしました。言葉が途中で切れないように改行(補1)しているのも、本読みが苦手な子へのてだてです。

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(補1) いつもいつもそうする必要はありませんが、改行時に読みが詰まる子がいる場合は、一度試してみるといいです。ちょっとした工夫でハードルが低くなることがあります。

 

3人グループを作り、❶「調べる方法」の文❷「調べた結果」の文❸「分かったこと、考えたこと」の文に分かれて役割音読するように指示しました。

当然のことながら、子どもの読みは各グループでバラバラになりまし。バラバラになることで、「どの文がどの種類の文なのか?」という問いを引き出そうという仕掛けです。

 

「問い」が共有されたら、解決のための仕掛けに移ります。今回は劇化を取り入れます。劇化により、読みの苦手な子が視覚的に理解します。(補2)

(補2)  劇化(簡単な動作化を含めて)は、授業を視覚化(ビジュアルに)するための代表的な手法です。他にもペープサート、挿絵や写真の活用、キーワードやキーセンテンスのカードの活用などの視覚情報によって理解を進めるのです。私のわずかな経験からでも、特別な支援が必要な子に限らず全ての子に有効です。授業が活性化します。


まず、どんな役が必要か尋ねました。「ウィルソン」「はじめのあり」「たくさんのあり」「読む人」が出され、役割を決めました。砂糖の山と巣の場所を設定し、ちょっとした劇が始まります。子どもたちは、もうそれだけで楽しくて仕方ないのです。


読み手が1文読み、それに関係する役者が動きます。動きの後、「今の動きで良かったか?」「もっといい動きにするには?」「この文には動きがあったかな?」と話し合い、次の1文にすすんでいきます。

 

劇のあと、3種類の文は劇のどんなところに注目して区別すればいいのか、ペアで話し合い、全体で話し合いました。(補3) そして、
○「方法」の文--ウィルソンの動き
○「結果」の文--ありの動き
○「分かったこと」の文--動きがない
と分けられることを確認しました。

  (補3)  「指導の工夫」と「個別の配慮」について触れておきます。ペアで話し合い、全体で話し合うという手順は、全ての子どもが学習活動に参加するための、あるいは発言しにくい子が言えるようにするための「指導の工夫」です。そうすることで大半の子どもの学習は進みますが、中には話し合いがうまく進まないペアもあります。そうした子どもたちに声を掛け、話し合いをリードしてやるのが「個別の配慮」です。
特に算数などでは、授業時間だけではカバーしきれず、事前や事後の指導を行う「特化した配慮」が必要になることもあります。

 

3人グループに戻り、教材文に「方法-青」「結果-赤」「分かったこと-黒」のサイドラインを引かせました。(補4)

そして再度、文の種類を考えながら役割音読を行いました。今度はバッチリです。

(補4)子どもの読みは各グループで子どもの読みは各グループで とても些細なことですが、サイドラインの色を使い分けるだけで授業が「見える化」し、子どもの理解がぐんと進みます。指導の工夫というのは、こうした小さな積み重ねなのです。

 

授業のまとめでは、動きのある文は「ました」(過去形)で書かれていて「事実」の部分、動きのない文は「です」(現在形)で書かれていて「意見」の部分である(補5)ことを教えました。

 (補5)  1時間の授業が、すべてこのまとめ部分に集約されることを感じ取っていただけたでしょうか。授業を「焦点化(シンプルに)」するというのは、こういうことなのです。
先にも書きましたが、国語科という教科の本質が理解できていないと、焦点化を図ることはできません。このことについては、別の機会に詳しく解説します。

 

 

(3)第3時-本論の読みⅡ

 

④段落をペアで1文交代音読したあと、③段落の観察カードを例示し、「ウィルソンになって、実験の観察カードにまとめよう」と課しました。

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テキストを閉じさせ、④段落のセンテンスカードを黒板に掲示し、子どもたちにも配りました。(補1) 文の順番は大幅に変えてあります。(補2) これによって、子どもがどんな順序で実験したのかという課題意識を持つことになります。

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 さらに、思考の補助具として「あり」と「たくさんのあり」のさし絵を配り、(補3)ペアでカードを並べ替えさせました。その際、接続語に着目することを付け加えました。
ペアでの作業は、その組み合わせによってバラツキが大きいです。子どもたちに任せてしまったのですが、困難が予想されるペアには積極的に介入して司会役をした方がよかったかもしれません。失敗から学ぶと考えるか、成功体験こそが大事だと考えるか、ケースバイケースの判断が求められます。


  (補1)  黒板に掲示するセンテンスカードのミニチュア版は、遠い板書のカードを読むことより、手元のカードを実際に操作しながら考えられることがポイントです。「個別の配慮」を要する子がいる時は、特に有効です。
 (補2)  順序を変えるというのは、授業の「しかけ」の1つです。「しかけ」は、子どもにやりたいという気持ちにさせるためのものです。
  (補3)  挿絵カードは、前時の劇化と同じく授業を「見える化」するための道具です。絵カードを文章に合わせて動かすことで、内容がイメージできます。

 

ペアで発表したあと、全体で動作化により確かめていきました。そして、オ→ケ→カ→ク→エ→イ→ア→オ→ウの順であることを確認しました。

 

いよいよ、前時の活動を生かしながら観察カードにまとめる段階です。

まず、センテンスカードを「調べ方」「結果」「分かったこと」に分けさせ、記号に青・赤・黒の丸を付けさせました。

そして、観察カードの該当箇所にセンテンスカードを貼らせた。最初の計画ではカードに書かせるつもりでしたが、それに要する時間を考えて貼り付ける方法にしました。


「分かったこと」は、「帰るときも、行列の道すじはかわりません。」という1文ですが、これでは不十分です。そこで、「帰るときも」の「も」の役割に着目し、「行く時はどうなっていたのか」と問いました。欠落している主語も補う必要があります。

次のように整理しました。

「ありの行列は、行くてをさえぎってもまたできるし、帰るときの道すじも変わらない」

 

 

(4)第4時-本論の読みⅢ


⑥段落は、キーワードを抜いた要点の文を示し、テキストから答えを見つけさせました。

「ウィルソンは、はたらきありの体のしくみを研究してみると、ありはおしりのところからとくべつのえきを出すことが分かった。」

 

⑦段落は、「この研究から、ウィルソンは、ありの行列のできるわけを知ることができました。」という1文です。

これをできるだけ短くまとめるように指示しました。ペア学習で、いい場面に出会いました。一人は、「ありの行列のできるわけを知った。」とまとめていました。それを見た他の一人が、「主語がないとダメだろ。」と助言しました。第1時の学習が生きています。

(補) 「三段構成」、「尾括型」というのは、文章全体に限定したことではありません。

本教材では、「中」のまとまりが「事例Ⅰ」「事例Ⅱ」に細分されました。そして、その両方が「三段構成」になっていて、「はじめ」に「問い」があり「終わり」に「答え」があります。これは、他のたいていの説明文教材においてもそうです。


さらに、意味段落に限らず1つ1つの形式段落においても、多くの場合は最後の文が中心文という「尾括型」になっています。ときどきは「頭括型」や「両括型」の段落もあります。いずれにしても、段落の要点をまとめる際には、最初と最後の文を読めば中心文が見つかるわけです。このことが分かると、子どもの要点文の精度は見違えるほど速く正確になります。


さらにさらに、「尾括型」を自分のものにした子どもたちは、テストの長文問題の読解や算数科の全国テスト「B問題」なども苦にしなくなります。押さえどころが掴めるからです。


さらにさらにさらに、「尾括型」「頭括型」「両括型」は「話す」「書く」といった表現活動で活せます。「三段構成」の学習は、小学校学力のキモ中のキモなのです。

 

 

(5)第5時-要約


授業の冒頭、各ペアにストップウォッチを持たせ、できるだけ速く役割音読するように求めました。

どんなにがんばっても2分以上かかります。タイムを確認して、「1分以内で文章の内容を伝えてほしい。どうすればいいか考えよう。」と課題を出しました。要約の必要感を持たせるための仕掛けです。

 

そこで、段落の要点を書いたセンテンスカードを黒板に貼った。

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ここでは一覧表になっていますが、実際には「はじめ」の①は水色模造紙、「中」の②から⑧は黄色模造紙、「終わり」の⑨は桃色模造紙に印字したセパレートカードになっています。「視覚化」です。

 

①のカードを読んだ途端、子どもから「おかしい」という声が上がりました。「間違っている」と言います。「先生が間違えるはずないだろ。」と言うと、「ありの行進ではなく、行列だ。」と言い張ります。「そうだっけ?」ととぼけてノートを振り返らせたあたりから、子どもが前のめりになってきました。


②からはペアで間違い探し読みをさせました。ペアによる問題解決、説明活動、さらには友だちの発言の再現・解釈といった活動は、「共有化」のためのてだてです。この間違いセンテンスカードも筑波大付小の桂さんの授業からもらったものですが、自分でも驚くほど子どもに受けました。

 

正しい要点文ができあがったので、①から⑨を通して読んでみようと呼びかけました。ストップウォッチを持っていた子どもたちは、その所要時間がおよそ1分であることに気づきました。

そこで、全文要約は段落の要点をつなげて話せばいいこと、必要な接続語を補足することなどを確認しました。--これが一般的な要約文です。

 

桂さんはこれを「書き手の要約」とよび、それを「読み手の要約」(時間の長短や知りたい事柄などの条件に応じた要約)につなげる授業を見せてくれました。それを真似て、「書き手の要約から読み手の要約へ」というのが「焦点化」した課題です。

 

「おうちの人は忙しいので、1分間も聞いてられないかも…。今度は20秒程度で話せないかな。」と投げかけてみました。

考えていく中で、カードの色の違いが文章構成を表していることに気づきました。

そして、「はじめ」の①、「中」のまとめである⑧、「終わり」の⑨をつないでいったのです。


「10秒以内だったらどうする?」と聞くと「①と⑨のカード」、「5秒以内だったら?」と聞くと「⑨だけ」と、時間の長短による要約の仕方を掴んでいきました。


最後に、「どのようにしてありの行列のでき方が分かったの?」と聞かれたら、「中」の部分を詳しく話せばいいことなどを伝えて、授業を終えました。

 「要点」、「要約」、「要旨」について若干補足します。

 ■ 「要点」…形式段落を短くまとめたもの。段落の中心文を見つければよい。
 ■「要約」…文章全体を短くまとめたもの。基本的には、各形式段落の要点をつないでいくと「要約」になる。
 ■「要旨」…その文章で筆者がもっとも言いたいこと。一般的に「まとめ」の段落の「要点」が「要旨」である。上の例では「⑨だけ」というのが「要旨」になる。

教科書や教科書会社の指導書には、「要約」と「要旨」の混同・誤用が目立ちます。きちんと区別して使い分けてほしいものです。  
       

 

 国語教材を使った授業のユニバーサルデザイン化について、より理解を深めるには、白石範孝さん(筑波大学附属小学校、現在は明星大学教授)の『白石範孝の国語授業の教科書』(2012年 東洋館出版社)と『白石範孝の国語授業の技術』(2013年 東洋館出版社)、桂聖さんの『国語授業のユニバーサルデザイン―全員が楽しく「わかる・できる」国語授業づくり』(2011年 東洋館出版社)が最良のテキストです。また、具体的な授業づくりには、桂さんの『教材に「しかけ」をつくる国語授業10の方法 文学アイデア50』(2013年 東洋館出版社)『教材に「しかけ」をつくる国語授業10の方法 説明文アイデア50』(2014年 東洋館出版社)がお薦め。