教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

Repost: 教師入門③ ~国語力を磨こう(その2)~

2021年1月23日、ブログ「教育逍遙」は開設から満1年を迎えました。

この間、週5回の投稿を基本に265本の記事を公開してきました。

今は幾人もの方に読んでいただいていますが、開設当初はほとんど認知されることはありませんでした。その一方で、開設に至った「思い」は初期のブログに凝縮されていました。

開設から1年を機に、初期の記事を再掲し、これから教壇に立つ方や教壇に立ってまだ日の浅い方にお届けしたいと思います。

 

 

国語力を磨こう⑤ 要点

 

10 要点の取り出し方

 

要点の取り出し方・表現の仕方の《ワザ》

 

中心文をもとに要点を考える

 

〈ヒント〉

(1)指示語はもとにもどす

(2)話題が入っているか

(3)中心語句はどうか

(4)表現する時の字数に注意する

(5)かざりの役目をしている部分はどうか

 

 

ここからは、下村さんの著書を離れて解説を加えます。

 

ここで、説明的な文章の3つの型について触れておきましょう。

 

①尾括型文章…結論を終わりに持ってくる書き方

 

②頭括型文章…結論を初めにおく書き方

 

③両括型文章…結論を初めに書き、説明を加えて、最後にまとめる書き方

 

 

小学校の教科書教材は、ほぼ①の尾括型文章です。それは文章全体についてもそうですし、1つ1つの段落においてもしかりです。

したがって尾括型文章において、各段落の中心文は段落の最後の1文になります。この1文をもとに要点をまとめます。要点は3年生で指導しますが、学年が上がると、中心文はまれに頭括型のこともあるし、両活型のこともあります。しかし、基本は尾括型ですので、まずおしまいの文に着目すると覚えておきましょう。

整理すると、

「要点」は、形式段落を短くまとめたものです。段落の中心文を見つけます。尾括型文章では、最後の文が中心文になります。

 

要点をまとめる演習です。

 

「ありの行列」(光村図書、3年)という教材に、

「 このように、においをたどって、えさの所に行ったり、帰ったりするので、ありの行列ができるというわけです。」

という文があります。この文の要点をまとめます。

 

■まず、述語を見つけます。

述語は「できるというわけです」。

要点をまとめる時は文末表現を常態に統一するように指導します。したがって、「できるというわけだ」となり、さらに短くして「できる」とします。

 

■述語に対応する主語を見つけます。

「できる」のは何かを探します。「ありの行列が」が主語です。

 

■述語を修飾している語句を見つけます。

「においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので」

文のまとめ方のポイントは、
    ○文末表現を常態にする。
    ○できるだけ短くする。修飾語や副詞などで可能な部分を省く。
    ○指示語はそれが指しているもとの語に置き換える。

の3点ですが、今回は省く部分も指示語の置き換えもありません。

 

■要点をまとめる

(このように)は、文章構成を考える上で必要です。

「(このように)においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので、ありの行列ができる。」となります。

しかし、これではまとめ文としてすっきりしません。かといって、「ありの行列が」から始めると、あとの文が続きません。

「述語」「修飾語」から、その「主体」が「あり」であることが分かります。3年生にはちょっと高度ですが。

そこから、

「ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」

という要点にたどり着くのです。

 

 

国語力を磨こう⑥ 要約/要旨

 

11 要旨の取り出し方

 

要旨の取り出し方・表現の仕方の《ワザ》

 

中心段落の要点をもとに要旨を考える

 

〈ヒント〉

(1)話題が入っているか

(2)中心語句はどうか

(3)指定された字数に注意する

(4)かざりの役目をしている部分はどうか

 

 

下村さんの著書の紹介はここまでです。詳しく読みたい、掲載されている練習問題を解いてみたいという方は、古書を探してください。

 

さて、学校の先生たちがよく使っている参考書に、教科書会社が出している教師用指導書があります。

驚くべきことに、何年か前までのある指導書は、「要約」と「要旨」の区別がなく誤用もありました。「要旨」をまとめる授業を見た指導助言者が、「もう少し詳しく…」と、それでは要約じゃないかというような「誤」指導をされる場面も目にしました。

両者は、明確に違います。

 

「要約」…文章全体を短くまとめたもの。基本的には、各形式段落の要点をつないでいくと「要約」になります。


「要旨」…その文章で筆者がもっとも言いたいこと。一般的に「まとめ」の段落の「要点」が「要旨」です。

 

 

要約について詳しく見ていきましょう。

要約の基本は形式段落の要点をつないだもので、「あらすじ」と言うこともあります。

 

たとえば、「ありの行列」の要点は次のようになります。

 

①なぜ、ありの行列ができるのだろうか。                            
②ウィルソンという学者が実験とかんさつをした。               
③ありの行列は、はじめのありが巣に帰るときに通った道すじから外れていない。             
④ありの行列は行く手をさえぎってもまたできるし、帰るときの道すじも変わらない。                                      
⑤ウィルソンは、はたらきありが地面に何か道しるべになるものをつけておいたのではないか、と考えた。                             
⑥ウィルソンは、はたらきありの体のしくみを研究した。                                 
⑦ウィルソンは、ありの行列ができるわけを知った。                                                       
⑧はたらきありは、えさを見つけると、道しるべとして地面にえきをつけながら帰り、ほかのありたちは、においにそって歩く。 
⑨ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。

 

形式段落①~⑨の要点をつないで、「このように」などの接続詞を入れると要約文(あらすじ)になります。ちなみに、「⑨ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」が、この文章の要旨になります。

 

要約の「基本」の先には、「応用」があります。それには「三段構成」についての理解が欠かせません。次回のテーマです。

 

 

国語力を磨こう⑦ 三段構成

 

小学校の教科書に出てくる説明文(論理的な文章)は、ほぼ次のような文章構成になっています。

 

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「序論(はじめ)」「本論(なか)」「結論(おわり)」という文章構成を、「三段構成」といいます。

 

そして、小学校の説明的文章は、そのほとんどが尾括型の文章です。

 

つまり、

「序論(はじめ)」には、「問題提示(問い)」が、

「本論(なか)」には、説明や具体的な事例が、

「結論(おわり)」には、「結論(まとめ)」が書かれています。

 

したがって、小学校における説明文(論理的な文章)教材では、尾括型の三段構成の文章の読みを繰り返し繰り返し指導することになります。

 

「三段構成」ーー3つの大きなまとまりという文章構成図を常に意識します。

教科書によっては、「4つのまとまりに分けましょう」などという指示が出てきます。よく見ると、実験・観察の事例が2つあります。

この場合、「4つのまとまり」ではなくて、「3つのまとまり」の「本論(なか)」部分が2つに分かれているのです。

 

 

国語力を磨こう⑧ 要約(その2)

 

要約は、各形式段落の要点をつないだものです。

 

「ありの行列」では、次のようになりました。

 

①なぜ、ありの行列ができるのだろうか。                            
②ウィルソンという学者が実験とかんさつをした。               
③ありの行列は、はじめのありが巣に帰るときに通った道すじから外れていない。             
④ありの行列は行く手をさえぎってもまたできるし、帰るときの道すじも変わらない。                                      
⑤ウィルソンは、はたらきありが地面に何か道しるべになるものをつけておいたのではないか、と考えた。                             
⑥ウィルソンは、はたらきありの体のしくみを研究した。                                 
⑦ウィルソンは、ありの行列ができるわけを知った。                                                       
⑧はたらきありは、えさを見つけると、道しるべとして地面にえきをつけながら帰り、ほかのありたちは、においにそって歩く。 
⑨ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。

 

今回は、これに「三段構成」を重ねてみます。

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   ⑨       ⑧⑦⑥⑤④③②     ①

 

「序論」には①段落が入り、ここには「問い」があります。

「本論」には②~⑧段落が入り、具体的な実験・観察について述べています。そのまとめが⑧段落になります。

「結論」には⑨段落が入り、「問い」に対する「答え」が書かれています。

 

さて、この文章の要約を短くまとめるとどうなるでしょう。テスト問題なら「○○字以内にまとめよ」、授業場面なら「○○秒以内で話せ」といった課題になります。

 

三段構成の各まとまりから代表を選びます。「序論」と「結論」は候補が1つですから、自ずと決定。「本論」は7つの候補がありますが、本論のまとめである⑧段落を選出。

できあがった要約文は、

「①なぜ、ありの行列ができるのだろうか。⑧はたらきありは、えさを見つけると、道しるべとして地面にえきをつけながら帰り、ほかのありたちは、においにそって歩く。 
(このように)⑨ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」

となります。

 

さらに短くするには、「本論」を省いて「問い」と「答え」だけにします。

「①なぜ、ありの行列ができるのだろうか⑨ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」

 

さらに短くすると、究極の要約文は「結論」の⑨段落のみになります。これすなわち「要旨」なり。

 

こうした字数制限付き、秒数制限付きの要約文を自在に操れるようになること、それが「国語力を磨こう」シリーズの到達点です。

 

 

国語力を磨こう⑨ なぜ国語力なのか

 

教壇に立つ前に、なぜ国語力を磨こうなのか。最後にもう一度、そのことについて詳しく書きます。

 

話は21世紀初頭に遡ります。

経済協力開発機構( OECD)による国際的な生徒の学習到達度調査(Programme for International Student Assessmentの頭文字を取ってPISAと言います)が、2000年から3年おきに実施されています。

この調査は、義務教育修了段階(15歳)において、これまでに身に付けてきた知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを 読解力、 数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野から測るものです。

初回2000年の日本の成績は、読解力8位、 数学的リテラシー1位、科学的リテラシー2位でした。そして迎えた2003年の第2回テストで、日本の成績は読解力14位、 数学的リテラシー6位、科学的リテラシー2位に沈みました。

これが、2003年の「PISAショック」といわれるものです。

 

当時の日本は、2002年度に新しい学習指導要領が実施され、「生きる力」を育む「総合的な学習の時間」がスタートしたばかりでした。これは、知識偏重の詰め込み教育を是正するものでもありました。

 

そこへ突然の「PISAショック」です。

 

潮目は一気に変わりました。

 

変化はいわゆる「テスト学力」へ重心を戻すものでしたが、単なる過去への回帰ではありませんでした。端的に言えば、国際水準となりつつあるPISAが求めている学力(PISA学力)を高める、そのためには基礎学力も高めるという路線です。

 

PISA学力における読解力とは、論理的な文章を読み解く力です。あるいは図表やグラフなどの非活字資料から必要な情報を取捨選択し、論理的に活用する力です。

数学的・科学的リテラシーの「リテラシー」は、「適切に理解・解釈・分析し、改めて記述・表現する」という意味あいの言葉です。ここでも論理的な力が求められていることが分かります。

つまり、PISA学力というのは論理力なのです。

 

そうした経緯から、いま求められている学力とは論理力です。

そして、論理的思考力・論理的表現力の基礎となる力は、国語科の説明的文章の授業に負うところが大きいのです。私の経験で言えば、国語科で身に付けた論理的な力は、算数の文章題や他教科の学習に大いに役立つものです。さらに、アクティブラーニングが本格的に導入されれば、論理力はいっそう重要になります。

 

いまどきの学力が求めている読解力・表現力は、尾括型の論理的文章を読み取り、頭括型または両括型で表現する力です。

 

小学校の説明文教材(論理的文章)は、基本的に結論が最後にある尾括型の文章です。文章構成としては「はじめ(序論)-なか(本論)-おわり(結論)」の三段構成で、内容的には「問い(話題提示)-説明-答え(主張)」となっています。

つまり、小学校における説明文教材の指導とは、三段構成を正しく読み取る力をつけることなのです。


こうした身につけた三段構成を正しく読み取る力は、表現力に生かされます。

 

意見を述べたり、討論に参加する際には、頭括型が基本になります。

まず結論を言う、そのあとに理由を述べるというものです。


長めに意見を述べたり意見文を書いたりするときは、両括型を使います。

つまり、まず結論、そのあとに理由、最後にもう一度結論というパターンです。

 

いずれにしても、三段構成の読み取りで培った力が生きてくるのです。

国語力が、多教科の学力の基盤となり下支えすると言ってもいいでしょう。

そのためには、まず教師がその力量を備えなければなりません。

 

国語力を磨くことは、教師力を磨くことでもあるのです。