2021年1月23日、ブログ「教育逍遙」は開設から満1年を迎えました。
この間、週5回の投稿を基本に265本の記事を公開してきました。
今は幾人もの方に読んでいただいていますが、開設当初はほとんど認知されることはありませんでした。その一方で、開設に至った「思い」は初期のブログに凝縮されていました。
開設から1年を機に、初期の記事を再掲し、これから教壇に立つ方や教壇に立ってまだ日の浅い方にお届けしたいと思います。
国語力を磨こう①
「教壇に立つ前に」の続編になります。
授業の現場に立つ前に、国語力を磨くための学び直しを是非やっておきましょう。
その前に、なぜ国語力なのかということについて触れておきたいと思います。
教育委員会が実施する初任者研修や経年研修には、教員の国語力あるいは日本語指導力を高めるプログラムがありません。ICTや英語などでは、悉皆研修(全員義務参加の研修)を行う教委もあるのに…。
なぜ日本語指導の基礎を学ぶ悉皆研修はないのでしょうか。答えは明白です。教育委員会にも教員自身にも、日本語は母語として毎日使っているから指導できるという前提があるからです。ところが、私の知る限りにおいて、この前提はかなり怪しいと言わざるを得ません。
小学校で受けた説明文教材の授業が楽しかった、好きだったという人はどれほどいるでしょう。科学読み物が好きだった人でも、授業はつまらなかったという人が案外多いです。なぜか。教師が何をどう指導すればいいのか分からなかった、つまり授業が拙かったからです。
2003年のPISAショック(詳細は別の機会に書きます)以降、求められている学力とは論理力(これについても別の機会に書きます)です。論理的思考力・論理的表現力の基礎となる力は、国語科の説明的文章の授業に負うところが大きいです。私の経験で言えば、国語科で身に付けた論理的な力は、算数の文章題やその他の教科の学習に大いに役立つものです。さらに、アクティブラーニングが本格的に導入されれば、論理力はいっそう重要になります。
つまり、国語力を磨くことは、教師力を磨くことでもあるのです。
しかるに、教師の国語力は…。
兎にも角にも、まずはトライしてみてください。
テキストには下村昇さんの『下村式・国語教室3 わかってる先生の読みとり講義』(論創社〈1999/06〉2000円+税)という本がお薦めなのですが、2020年1月時点では絶版もしくは重版未定で古書しか入手できません。(2021年1月時点においても同様)
本シリーズでは、私が2009年に教材化したものをベースに、下村さんの著書のアウトラインを紹介していきたいと思います。
次回より、いざ!
国語力を磨こう② 文/主語・述語
初回は、「文」と「主語・述語」です。小学校低学年で指導する内容です。
1 文章を文ごとにわける
文章を文ごとにわける《ワザ》
(1)どこまでが「。」(マル)かをさがす。
(2)マルが見つかったら、文頭に①②③…と番号をつける。
【練習】身近にある文章を用意してください。いくつの文に分けられるでしょう。文のはじめに番号①②…をつけましょう。
※ 文に分けるポイントは、「。」です。そんなこと分かってるってことは分かってますが、このポイントが指導する立場になった時には押さえるべきポイントになるのです。以後、太字部分は自身の理解の振り返りポイントであると同時に、指導する際のキーポイントとしてマスターしていってください。
2 会話文の四つの型
(1)サンドイッチ型…文の真ん中に「 」のあるもの
・弟が、「さあ、食べよう。」と言いました。
(2)前づけ型…文の始めに「 」のあるもの
・「はい」と、私は答えました。
(3)後づけ型…文の終わりに「 」のあるもの
・お母さんがよびました。「まさこ、おいで。」
(4)ひとりだち型…会話だけで一文になっているもの
・サンボを食べようとしました。
「ぼくを食べないでください。…。」
とらは、サンボの赤いうわぎをとりあげました。
3 主語・述語を見分ける
主語・述語を見分けるヒント
(1)主語は、「…は~。」「…が~。」のように、「は」や「が」のつくことばを見 つけ出す。
(2)述語は主語に対して、それが〈どうだ〉〈なんだ〉〈どんなだ〉を表していることばをさがす。マルがついた文の終わりのことばをさがす。
(3)主語が分からないときは、述語を先にさがす。そして、〈そうなったのは なにか〉と考える。
【練習】身近にある文章を用いて、主語に傍線を引き、述語を四角で囲みましょう。
(3)の例として、次のようなものがあります。
・春休みの一日、家族そろって動物園に行った。
この文には主語がありません。学習理解に課題をもつ子には、(1)・(2)のやり方と(3)のやり方が別種の課題として映ることもあります。はじめから(3)のやり方で指導すれば、そうした子の混乱を避けられますし、2倍の負担を強いることもありません。
まず、述語を見つける。そして、それに対応する主語を見つける。ーーこのやり方は、先の例文の主語を問うような問題に有用です。「行った」のは誰かと少し前の文をたどって「私は」という言葉があれば、それが主語になります。また、こうした文の要点をまとめる時も、主語を補って「私は、…行った」となります。
国語力を磨こう③ 修飾語
4 修飾語(かざりことば)をさがす
修飾語(かざりことば)をさがす《ワザ》
(1)主語と述語を見つけて線を引く。
(2)残りがかざりことばなので、カッコで囲む。
〈ヒント〉
主語の「かざりことば」は、必ず主語の上の方に、述語の「かざりことば」は、必ず述語の上の方にある。ただし、すぐ上とは限らない。
【練習】身近にある文章を用意してください。文の主語にはを傍線引き、述語には二重線を引きます。そして、修飾語をカッコで囲って、その修飾語がどのことばをくわしくしているのか、→で印をつけます。
修飾語は、小学校3年生の指導内容です。
修飾語自体は決して難しいものではないでしょう。「主語の『かざりことば』は、必ず主語の上の方に、述語の『かざりことば』は、必ず述語の上の方にある。」ということをきっちり押さえておくことが重要です。修飾・被修飾の関係を矢印で明示する作業は、その定着に役立ちます。
私の家に中学3年になる知人の子どもが勉強に来ています。受験に向けて問題を解いていると、品詞分けと係り受けの問いが出てきます。彼には係り受けの原則が定着しておらず、矢印付けに四苦八苦しています。小学校の課題です。
国語力を磨こう④
話題/中心語句/中心文/中心段落
今回は、ワザの紹介のみです。話題、中心語句、中心文、中心段落で扱っているワザは、そのあとに続く要点、要約、要旨の指導で具体的に生きてきます。詳しくはそれらの際に触れます。
2009年に私が担任した5年生のクラスは、前年に学級崩壊を経験し、極端な学力不振に陥っていました。国語の学び直しのために、いま紹介している教材を作りました。そして、教室の後ろの壁面には、各ワザをA3サイズにラミネートして掲示していました。課題に出会うたびに、「はい、後ろを見て」とやっていたわけです。
今は読み流していただいて結構ですが、いつか役立つ日が来るかもしれません。
5 話題のとらえ方
話題のとらえ方の《ワザ》
文のつながりぐあいから「話題」をとらえる。
〈ヒント〉
(1)はじめの文の主語はどうか
(2)終わりの文の主語はどうか
(3)何回も出てくることばはないか
6 中心語句の取り出し方
中心語句(キーワード)の取り出し方
《ワザ》1
話題をとらえる。それが中心語句。
《ワザ》2
話題を頭において文章全体を読み、その〈話題を支えていることば〉をとらえる。
〈ヒント〉
(1)何回も出てくることばに気を付ける
(2)一回しか出てこない場合もある
7 中心文の取り出し方 1
中心文の取り出し方
《ワザ》1
まとめのところ、結果や結論のところを取り出す
その取り出したものが中心文である
〈ヒント〉…《ワザ》1・2共通
(1)接続語や指示語に気を付ける
(2)はじめの文はどうか
(3)終わりの文はどうか
8 中心文の取り出し方 2
中心文の取り出し方
《ワザ》2
(1)次のところは取り除く
・わけのところ
・たとえのところ
・くわしくしているところ
・付け足しのところ
・くり返しのところ
(2)残った文をもとに中心文を考える
9 中心段落の取り出し方
中心段落の取り出し方の《ワザ》
(1)段落(形式段落)ごとに番号を付ける
(2)段落を短くまとめる(要点)
(3)段落(要点)相互の力関係を考える
(4)力の集まっている段落が中心段落
〈ヒント〉
(1)接続語はどうか
(2)はじめの段落はどうか
(3)終わりの段落はどうか
国語力を磨こう⑤ 要点
10 要点の取り出し方
要点の取り出し方・表現の仕方の《ワザ》
中心文をもとに要点を考える
〈ヒント〉
(1)指示語はもとにもどす
(2)話題が入っているか
(3)中心語句はどうか
(4)表現する時の字数に注意する
(5)かざりの役目をしている部分はどうか
ここからは、下村さんの著書を離れて解説を加えます。
ここで、説明的な文章の3つの型について触れておきましょう。
①尾括型文章…結論を終わりに持ってくる書き方
②頭括型文章…結論を初めにおく書き方
③両括型文章…結論を初めに書き、説明を加えて、最後にまとめる書き方
小学校の教科書教材は、ほぼ①の尾括型文章です。それは文章全体についてもそうですし、1つ1つの段落においてもしかりです。
したがって尾括型文章において、各段落の中心文は段落の最後の1文になります。この1文をもとに要点をまとめます。要点は3年生で指導しますが、学年が上がると、中心文はまれに頭括型のこともあるし、両活型のこともあります。しかし、基本は尾括型ですので、まずおしまいの文に着目すると覚えておきましょう。
整理すると、
「要点」は、形式段落を短くまとめたものです。段落の中心文を見つけます。尾括型文章では、最後の文が中心文になります。
要点をまとめる演習です。
「ありの行列」(光村図書、3年)という教材に、
「 このように、においをたどって、えさの所に行ったり、帰ったりするので、ありの行列ができるというわけです。」
という文があります。この文の要点をまとめます。
■まず、述語を見つけます。
述語は「できるというわけです」。
要点をまとめる時は文末表現を常態に統一するように指導します。したがって、「できるというわけだ」となり、さらに短くして「できる」とします。
■述語に対応する主語を見つけます。
「できる」のは何かを探します。「ありの行列が」が主語です。
■述語を修飾している語句を見つけます。
「においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので」
文のまとめ方のポイントは、
○文末表現を常態にする。
○できるだけ短くする。修飾語や副詞などで可能な部分を省く。
○指示語はそれが指しているもとの語に置き換える。
の3点ですが、今回は省く部分も指示語の置き換えもありません。
■要点をまとめる
(このように)は、文章構成を考える上で必要です。
「(このように)においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので、ありの行列ができる。」となります。
しかし、これではまとめ文としてすっきりしません。かといって、「ありの行列が」から始めると、あとの文が続きません。
「述語」「修飾語」から、その「主体」が「あり」であることが分かります。3年生にはちょっと高度ですが。
そこから、
「ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」
という要点にたどり着くのです。
以下、「国語力を磨こう(その2)」に続く