教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

学級集団の特性をとらえよう ~Q-Uのすすめ~

学力を測る物差しは、例えば標準化されたテストなどの形で存在します。

集団を測る物差しはと言うと、私はその存在を知りません。そもそも「目標」も「到達度」も担任次第です。


「ウマくいっている学級」「ウマくいっていない学級」という言い方をしますが、ウマさ加減の基準がないのです。

傍から見れば非常にいびつに見えても、当事者はウマくいっていると思っていることもあります。ウマくいっていると思っている学級でも、すべても子どもがそう感じているとは限りません。

 

学級集団の有り様を客観的に測る「物差し」があれば、その症状に応じた「処方箋」も用意できるはずです。これから紹介する「Q-U」は、そうした「物差し」の一つです。

 


1 Q-Uとは

 

Q-Uは、早稲田大学教授河村茂雄さんによって1994年に開発されました。

 

Q-Uは、 QUESTIONNAIRE-UTILITIES(楽しい学校生活を送るためのアンケート)の略。学級集団の状態や、子ども一人一人の意欲・満足感などを測定できるとされる。

クラス全体の状態を把握する「学級満足度尺度」は、一人一人の結果を右のような図に落として分析する(下のサンプル図を参照)。縦軸はクラスに居場所があるかを示す「承認得点」、横軸はいじめなどの侵害行為を受けているかを示す「被侵害得点」。

クラスの状態は4象限のうち右上の分布が多いほど良く、左下が多いほど悪いと判定される。右下の「非承認群」の子はクラス内で認められることが少なくて意欲が低く、左上の「侵害行為認知群」の子は自己中心的な面や被害者意識が強いとされる。

上の図(下のサンプル図を参照)で、左側のような状態のクラスでは子どもたちは教師の言うことをきかなくなり、互いに傷つけ合う行動が目立つとされる。上手に対策を施すと右側のような状態となり、子どもたちが積極的に行動し活気と笑いのあるクラスになるという。
                                           ( 2010-10-10 朝日新聞 朝刊 教育1 )

   

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                             (サンプル)

 

Q-Uテストは、「いごこちのよいクラスにするためのアンケート」と「やる気のあるクラスをつくるためのアンケート」の2つからなっています。

 

そして、アンケート結果からは、次のようなデータが出ます。

1.学級満足度尺度
 「友達にいやなことをされると感じるか(被侵害得点)」「先生や友達に認められてい ると感じるか(承認得点)」という2つの側面から、子どもたちの学級生活の充実度がわかります。
2.学校生活意欲尺度
 友達、学習、学級の3領域について、子どもが積極的に取り組んでいるかどうかがわかります。

 

Q-Uは図書文化社が取扱窓口となっており、検査用紙等は同社から購入します。検査用紙は小学1~3年用と小学4~6年用に分かれていて、いずれも1部200円。費用としては@200×実施人数(円)と、実施要領・小学校用が300円必要になります。

 


2 Q-Uを教室へ

 

少し古いですが、河村茂雄さんのいじめに関する新聞記事(2006.11.24 毎日新聞 ほか)等をまとめたものを紹介しましょう。

 

いじめの原因を考えるとき、
              教師と子どもの関係で決まる学級集団の全体的な特性
                                                             に注目すべきである。
      
「管理型」の学級と「なれ合い型」の学級


教師の子どもへの接し方には、①有無を言わせず従わせる指導タイプ、②子どもの言い分を尊重する援助タイプ----がある。①に偏ると「管理型」、②に偏ると「なれ合い型」になる。

 

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「なれ合い型」の学級でいじめが生まれやすい


なれ合い型では、当初は教師と子どもが良好な関係を保つかに見えるが、最低限のルールを明示しないため学級はまとまりを欠き、子ども同士の関係は不安定である。
ルールが示されていない学級では不安定な状態を避けるため、3~4人の小集団が多数生まれる。この小集団は排他的で、共通の秘密や共通の敵(いじめの標的)を作り出すことで結束を強める。
小競り合いが激化して学級崩壊に至るか、発言力のある子どもが他の集団を従え教室を支配する。特定の子やグループの教室内での力が教師の指導力を上回れば、いじめは止められない。


   
教師の毅然たる態度


なれ合いを避けるには、一人一人の声に注意深く耳を傾ける一方で、全体に対しては最低限のルールを毅然とした態度で示し、ルール違反には例外なく厳しい姿勢で臨む必要がある。
また、「管理型」、「なれ合い型」を状況に応じて使い分けながら、満足度の高い学級を維持する 一つの打開策としてエンカウンターとQ-Uがある。

 

 Q-Uによる学級集団の理解
                                                                       河村茂雄


明確な計画がない中でエンカウンターを取り入れても効果は少ない。単なる思いつきや面白そうだったからという理由では系統性のない取り組みになってしまう。これは、「エクササイズ主義」とも呼ばれている。

 

エンカウンターが効果を生むのは、「今、クラスの現状は~だから、○○というエンカウンターをやってみる」という発想でエクササイズを行うときである。今、この学級集団はどんな様子なのか、それに合わせて行うエクササイズはどんなものがよいのかを考えることが大切である。

 

子どもの実態を把握する(=アセスメント)手法には、観察法、面接法、調査法の3つがある。どれが優れているということはなく、3つの手法を組み合わせて用いることで、実態がより的確に把握できる。

 

学級の実態として把握しておきたい視点は2つある。①学級内に確立されているルールの程度と、②リレーションの程度である。ルールの確立の度合いを知っておくことで、活動させる人数や時間、インストラクションなどの構成をどのようにすべきかの目安ができる。またリレーションの確立の度合いを知っておくことで、エクササイズの内容だけでなく、エクササイズでねらう事項を絞り込むことができる。

 

「楽しい学校生活を送るためのアンケート(Q-U)」を使うことで、学級内のルールとリレーションの状況を短時間で測定することができる。「Q-U」で、子ども個々の実態を把握した後、観察法や面接法を加えると、かなり具体的なアセスメントが可能となる。 エンカウンターを実施する際、「Q-U」を使ってアセスメントを行い、結果を比較していくことで実施効果の測定も可能である。

 

Q-Uは、“児童生徒の意識”に加えて“学級集団の状態”が映し出されることから、いじめや不登校、学級崩壊の兆候を捉え、その未然防止とよりよい学級づくりに生かすことができます。特に、視覚的に提示された情報をもとに、教師が複数の目で一つの学級について話し合うための手がかりを与えてくれることが特長です。

 

満足度の高い学級を維持する 一つの打開策としてエンカウンターとQ-Uがある」と河村さんが述べておられるエンカウンターについては、構成的グループエンカウンター(略称 SGE)がお勧めです。単にエンカウンターではなく、「構成的」「グループ」エンカウンターであることに意味があります。SGEに関しては國分康孝さんが理論的指導者で、実践書も多数出版されています。

 

 構成的グループエンカウンター(SGE)とは
                                                            
エンカウンターとは「心と心の触れ合い」あるいは「本音と本音の出会い」を意味するもので、構成的グループエンカウンターは、「エクササイズ」と「シェアリング」で構成される。

 

構成的グループエンカウンターは、リーダーを中心に展開する集団学習体験(作業、討議、学習シートなど)を通して自他についての理解を深め、温かな人間関係を築くことにより、行動の変容と人間的な自己成長をねらうものであり、症状の除去や直接問題の解決を図るものではない。


(1) 構成的とは、[方法]のこと。


 時間・人数・場所・活動の内容・ルールなど、枠が決められているということです。
      枠を決めることのメリット
        ◎ 参加者が自分の気持ちをありのままに話すことを促進する。
        ◎ 話し合いの中で傷つけられることが少ない。
        ◎ 指導者にとって実施しやすい。


(2) グループとは、[対象が集団]ということ。

集団の教育力を利用するわけです。


(3) エンカウンターとは、[ホンネとホンネの交流]
ホンネとホンネの交流 = 心と心のふれあい (辞典:出会い、遭遇)

 

 開発的カウンセリングが、子どもたちの人間関係を積極的に育てるための方法として注目されているが、その一つに「構成的グループエンカウンター」がある。


学級で取り組むなかで、子どもたちの相互理解が進むとともに、自己肯定感が高まり、互いに支え合う温かな人間関係が育っていくという効果が見られる。

 

 


3 Q-Uのすすめ

 

私は、Q-Uに出会って以来、自学級で実践しつつ、勤務校全体への普及を図ってきました。
そして、毎学期のスタートからおよそ1か月経過したした時点と年度の中間、年度末の3回、Q-Uを実施し、集計資料を出し合って児童理解の研修会を持っていました。全ての教師が子どもや学級を同じ視点で見られる、子どもや学級を「共通の言葉」で語れるーーそれはすばらしいことです。


教師の経験や勘は大事ですが、どうしても見えていない部分があります。また、子どもの感覚と教師の感覚のズレもあります。Q-Uの結果で気になる子には個人面談を行い、いじめの早期発見の一助にもなっていました。また、学級集団の傾向に応じて積極的に構成的グループエンカウンターのエクササイズを取り入れている学級も出てきました。


学級経営の有効なツールとして、導入をお勧めします。