若い頃、今から30年以上も前のことです。
岐阜大学教授(当時)の柚木馥さんの話を聞く機会がありました。
それは障害児教育の研修会だったのですが、柚木さんは話のなかでフレーベルのキンダーガーデン(幼稚園)に触れられました。さらに続けて、キンダーガーデンを日本に紹介した倉橋惣三について語られました。
倉橋惣三は、その著書『子供讃歌』の最後に聖書の一文を引いてこう書いているそうです。
「汝ら、この小さきものの一人をも謹んで侮るなかれ」
聖書のではなく、幼児教育の祖である倉橋さんを通して紡ぎ出されたこの一文に、私はドキッとしました。と同時に、ショックでした。
私は教師になったその日から、小さきものの一人どころか幾人をも侮り、ずいぶん切り捨ててきたのです。できない子だ、ダメな子だ、悪い子だといって…。
教師は毎日子どもと接することを仕事としているのですが、目の前にいるのが子どもじゃなくて単なる「教育の対象物」になってしまっていることさえあります。恐ろしいことです。
以来、折に触れこのフレーズが頭に浮かび、そのたびに改めて噛みしめてきました。
「汝ら、この小さきものの一人をも謹んで侮るなかれ」
ちなみに、柚木さんによると、障害児教育の理論的創始者である内村鑑三はこう語ったとか。
「教育とは、愛(その子のよさを見つけること)と創造と忍耐(待つこと)と努力である」
ともに学ぶことの多いことばです。