教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(その28) 慣用句「顔から火が出る」

小学校3・4年生の教科書に登場する慣用句の第11回は「顔から火が出る」です。

 

顔から火が出る

 

「顔から火が出る」の読み方

 かおからひがでる

 

「顔から火が出る」の意味

深く恥じ入って赤面する。(広辞苑

 

「顔から火が出る」の使い方

 人前で大失敗を演じ顔から火が出る思いがした

 

「顔から火が出る」の語源・由来

 「顔から火が出る」の由来は、火が赤々と燃えている様子を、恥ずかしさのあまり顔が熱く真っ赤になることにあてはめたものです。

 

「顔から火が出る」の蘊蓄

「顔から火が出る」メカニズム

 「公益社団法人 日本心理学会」のホームページに掲載された『心理学ワールド』84号(2019年1月)所収論文「なぜ顔が赤くなるのか」(鎌倉女子大学児童学部子ども心理学科 教授 廣田昭久氏)の一部を紹介します。

 

なぜ顔が赤くなるのか
─生理心理学的・解剖学的アプローチ

鎌倉女子大学児童学部子ども心理学科 教授
廣田 昭久(ひろた あきひさ)


赤面すなわち顔の紅潮は顔面の皮膚血管の拡張の結果と理解できる。血管の拡張により血流量が増大し,皮膚が赤みを帯びて見えるようになり,それが赤面となる。顔面皮膚の血管は他の皮膚部位と同様自律神経の交感神経により支配されている。血管を支配する交感神経には血管収縮性神経と血管拡張性神経があり,耳介や口唇は交感神経性血管収縮神経が主に支配しているが,他の顔面部位では血管拡張神経も分布している。また近年,顔面皮膚血管は副交感神経性の血管拡張神経の支配も受けていることが分かり,顔面皮膚部位によっては交感・副交感の二重支配を受けていると考えられている。さらに,このような神経性の支配ばかりでなく,顔面皮膚血管には,交感神経系賦活時に副腎髄質から血中に分泌されたアドレナリンやノルアドレナリンの作用を受けた液性の血管拡張のメカニズムも報告されており,赤面現象として確認される顔面の血管拡張反応が,交感・副交感どちらの神経性の反応なのか,それとも液性の反応なのか,あるいはこれらの組み合わせによる反応なのかについては未だ明確になっているとはいえない。

しかし,しくみがどうであれ,我々は赤面する。特に顔の紅潮は好きな人や憧れの人など他者と面談する際や,人前での発表や演技などパフォーマンスを行う等の対人的な社会的な文脈において,紅潮の発現やその反応の増強を自覚することが多い。このような日常的な経験から,赤面現象,顔の紅潮は対人コミュニケーション状況等の社会的文脈における何らかの機能・役割を有すると推察できるかもしれない。


顔面部の皮膚温の低下が脳を冷却するとの報告がある。…顔面部の冷却による鼓膜温低下に反映される脳温低下の機序は,上述の顔面血流に関わる解剖学的な血管組織構造から説明される。冷却された顔の皮膚からの静脈血が上眼静脈などを経て海綿静脈洞に流入すると,内頸動脈は海綿静脈洞内を通って脳へと上行してくるので,冷却された海綿静脈洞内の静脈血と内頸動脈血との間で対向流熱交換がなされて内頸動脈血が冷却され,その冷却血が脳の各領域に送られて,鼓膜温の低下に反映されると考えられている。

この機序を本稿で紹介した社会的文脈の強い課題や驚愕時の顔面の皮膚血流量の結果と併せて考えれば,社会的文脈が強い課題遂行時や驚愕時に顔の皮膚血流量の増加が生じているのは,このような条件・状況時に生じる脳活動の高まりによって産生される脳の熱を冷却するためと考えることができるかもしれない。また,社会的文脈の強い課題や驚愕時には,顔面部での発汗活動も確認されている。汗として汗腺から排出される水分は蒸発する際に皮膚表面の温度を奪い,結果として皮膚温の低下を導く。したがって,皮膚直下の血流量を増やすことで,より効率的に血液温を低下することができる。

このような機序を考えれば,社会的場面での赤面(顔の紅潮)と発汗は,生物学的にはそのような場面・状況で生じる脳活動の高まりによる脳温の増加を冷却する,いわば脳のラジエーター的反応と考えることができるだろう。面前の場面・状況を適切に処理するために,脳温を適正値に保ち,脳の適切な働きを担保する,ホメオスタシス的な反応,生理的な機能として赤面現象を捉えることができるのではないか。また赤面現象は社会的場面等で生じる感情喚起状況ばかりでなく,様々な運動時も,暑熱環境下でも,カゼ等による発熱時にも見られるが,これらの状況・状態での赤面現象も,いずれも「脳を冷やす」という本質的な目的からの反応として理解することができるだろう。このように,脳の冷却システムとして顔面皮膚血流の変化を捉えることで,赤面現象,顔の紅潮という反応のより包括的かつ基本的な説明・解釈ができるだろう。

以上のようなことを仮定すると,赤面現象,つまり顔の皮膚血流量の増加は,一義的には脳の正常な働きを保ち,個体を維持するという生物学的に本質的な目的として生じ,それが結果的に社会的文脈の中で,他者に何らかの感情の発露等を伝達する信号となり,対人コミュニケーション機能を有するようになったと考えられるかもしれない。

 

 

「○○から火が出る」

「目から火が出る」…顔や頭を強く打った時の感じの形容。(広辞苑

「目から火が出る」には「顔から火が出る」ときのような生理作用はありません。

「口から火が出る」…ものすごく辛い物を食べた時の様子を表しますが、慣用句ではありません。