教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

指導要録「主体的に学習に取り組む態度」考②

2008年1月17日の中央教育審議会答申は、「改正教育基本法や学校教育法の一部改正及びその国会審議等を踏まえ、小・中・高等学校の教育課程の枠組み、道徳教育や体験活動の充実といった教科等を横断した事項や各教科等の教育内容についての具体的な改善について、……審議を重ねてきた」結果であると、答申の中で述べています。

 

具体的に審議を始めたのは、2007年6月の学校教育法改正後です。

学校教育法の改正は安倍政権のもとで行われたのですが、安倍氏は2007年9月に退陣します。

中教審答申が出された2008年1月17日、政権を担っていたのは民主党でした。

 

前回の最後に「指導の観点と評価の観点がずれ」のことを書きました。

指導の観点が「知識技能」「表現思考判断」「学習意欲(=関心・意欲・態度」という3観点であるのに対して、評価の観点は「知識・理解」「技能・表現」「思考・判断」「関心・意欲・態度」という4観点であるという問題です。

 

民主党政権の時代、つまり2007年9月から2012年12月の間、当然のことながら安倍政権の流れはストップします。

 

2012年12月26日、安倍氏が再び首相になります。

そして、5年の時を経て、安倍教育改革が再開されます。

 

2014年2月17日、下村博文文部科学大臣中教審に「 道徳に係る教育課程の改善等について」諮問します。

同年10月21日に中教審から答申が出され、それを受けて2015年3月に学習指導要領が一部改正されます。

 

政権の優先順位が、「指導の観点と評価の観点がずれ」よりも「 道徳に係る教育課程の改善等」のほうが上位だったということでしょう。

 

2014年10月21日に「道徳」に係る答申が出された直後の11月20日下村博文文部科学大臣中教審に「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」諮問しています。

ここで、「指導の観点と評価の観点がずれ」が取り上げられることになります。

諮問から2年後の2016年12月21日、中教審から答申が出されます。

 

まず、指導の観点からみていきましょう。 

 

幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について (答申)
                      平成28年12月21日
                         中央教育審議会
 

第1部 学習指導要領等改訂の基本的な方向性

 

第5章 何ができるようになるか -育成を目指す資質・ 能力-

 

2.資質・ 能力の三つの柱に基づく教育課程の枠組みの整理
(資質・能力の三つの柱)


○ 全ての資質・能力に共通し、それらを高めていくために重要となる要素は、教科等や直面する課題の分野を越えて、学習指導要領等の改訂に基づく新しい教育課程に共通する重要な骨組みとして機能するものである。こうした骨組みに基づき、教科等と教育課程全体のつながりや、教育課程と資質・能力の関係を明らかにし、子供たちが未来を切り拓いていくために必要な資質・能力を確実に身に付けられるようにすることが重要である。


○ 海外の事例や、カリキュラムに関する先行研究等に関する分析によれば、資質・能力に共通する要素は、知識に関するもの、スキルに関するもの、情意(人間性など)に関するものの三つに大きく分類されている
前述の三要素は、学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)とも大きく共通している


○ これら三要素を議論の出発点としながら、学習する子供の視点に立ち、育成を目指す資質・能力の要素について議論を重ねてきた成果を、以下の資質・能力の三つの柱として整理した。この資質・能力の三つの柱は、2030年に向けた教育の在り方に関するOECDにおける概念的枠組みや、本年5月に開催されたG7倉敷教育大臣会合における共同宣言に盛り込まれるなど、国際的にも共有されているところである。

 

①「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」

 (略)

 

②「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」

(略)

 

③「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」
前述の①及び②の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であり、以下のような情意や態度等に関わるものが含まれる。こうした情意や態度等を育んでいくためには、体験活動も含め、社会や世界との関わりの中で、学んだことの意義を実感できるような学習活動を充実させていくことが重要となる。


・ 主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考の過程等を客観的に捉える力など、いわゆる「メタ認知」に関するもの。一人一人が幸福な人生を自ら創り出していくためには、情意面や態度面について、自己の感情や行動を統制する力や、よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等を育むことが求められる。こうした力は、将来における社会的な不適応を予防し保護要因を高め、社会を生き抜く力につながるという観点からも重要である。


・ 多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に関するもの。 

 

学校教育法第30条第2項において定義された「学力」の三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)が、答申では、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」と整理されています。

ここでいう「人間性」とは、「多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど」を指しているようです。

 

「主体的に学習に取り組む態度」が「学びに向かう力・人間性等」と置き換わる過程に、「海外の事例や、カリキュラムに関する先行研究等に関する分析」があったと答申は述べています。

答申の補足資料に、それを示す図があります。 

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次回は、評価の観点についてです。