教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

人権教育としての情報教育② ~東京・町田の女児自死に思う~

文部科学省は、児童生徒向けに「ちょっと待って!スマホ時代のキミたちへ~スマホやネットばかりになっていない?~」という情報モラル啓発リーフレットを出しています。

2021年版の「小学校低学年用」と「小学校高学年・中学生用」の一部を紹介します。

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リーフレットの内容は、前回紹介した「18項目のチェックリスト」と符合します。学校における情報モラル教育の内容も、おおむねこれに準じていると思われます。
そこに、「悪口はやめよう! 誰かをきずつける書き込みはやめよう」と明記されています。そのあとに「書き込みは誰が書いたか特定され、罪に問われることもあるよ。」とありますが、町田の「事案」があった20年度は「自分の名前を書かなくても、誰が書いたか特定されることもあるよ。」でした。


情報教育、情報モラル教育が本格的に教育課題となるのは、2000年代に入ってからです。私の手元に、校内向けの情報モラル教育計画を立案したときの資料があります。

 

2006年8月、文部科学省に設けられた「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」が、「初等中等教育の情報教育に係る学習活動の具体的展開について ~すべての教科で情報教育を~ 」と題する報告書を出しています。

 

報告書では、情報教育を次のように体系化しました。

 

情報教育の体系化
「情報教育」=「子どもたちの情報活用能力の育成」の3観点と8要素
情報活用の実践力
●課題や目的に応じた情報手段の適切な活用
●必要な情報の主体的な収集・判断・表現・処理・創造
●受け手の状況などを踏まえた発信・伝達能力
情報の科学的な理解
●情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解
●情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
情報社会に参画する態度
●社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響の理解
●情報モラルの必要性や情報に対する責任
●望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度

 

「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」において、堀田龍也委員(静岡大学情報学部助教授・当時)が資料提案を行いました。

その中から、「情報社会に参画する態度」に関する部分を紹介します。

 

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情報モラルの必要性や情報に対する責任
(中学年)
■IDやパスワードの大切さを知る(総合)
■人の写真を撮る時や,他人の作ったものを使うときには,許可が必要なことを知る(総合・道徳)
■自分や友だちの個人情報を知らない人にむやみに教えてはならないことを知る(総合・道徳)
■インターネット上には,役立つ情報のほかに正しくない情報や危険な情報もあることを知る(総合)
■文字だけのコミュニケーションは行き違いが起きやすいことを知る(総合・国語・道徳)

(高学年)
■ネットワークの先には人がいることを意識した,相手の立場に立った適切なコミュニケーションの大切さを知る(総合・国語・道徳)
■悪意がある情報や,不適切・不正なサイトへの正しい対処法を知る(総合・道徳)
■著作物や知的財産権を理解し,これらの権利を守ることがわかる(総合・国語・社会・図画工作)
■インターネットの影響力の強さを知り,不確かな情報を発信しないようにする(総合)
相手のことを考えて情報を収集したり発信した情報に対して責任をもったりすることの大切さに気付く(社会)
●調べたことをプレゼンテーションしたり,インターネットなどで発信する場合,発信する情報に責任を持ち,学習に協力してくれた人への感謝の気持ちを忘れないことを,情報社会における情報発信上の配慮として体験させるメディアからの情報には発信者の意図と背景があることを理解し,情報を受ける側が情報の判断をする必要があることを知る(総合・社会)

 

堀田さんの提案は、指導内容や指導教科など非常に具体的です。

ただし、この項に該当する低学年向け提案はありません。情報モラルに直接関係する指導には早すぎる(内容を理解できる年齢ではない)と考えられたのだと思います。

 

そのすき間を埋めたのが、2007年5月に公表された「情報モラル指導モデルカリキュラム」です。

カリキュラムは、

1.情報社会の倫理

2.法の理解と遵守

3.安全への知恵

4.情報セキュリティー

5.公共的なネットワーク社会の構築

の5つの大目標について、小学校から高校までを網羅しています。

次に示すのは、その一部です。

 

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私はこうした資料を下敷きに計画を立てたのですが、肝心のモノが散逸して見当たりません。

 

スマホ時代の前のものですが、情報モラル教育の骨格はここにあります。

 

ここで注目したいのは、小学校低学年の扱いです。

たとえば、「1.情報社会の倫理」に「a 発信する情報や情報社会での行動に責任を持つ」という項があります。

高学年では、「他人や社会への影響を考えて行動する」というのが具体的なめあてです。それができなかった結果として、端末への悪口書き込みがあります。

高学年の「他人や社会への影響を考えて行動する」につながる低学年のめあてが、「約束や決まりを守る」です。これは「情報モラル」そのもののめあてではありません。しかし、長じてつながっていくめあてです。じつはここが重要なポイントなのです。

「約束や決まりを守る」というのには生徒指導的な意味合いもありますが、こころ育ての側面もあります。その意味では人権教育の課題です。

つまり、「約束や決まりを守」られなかった時に受けた心の痛みを共感・共有することで育っていく人権意識の上に、「端末に悪口を書かない」などの「他人や社会への影響を考えて行動」する情報モラルが育つのです。

 

1つの例を引きましたが、情報モラルのほとんどが人権教育の基盤の上につながっているのです。

端末への悪口書き込みが問うている課題は、端末の扱いの問題にとどまらず、情報モラル教育とそこにつながる人権教育のありようなのです。