教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

いまさら聞けない SDGs ③小学校におけるSDGs教育

今回のテーマは、「小学校におけるSDGs教育」です。

 

小学校におけるSDGs教育というとき、2つの側面があると思います。

1つは「教師が取り組むSDGs教育」の側面で、もう1つは「子どもが取り組むSDGs教育」の側面です。

 

教師が取り組むSDGs教育

「教師が取り組むSDGs教育」というのは、授業環境や授業方法など教師の指導力に関するものです。

 

SDGsの目標には、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という条件が付いています。

包摂的かつ公正な質の高い教育を提供」するという目標も、「すべての人々へ」(=「誰一人取り残さない」)という言葉から始まっています。

 

GIGAスクール構想に出てくる「個別最適化された学び」というフレーズは、正確には「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」です。

 

SDGsの「誰一人取り残さない包摂的かつ公正な質の高い教育」と、GIGAスクール構想の「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」。両者は酷似しているというより、GIGAスクール構想はSDGsの具象だということでしょう。

 

GIGAスクール構想については、「『個別最適化された学び』を考える」()に書きました。

GIGAスクール構想は、全ての人々に「教育を目的としたインターネット」「教育を目的としたコンピュータ」をいうSDGsの指標に合致しています。

 

しかし、「誰一人取り残さない包摂的かつ公正な質の高い教育」をGIGAスクール構想の枠内だけで語るのはいかがなものでしょう。

 

GIGAスクール構想の「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」はSDGsの具体として、現場の先生たちにストンと落ちているのでしょうか。それともよくあるお役所の「言葉いじり」「言葉遊び」に終わっているのでしょうか。

 

現場の先生たちの一人ひとりがSDGsの示す課題を自身の実践に引き寄せて、課題が「我がこと」となったとき、SDGsの取り組みが始まると私は思っています。

手始めに、前回の稿で概観した日本の教育の課題をフィルターにして、自身の教育を検証してみてはいかがでしょう。

 

「日本の教育の課題」を「我がこと」とするにおいて、加えておきたいことがあります。 

 

文科省の教育には、人権教育の視点が致命的に欠如しています。これはもう、現場が自覚的に補強しない限り、どうにもなりません。人権教育の課題は現場によってさまざまでしょうが、意識的に手を打たない限りは欠けているのだという現状認識は共有したいです。

 

さらに、「雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能」の指標を「 ICTスキル」に限定している点についてです。

ICTスキルはだいじなのですが、「働きがいのある人間らしい仕事」はICTだけではありません。私は、小学校においては将来の人生観や職業観の基盤となるキャリア教育をデザインしてほしいと思っています。

 

 

子どもが取り組むSDGs教育

「子どもが取り組むSDGs教育」というのは、教室におけるSDGs実践、つまり授業内容のことです。

 

「子どもが取り組むSDGs教育」は、2つに大別できます。

SDGsそのものについての理解を深める」取り組みと「SDGsの目標の1つを探究する」取り組みです。

 

SDGsそのものについての理解を深める

SDGsについて知る、SDGsが掲げている目標について知り、その背景についての理解を深める。--正しく知ることは、考え方や生き方の基盤になります。

学習時間を特設するだけでなく、社会科や理科の学習内容と関連づけて学ぶこともできます。高学年が中心になると思いますが、年度初めにカリキュラムを通覧して、学習計画を立てるとよいです。

 

SDGsの目標の1つを探究する

こちらは、SDGsの目標の1つ(たとえば「福祉」)を取り上げ、調べ学習、体験学習等を教科の枠を超えて展開します。総合的な学習の時間の活用が想定されます。

「福祉」などは従来の総合でも主要なテーマの1つでした。その際の取り組みの目線は、「わたしの町」であることが多く、よほど大きく問題設定しても「わたしたちの国」までだったと思います。

そうした今までの取り組みをだいじにしながら、そこでの学びや教訓を世界の課題につなげていくのです。

 

「そこ(今までの取り組み)での学びや教訓を世界の課題につなげていく」ということには補足が要るかもしれません。

10年あまり前、世界遺産の学習に取り組んだことがあります。

まず、世界遺産とは何かということや、世界遺産になるための基準などを調べました。

ユネスコは、世界遺産を「人類が共有すべき顕著な普遍的価値をもつもの」としています。私のクラスでは、「地域遺産」を、「地域みんなの宝物」「今までも、これからも変わらずに大切なもの」と定義しました。

次に、世界遺産の認定基準をもとに、地域遺産の基準を定めました。

1 地域に住む人たちが大切にしてきた建物や芸術であること。(文化遺産無形遺産の基準)
2 とてもめずらしく、大切な自然であること。(自然遺産の基準)
3 その文化や自然を地域の人たちが守り、次の世代に伝える努力をしていること。
文化遺産・自然遺産共通の基準)

そうして選定した校区の地域遺産について探究しました。現地調査や聞き取りを重ねてプレゼンにまとめ、あるいは劇化しました。

地域遺産学習を通して学んだ人々の思いや願いを「ものさし」にして、世界遺産への理解を深めようとしたのです。

目指したのは、世界(地球)規模の視点を持ちながら、地域を活動のフィールドする営みです。

 

小学校における取り組みが、すぐさま具体的なカタチある成果を生むことなどまずありません。

しかし、こうした学びや活動の積み重ねが、問題を自分に引き寄せて理解し、課題解決のために具体的に行動するスキルと行動力と、そして生き方をも醸成していくのだと信じます。