教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

人権教育としての情報教育① ~東京・町田の女児自死に思う~

この稿を書くことになったきっかけは、東京・町田の小6女児自殺の背景に学校のタブレットがあったという報道です。

 

まずは、地元紙「東京新聞」(web版 2021年9月13日 21時46分)の記事です。

東京・町田の小6女児が自殺、同級生からのいじめ示すメモ 遺族「学校のタブレット温床に」

 東京都町田市立小学校に通っていた6年生の女子児童=当時(12)=が2020年11月、「いじめを受けていた」などとするメモを残し、自殺していたことが分かった。市教育委員会はいじめと自殺の因果関係を調査している。両親は13日、都内で記者会見し「学校や市教委から十分な説明がなく、不誠実だ」と話した。文部科学省に調査の徹底などを求める要望書も提出した。

◆「おまえらのおもちゃじゃない」
 父親(58)と母親(52)は会見で、女児へのいじめに関し「学校が配ったタブレット端末も使われ、温床になった。娘は独りで闘っていた。早く事実を知りたい」と語った。
 遺族と代理人弁護士によると、女児は20年11月30日、自室で亡くなっているのが見つかり、机の引き出しに遺書とみられる複数のメモが残されていた。児童2人の名前を挙げ「おまえらのおもちゃじゃない」などと記していた。
 両親は会見で、女児の死後、同級生ら約30人から聞き取りを行ったと説明。いじめは4年生の頃に始まり、メモの2人を含む計4人が関与したと述べた。女児が仲間外れにされたり、「死ね」と言われたりしたとの証言があったと明かした。
 児童同士が学校貸与のタブレット端末のチャット機能で、女児の名前を挙げ「うざい」「お願いだから死んで」などとやりとりし、その内容を女児が端末上で目にしていたとも指摘した。

◆学校アンケートで発覚
 遺族によると、いじめは昨年9月の学校のアンケートで発覚したが当時は伝えられず、知ったのは女児の死後だった。学校は当初、児童が女児に謝罪したとして「問題は解決済み」と主張。両親が開示を求めたチャットの履歴も「見当たらない」と回答したという。
 その後、児童が作成し、一部に「(女児の名前)のころしかた」と題する絵が描かれたノートを学校が保管していたことが判明。2月に学校が独自の調査報告書をまとめていたことも分かったという。
 市教委はいじめ防止対策推進法が定める「重大事態」として、非公開の常設委員会で調査している。担当者は「遺族の意向に沿って対応してきたが、今後も丁寧な説明をしながら調査を進めたい」と話した。(服部展和)

 

東京新聞」の続報(web版 2021年9月15日 06時00分)です。

いじめ温床のタブレット端末、パスワードは「123456789」 町田の小6自殺

 東京都町田市立小学校の6年生女児=当時(12)=が2020年11月、「いじめを受けていた」とメモを残し自殺したことをめぐり、萩生田光一文部科学相は14日、「GIGAスクール構想」の先進事例として児童に配られたタブレット端末がいじめに使われたことを明らかにした。「極めて残念な事実。重く受け止め事実関係を確認する」として問題点を解明し全国の教育現場に伝える方針を示した。(小松田健一、服部展和、奥野斐)

  女児の両親は学校側に、端末のチャット履歴について開示を求めていたが「履歴は見当たらない」と回答しており、いじめとタブレット端末の関連が、文科省の都教委、町田市教委への聞き取りで初めて明らかになった。
 両親によると、児童同士がタブレット端末の画面上で女児の名前を挙げ「うざい」「お願いだから死んで」などと会話。女児もこれを見ていたという。
 この小学校では、タブレット端末を20年度までに全児童に配布していた。本年度から国が本格実施している「GIGAスクール構想」の先進事例としての位置づけがあったという。

 萩生田氏は閣議後の記者会見で「児童のいじめの一部が端末のチャット機能を使って行われていた」と説明。「現実として学校現場での、こういったパソコン、タブレットを通じていじめが起きていたことは極めて残念な事実であり、事実関係を確認して全国の自治体に周知することがあればしっかりやっていきたい」との姿勢を示した。
 文科省は今年3月、同構想の実施に先立ちルールとして「他人を傷付けたり嫌な思いをさせることをネット上に書き込まない」など18項目のチェックリストを作成。都道府県教委に通知している。
 萩生田氏は女児の遺族が13日、文部科学省記者クラブで会見したことを受け「外に向けてご両親は思いを発信せざるを得ないという判断に至ったのだと思う」とし町田市教委や学校に対し「ご家族の気持ちに寄り添い丁寧な対応をするのが大事だ」と強調した。

◆ずさんパスワードで「なりすまし」横行か?
 自殺した小6女児の両親によると、女児が通った小学校では、児童に貸与したタブレット端末を起動する際のパスワードを「123456789」に統一し、IDは児童の所属学級と出席番号を組み合わせたものにしていたという。
 両親が同級生らに聞き取ったところ、端末上での会話について「自分が書いていないのに勝手に書き込まれた」「書いていた内容を消された」など「なりすまし」の被害を訴える複数の証言があったという。
 両親は「他人のIDを容易に推測できたため、なりすましが横行していたのではないか。学校の管理がずさんだった」と指摘する。
 文部科学省情報教育・外国語教育課によると、端末には学業成績など個人情報も保存されるため、個々のIDとパスワードは本人と保護者、教員以外に知られないようにするのが基本という。端末の管理について、町田市教育委員会の担当者は本紙の取材に「調査中のため答えられない」と話している。

 高橋暁子・成蹊大客員教授情報リテラシー)の話 自治体や学校によってタブレット端末の使用ルールや利用制限はまちまちで、今回のケースは履歴の管理・確認や子ども同士のやりとりにもっと目を配るべきだった。コロナ禍で十分な研修がないまま見切り発車し、教員間のリテラシーの格差、家庭環境の違いも目立つ。単に制限を厳しくするのではなく、子どものコミュニケーションを教職員が注意深く見守り、トラブルに早期に対応できる仕組みづくりが必要だ。

 

あってはならない「事案」です。

しかし、十分すぎるほど予測できた「事案」でもあります。

 

朝日新聞」9月17日の「社説」です。

町田小6自殺 端末の使い方 再確認を


 東京都町田市の小学6年の女子児童が昨年11月、同級生からいじめを受けたという内容の遺書を残して命を絶った。市教育委員会は常設の第三者委員会で、いじめの実態や自死との因果関係などを調べている。

(中略)

 今回の事件では、女児の「ころしかた」を図示したノートが見つかり、あわせて、市教委が配ったタブレット端末がいじめに使われた疑いが指摘されている。複数の児童がチャット機能を利用した悪口の書き込みがあったと話し、市教委は端末の履歴を調べている。

 せっかくの学習機材が子どもを死に追いやる道具になったとすれば、衝撃は大きい。

 情報化の流れを踏まえ、またコロナ禍で休校になっても勉強を続ける手段になるとして、文部科学省は全国の小中学生に端末の配備を進めてきた。一方で悪用を懸念する声もあり、同省は全国の教委などに取り扱い上の注意点を伝えている。

 女児が亡くなった当時の校長は、書き込みには教員が目を光らせていたとしつつ「万全ではなかった」とも述べ、悪口を見逃した可能性を認めている。端末のフィルタリング設定や子どもたちの使用方法、学校のチェック体制なども、第三者委が究明すべき重要な論点だ。

 端末の機能を制限している学校は多いが、対面で意見を言うのが苦手な子も気軽に発言できるとして、活用しているところもある。教員がこまめに書き込み内容を点検したり、書き込みは教員が一緒にいるときに限るという条件をつけたりして、リスクを減らす方法はある。

 ただ多くの子がスマホをもつ現在、配られた端末の使い方だけを問題にしても真の解決にならない。学校、教委、保護者、そして子ども自身も参加して、SNSとどのように付き合うべきかを議論し、ルールを決め、実践していく必要がある。

 

「社説」の論調がそうであるように、いわゆる「GIGA端末」について「学校のチェック体制」「使用制限」「ルール」といったことが、本事案に関するキーワードになっています。

私は、それを否定するものではありません。

しかし、なにか物足りなさを感じます。本稿はその物足りなさを埋め、今回のような「事案」が2度と起きないような教育を願い、人権教育の視座で問題の整理を試みるものです。

 

さて、先の「東京新聞」の記事に、

文科省は今年3月、同構想の実施に先立ちルールとして「他人を傷付けたり嫌な思いをさせることをネット上に書き込まない」など18項目のチェックリストを作成。都道府県教委に通知している。

という部分がありました。

18項目のチェックリスト」というのは、次のようなものです。

1人1台端末の利用に当たり、保護者等との間で事前に確認・共有しておくことが望ましい主なポイント

 

1.児童生徒が端末を扱う際のルール

各学校や各学校設置者において端末を扱う際のルールについてどのような目的や趣旨で定めたかを説明するとともに、その目的や趣旨を各家庭においても踏まえて使用していただきたいこと。
(ご家庭と共有するルールの例)
□使用時間を守る
□端末・アカウント(ID)・パスワードを適切に取り扱うこと
(例:第三者に端末を貸さない、第三者にアカウント(ID)・パスワードを教えない 等)
□不適切なサイトにアクセスしない
□インターネット上のファイルには危険なものもあるので、むやみにダウンロードしない
□充電は学校や学校設置者が定めたルール以外の方法を行わない
□アプリケーションの追加/削除、設定の変更は、学校設置者・学校の指示に沿って行う
□端末を使うときは、落としたり、ぬらしたりしないように注意する
□学習に関係のない目的では使わない


2.健康面への配慮
学校・家庭での利用を通じて、子供たちの健康影響に配慮しながら使うことが重要であること。
(学校内・外を問わずに ICT 機器全般の利用機会が広がることが見込まれることから、家庭においても、利用時間等のルールを定めることなども有効)
(ご家庭における配慮の例)
□端末を使用する際に良い姿勢を保ち、机と椅子の高さを正しく合わせて、目と端末の画面との距離を 30cm 以上離す(目と画面の距離は長ければ長い方が良い)
□長時間にわたって継続して画面を見ないよう、30 分に1回は、20 秒以上、画面から目を離して、できるだけ遠くを見るなどして目を休める
□端末を見続ける一度の学習活動が長くならないようにする
□画面の反射や画面への映り込みを防止するために画面の角度や明るさを調整する
□部屋の明るさに合わせて、端末の画面の明るさを調整する(一般には、夜に自宅で使用する際には、昼間に学校の教室で使用する際よりも、明るさ(輝度)を下げることが推奨される)
□就寝1時間前からは ICT 機器の利用を控える
(睡眠前に強い光を浴びると、入眠作用があるホルモン「メラトニン」の分泌が阻害され、寝つきが悪くなるため)
□これらの留意点について、児童生徒が自らの健康について自覚を持ち、時間を決めてできるだけ遠くを見て目を休めたり、目が乾かないよう意識的に時々まばたきをしたりするなど、リテラシーとして習得する


3.端末・インターネットの特性と個人情報の扱い方
自分にとって危険な行動や他人に迷惑をかける行動をしないように、端末やインターネットの特性と個人情報の扱い方を正しく理解しながら使用することが重要であること。
(留意点の例)
□本人の許可を得ることなく写真を撮ったり、録音・録画したりしない
□児童生徒が自分や他人の個人情報(名前、住所、電話番号、メールアドレスなど)を、誰もがアクセスできるインターネット上に不用意に書き込まない
□他人を傷つけたり、嫌な思いをさせることを、ネット上に書き込まない

 

18項目のチェックリスト」の中で今回の件に関係の深い項目を青字で示しました。加えてそれが人権教育の課題でもある項目を赤字で示しました。

結果は一目瞭然。人権教育の課題は、「他人を傷つけたり、嫌な思いをさせることを、ネット上に書き込まない」の1点のみです。

 

情報教育における人権教育の課題は、「情報モラル教育」と範疇に括られています。

 

次回は、「情報モラル教育」について言及します。