教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

教員免許更新制廃止、そして… ⑥教員免許更新制の系譜(安倍晋三さんのころ)

中曽根康弘氏の「お座敷をきれいにして、そしてりっぱな憲法を安置する」という路線を最も忠実に受け継いだのは、安倍晋三氏です。

 

お座敷をきれいに」するというのは、「りっぱな憲法」制定を阻害する勢力を排除するということです。

教員世界に引き寄せれば、モノ言わぬ教師にすることであり、長じて「お座敷を汚す」ような若者になる教育をさせないことです。前者は教員管理の問題であり、後者は教育内容管理の問題です。

 

安倍晋三氏が内閣総理大臣の地位にあったのは、第1次政権(2006年9月26日~2007年8月27日)の11ヶ月と第2次政権(2012年12月26日~2020年9月16日)の7年8ヶ月で、あわせると8年7ヶ月に及びました。

 

すでに「安倍教育改革の遺したもの」(全12回)において詳述しましたので、ここではポイントのみを取り上げます。

 

2006年12月22日、教育基本法が改正されます。

 

愛国心」が教育の目標として明記されました。これは、「長じて『お座敷を汚す』ような教育をさせないこと」と深く関わります。そしてのちに教科化される「道徳」を通して、すべての子どもに例外なく下りてくることになります。

 

旧第10条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」は、新第16条で、「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」という表現に変わりました。

池上彰氏は、「池上彰の『解決!ニュースのギモン』」において、

 現行の表現だと、地方自治体や地方の首長が教育現場に介入した場合、「不当な支配」に該当する可能性があります。それは許されないことになります。それだけ権力に対して厳しい法律なのです。

 ところが改正案では、地方公共団体がすることは「不当な支配」には該当しないことを意味します。むしろ、地方公共団体の方針に反対する行動の方が「不当な支配」に当たる、という解釈も成り立つのです。たとえば教員団体が、文部科学省教育委員会の方針に反対した場合、「教育に対する不当な支配」とみなされる可能性があります

と、指摘されています。これは、「モノ言わぬ教師にする」方策の1つと言えます。

 

 

安倍氏のころの動向を追います。

 

2007年6月27日、学校教育法が一部改正されます。

学校教育法 第37条
第1項
小学校には、校長、教頭、教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければならない。
第2項
小学校には、前項に規定するもののほか、副校長主幹教諭指導教諭栄養教諭その他必要な職員を置くことができる。
第5項
副校長は、校長を助け、命を受けて校務をつかさどる。
第9項
主幹教諭は、校長(副校長を置く小学校にあつては、校長及び副校長)及び教頭を助け、命を受けて校務の一部を整理し、並びに児童の教育をつかさどる。
第10項
指導教諭は、児童の教育をつかさどり、並びに教諭その他の職員に対して、教育指導の改善及び充実のために必要な指導及び助言を行う

新設の「副校長」は管理職です。「主幹教諭」「指導教諭」は管理職ではありませんが、管理職を補佐したり、教諭に指導・助言を行ったりと準管理職的なポジションです。学校運営上の必要性とは別に、教諭集団の分断という見方もできます。「主幹教諭」「指導教諭」となれば意識も身の処し方(管理職を目指すとか、労働組合からの脱退するとか)も代わるでしょう。そういう意味では、「お座敷をきれいに」する一環です。

 

もう1つ重要な動きとして、「自己評価シート」の導入があります。

2000年12月22日に出された教育改革国民会議が報告書を出します。

教育改革国民会議報告 -教育を変える17の提案-


4.新しい時代に新しい学校づくりを
教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる
 学校教育で最も重要なのは一人ひとりの教師である。個々の教師の意欲や努力を認め、良い点を伸ばし、効果が上がるように、教師の評価をその待遇などに反映させる。
提言
(1)努力を積み重ね、顕著な効果を上げている教師には、「特別手当」などの金銭的処遇、準管理職扱いなどの人事上の措置、表彰などによって、努力に報いる。
(2)すべての教師が、退職するまで児童・生徒に直接接し、教える仕事に就くことが望ましいとは限らない。学校内でも適性によって異なる役割を負い、また、必要に応じて学校教育以外の職種を選択できるようにする。
(3)専門知識を獲得する研修や企業などでの長期社会体験研修の機会を充実させる。
(4)効果的な授業や学級運営ができないという評価が繰り返しあっても改善されないと判断された教師については、他職種への配置換えを命ずることを可能にする途を拡げ、最終的には免職などの措置を講じる。
(5)非常勤、任期付教員、社会人教員など雇用形態を多様化する。教師の採用方法については、入口を多様にし、採用後の勤務状況などの評価を重視する。免許更新制の可能性を検討する。

 

その後、2006年7月11日に中教審が「今後の教員養成・免許制度の在り方について」答申を出します。

今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)
                           平成18年7月11日
                           中央教育審議会

5.採用、研修及び人事管理等の改善・充実
(3)人事管理及び教員評価の改善・充実-分限制度の厳格な適用や教員評価の処遇への反映等-
 問題のある教員は教壇に立つことのないよう、引き続き、条件附採用期間制度の厳格な運用や、指導力不足教員に対する人事管理システムの活用による分限制度の厳格な適用等に努めていくことが必要である。
 学校教育や教員に対する信頼を確保するためには、教員評価の取組が重要であり、新しい教員評価システムの構築を一層推進していくことが必要である。また、評価の結果を、任用や給与上の措置などの処遇に適切に反映することが重要である。

○ 大多数の教員は、教育活動や自己研鑽に熱心に取り組んでいるが、その一方で、教員の中には、教職に対する情熱や使命感が低下したり、教員として必要な資質能力が欠如しているなど、問題を抱える者が少なからず存在することも事実である。信頼される学校づくりを進めていくためには、このような問題のある教員は教壇に立つことのないよう、毅然とした対応をすることが重要である。このため、都道府県・指定都市の教育委員会においては、引き続き、条件附採用期間制度の厳格な運用や、指導力不足教員に対する人事管理システムの活用による分限制度の厳格な適用等に努めていくことが必要である。

○ 学校教育や教員に対する信頼を確保するためには、教員評価の取組が重要である。教員評価については、単に査定のための評価ではなく、一人一人の能力や業績を適正に評価し、教員に意欲と自信を持たせ、育てていく評価とする必要がある。また、主観性や恣意性を排除し、客観性を持たせるよう、評価要素や項目の基準を明確にすることも大切である。現在、すべての都道府県・指定都市の教育委員会において、新しい教員評価システムの構築が進められているが、今後、上述のような視点に留意しつつ、これらの取組を一層推進していくことが必要である。また、評価の結果を、任用や給与上の措置などの処遇に適切に反映するとともに、優れた実践や高い指導力のある教員を顕彰するなどの取組を進め、社会全体に教員に対する尊敬と信頼が醸成されるような環境を培うことが重要である。

答申に添えられた「基礎資料」の「5.人事管理について (1)教員評価の改善について」に、「新しい教員評価システム」のイメージ図があります。

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これによって導入されたのが、「自己評価シート」です。

 

物事にはプラスの側面とマイナスの側面があります。

「自己評価シート」のプラス面は、教員一人ひとりが学校運営の主体になり、目標を持って教育活動を行うということに尽きます。

イメージ図で分かるように、設定する目標は、校長の学校経営方針に沿うものでなければなりません。スタート時において、はみ出すことは認められていません。

私は、この制度下で10年ほど勤務しました。

私の感想としては、学校はチームとして機能するようになるどころか、一人ひとりが一層疎遠になり自分の世界の中で目標達成を目指すようになったと感じます。そして、このシステムは、「モノ言わぬ教師」づくりには十分すぎる成果を上げていると感じています。

 

新しい教員評価システム」は、アメとムチの人事管理システムです。

安倍氏が「不適格教員」排除の手段として成立を目指した「教員免許更新制」は、「新しい教員評価システム」で創設された「優秀教職員表彰」制度と対をなすものだったのです。