教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

教員免許が失効する

65歳の誕生日を迎えた年度末、本日2021年3月31日をもって、私の教員免許が失効します。

 

もう教員免許を必要とする仕事に就くつもりはありませんからどうでもいいようなものの、なんだか釈然としません。

 

私(の学年)は、教員免許更新制に伴う免許状更新講習の初年度対象者です。

私より1つ上の人たちは更新制の対象になっておらず、したがって「永久」免許状です。

私の学年の教員は、管理職や指導主事であった人たちを除き、55歳時に更新講習を受けています。それから10年が経ち、2回目の更新時期になっています。しかし、60歳で定年を迎えていますから、今回も更新するという人はごく少数にとどまると思います。ほとんどの人の免許状が、私と同じく本日で失効します。

 

2022年の3月31日にも多数の免許状が失効し、2023年の3月31日にも同じことが起こります。

 

老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げられています。

私の学年は62歳の誕生日の翌月から支給で、いま定年を迎えた人たちは64歳からの支給です。そして、来年度以降に定年という人たちは、老齢基礎年金(国民年金)と同じ65歳からの支給になります。教員の場合は、女性の「5年遅れ」設定がありませんので、男女の別なく一律に65歳開始になります。

 

いまも再任用は行われていますが、フルタイムで働くと年金は停止されますので、年金の受給年齢に達した人のフルタイム雇用は少数でした。それが、来年度以降は65歳まで再任用で働くことが普通になると思われます。

 

それは、60歳から65歳までの臨時雇用の講師(短期の期限付き講師)が激減することを意味します。

 

それでは、65歳で免許状更新講習を受ける人が増えるでしょうか。

社会は70歳までの雇用に向かっていますが、教育現場の労働環境を考えると受講者が急増するとは私には思えません。

 

大量退職の時代が終わると、その後に大量「免許失効」が続きます。

同時に、少数退職の時代がやってきます。

臨時講師の需要は依然高く、人員不足が起こるのは火を見るより明らかです。

 

 

そんな危機感は、当然文部科学省だって持っているはずです。

 

萩生田光一文部科学大臣は、3月12日の中央教育審議会総会で、令和時代の学校教育を担う質の高い教員を確保するため、教員養成や採用、研修の在り方を検討するよう諮問しました。その中で、特に学校現場で重荷になっているとの指摘がある「教員免許更新制」については、教員の負担を緩和する方向で見直し、他のテーマに先行して結論を出すよう求めました

 

教員の負担を緩和する方向」については、布石があります。

萩生田文科相は、2020年6月8日に行った講演で、「文科省としてオーソライズ(公認)しているわけではなくて、私個人の私見」としながらも、教員免許の更新講習について「ものすごく負担がかかっているのではないか」と指摘しています。

そして、教員免許を取得して10年後に講習を受けて免許を更新すれば、20年後と30年後には更新講習を受けなくて済むようにすべきだとの考えを示しています。

 

また、2021年2月2日の閣議後会見では、教員免許更新制度や更新に伴う研修について、「教師が多忙な中で、『経済的・物理的な負担感が生じている』との声や、『臨時的任用教員等の人材確保に影響を与えている』との声もあることは承知している」と説明。中教審による検証や文科省の検討本部での作業を進めた上で、「スピード感を持って制度の見直しなどの取り組みを具体化していきたい。本気で取り組む」と述べています。

 

 

しばらくは中教審の審議待ちになりますが、文科大臣の強い意向が反映されることは間違いありません。

その「強い意向」とは、「教員免許を取得して10年後に講習を受けて免許を更新すれば、20年後と30年後には更新講習を受けなくて済むようにすべきだ」ということです。

制度の見直しがその方向に進むことを強く願います。

 

見直しは、制度の創設にさかのぼって検証すべきです。

免許更新制については、「安倍教育改革の遺したもの(その5)「同(その6)」「同(その7)」において、ことの経緯やねらいについて詳しく書いています。

いま一度、羽山健一さんという方が「愛知高法研ニュース 第103号」(2007年9月)に書かれた「矛盾だらけの教員免許更新制」という文章の一部を再掲します。

今回の更新制導入の目的は、名目的には、①教員の資質の保持向上と、②不適格教員の排除であるといえるが、政府が更新制を導入する実質的な目的、換言すれば、真の狙いはこのどちらでもないと考えられる。なぜならば、更新制はこのどちらにも十分に役立ちそうもないからである。それでは、更新制導入の真の狙いは何か、それは教員統制の強化にあると考えられるのである。つまり、教育行政を批判せず、従順で命令されたとおりに動く教員の育成が目指されているのである。これまでに、初任者研修、10年経験者研修、指導力不足教員の人事管理システム、教員評価システムなどが導入され、今回の法改正では、副校長、主幹教諭、指導教諭の職が設けられた。これらの改正はすべて教員統制に結びつく。今回の更新制の導入は、教員統制システムの完成ともいえる

 

私は安倍氏と萩生田氏は同じ思想を共有する人たちと捉えていました。しかし、両氏の間には相当な温度差があるようで、安倍氏の退場と同時に萩生田氏は見直しを宣言しています。

安倍氏の「呪縛」が解けたいま、政治的思惑を離れて冷静に考えてほしいのです。

そもそも、数多ある資格免許の中で教員免許を有期限にしなければならない理由は何でしょう。

そしてその「理由」は、他の資格の扱いとの公平性の問題をも呑み込むほど有意なものなのでしょうか。

説得力のある根拠がないとすれば、制度は廃止するしかありません。