教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

教員免許更新制廃止、そして… ④不適格教員とは

私はこのシリーズにおいて、「不適格教員」と「指導力不足教員」をほぼ同義語として使っています。

しかし、厳密に言うとちょっと違います。整理します。

 

現在(2001年2月の地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正で「指導が不適切」「指導を適切に行うことができない」という表現が用いられて以降)、一般的に使われるのは「指導力不足教員」です。これには定義があります。

教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律について(通知)」(2007年7月31日付け)

第二 留意事項
第2 教育公務員特例法の一部改正関係
2 「指導が不適切である」ことの認定について(第25条の2第1項関係)
 「指導が不適切である」ことに該当する場合には、様々なものがあり得るが、具体的な例としては、下記のような場合が考えられること。
 各教育委員会においては、これらを参考にしつつ、教育委員会規則で定める手続に従い、個々のケースに則して適切に判断すること。

1 教科に関する専門的知識、技術等が不足しているため、学習指導を適切に行うことができない場合(教える内容に誤りが多かったり、児童等の質問に正確に答え得ることができない等)
2 指導方法が不適切であるため、学習指導を適切に行うことができない場合(ほとんど授業内容を板書するだけで、児童等の質問を受け付けない等)
3 児童等の心を理解する能力や意欲に欠け、学級経営や生徒指導を適切に行うことができない場合(児童等の意見を全く聞かず、対話もしないなど、児童等とのコミュニケーションをとろうとしない等)

 

 

この「法律の施行通知」をもとに、都道府県教委は「指導力不足教員」を定義しています。

たとえば北海道では、

病気・障害以外の理由により、児童生徒との人間関係を築くことができないなど児童生徒を適切に指導することができないため、当該教員が担当すべき授業を他の教員が分担して行うなどの状況にある者のうち、継続して特別な指導・研修を要すると認定された者

とあり、「指導が不適切である」教員=「指導力不足教員」であることが分かります。

 

文科省は、「指導が不適切な教員に対する人事管理システムのガイドライン」(2008年2月8日)において、

「指導が不適切である」教諭等とは,知識,技術,指導方法その他教員として求められる資質,能力に課題があるため,日常的に児童等への指導を行わせることが適当ではない教諭等のうち,研修によって指導の改善が見込まれる者であって,直ちに後述する分限処分等の対象とはならない者をいう

とし、それとは切り離して、

教員として適格性に欠ける者や勤務実績が良くない者等,地方公務員法第28条に規定される分限処分事由に該当する者は,分限処分を的確かつ厳正に行うべきである

としています。

 

ところが、大阪府・市の「指導力不足教員」の定義を見ると、

大阪府・市

1.指導力に関し支援を要する教員
2.指導力不足教員
3.適格性を欠く教員
4.疾病等により指導力が発揮できない教員

とあり、「指導力不足教員」の中に「指導が不適切である」教員と「適格性に欠ける者」を含んでいます。

 

地方公務員法

第二十八条
1 職員が、左の各号の一に該当する場合においては、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 勤務実績が良くない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 前二号に規定する場合の外、その職に必要な適格性を欠く場合
四 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合

 

地方公務員法第28条のいう「その職に必要な適格性を欠く」が、いわゆる「不適格教員」です。

 

では、「不適格教員」とは何でしょう。

これには公式の定義がありません。

 

「指導が不適切である」教員は、指導改善研修を受けることになります。その結果、改善が認められると現場復帰になります。研修を繰り返し重ねても改善が認められなければ、分限処分の対象となることもあります。これも「その職に必要な適格性を欠く」事例でしょう。

 

一部の適格性を欠く教員には厳しく対処していく(2006年中教審答申)

指導力不足の教員を退場させる仕組み教育再生会議学校再生分科会第1回会議   2006年11月8日)

不適格教員排除に役立つ教員免許更新制第2回会議 2006年11月8日)

 

ここにあげた烈しい表現は、上の事例のような教員に被せるには違和感があります。私には、ヒステリックな嫌悪感・憎悪感さえ感じられます。

 

分限処分に不服があり、裁判になることがあります。そうした判例を見てみると、分限理由の中に、

○ 上司の命令に従わない 。
○ 校長の指示に従わない。

といった記載が出てきます。

厳しく対処」「退場」「排除」すべき「不適格教員」とは、どうやら「校長(教委)の指示・命令に従わない教員」を強く意識したもののようです。

 

「校長(教委)の指示・命令に従わない教員」にも2通りあります。

1つは、いわゆる「指導力不足教員」が頑なに自己を通すといったような資質・能力に起因するものです。

もう1つは、卒業式の「日の丸・君が代」に反対するなどの思想的な理由に起因するものです。

 

「不適格教員」が強く意識しているのは、これまでの歴史に照らして考えると間違いなく後者のような教員です。

つまり、烈しい言葉で退場・排除を求める「不適格教員」とは、卒業式の「日の丸・君が代」に反対するなどの思想的な理由により「校長(教委)の指示・命令に従わない教員」を真の対象者とした言葉と言えます。