教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

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日本語探訪(その131) 故事成語「南船北馬」

小学校のうちに知っておきたい故事成語の第53回は「南船北馬」です。

 

南船北馬

 

南船北馬」の読み方

なんせんほくば

 

南船北馬」の意味

絶えず各地にせわしく旅行すること。東奔西走。(広辞苑

 

南船北馬」の使い方

先考の深く中華の文物を憬慕(けいぼ)せらるるや、南船北馬その遊跡十八省に遍(あまね)くしてなお足れりとせず。(永井荷風『来青花』1918年)
 

南船北馬」の語源・由来

南船北馬」の出典は、『淮南子(えなんじ)』「齊俗(せいぞく)訓」です。

 

是以人不兼官、官不兼事、
士農工商、鄉別州異
・・・(中省)・・・
是以士無遺行、農無廢功、
工無苦事、商無折貨、
各安其性、不得相干
・・・(中省)・・・
各有所宜、而人性齊矣。
胡人便於馬、越人便於舟
異形殊類、易事而悖、
失處而賤、得勢而貴。

 

【読み下し文】

是(ここ)を以て、人は官を兼ねず、官は事を兼ねず、
士・農・工・商、郷別(きょうべつ)に州異にす。
・・・(中省)・・・
是を以て、士に遺行(いこう)無く、農に廢功(はいこう)無く、
工に苦事(くじ)無く、商に折貨(せっか)無く、
各(おのおの)其の性に安んじ、相(あひ)干(おかす)を得ず。
・・・(中省)・・・
各(おのおの)宜(よろ)しき所有りて、人の性は齊(ひと)し。
胡人(こじん)は馬を便(べん)とし、越人(えつじん)は舟を便とす
形を異にし類を殊(こと)にするもの、事を易(か)ふれば而(すなは)ち悖(もと)り、
處(ところ)を失へば而ち賤(いや)しく、勢(いきほひ)を得れば而ち貴し。

 

【現代語訳】

一人の者は二つの官職を兼ねることはせず、一つの官職は二つの仕事を兼ねることはせず、
士農工商それぞれに区別があった。
・・・(中省)・・・

こうして、士人には治務の遺漏がなく、農民にはむだな骨折りなく、
工人には困難な作業なく,商人には損失なく、
各人が自分の持ち前に従って、互いに犯しあうことはなかった。
・・・(中省)・・・
このように人にはそれぞれ長ずるところがあり、人の性に優劣はないのである。
胡人(北方の異族)は馬をのりこなし、越人(南方の異族)は船を乗りこなす
形や類のちがう者が仕事を替えれば失敗し、
適所を失えば賤しまれ、勢いに乗ずれば尊重される。

 

胡人便於馬、越人便於舟」は、「南」「北」という文字は使われていませんが、中国の南方の越人は川や湖が多いので船を用い、北方の胡人は平原や山野が多いので馬に乗るという意味から、「南船北馬」という語が生まれました。

 

南船北馬」の蘊蓄

南船北馬」の類義語

東奔西走(とうほんせいそう)
ある仕事・目的のために、所々方々をいそがしくかけめぐること。(広辞苑

 

 

「南〇北〇」の四字熟語
南橘北枳(なんきつほっき)

物も人の性格も、環境によって変化するということ


南箕北斗(なんきほくと)

箕(農具)や斗(ひしゃく)が名前についているが、実際に使うことはできない星座であることから、本質が伴っていないこと

 


「東〇西〇」の四字熟語

東食西宿(とうしょくせいしゅく)

食は食事、宿は宿泊。両方に心惹かれ貪欲なこと


東扶西倒(とうふせいとう)

東を助ければ西が倒れるという意味から、考えが迷うこと


東父西母(とうふせいぼ)

不老不死の仙人のこと