教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

歴史教育の周辺(その1) 怪しげな歴史教師の誕生

じつは私、日本史(近代)専攻の社会科教師です。

ずっと小学校勤務でしたので中高の社会科免許状は使ったことがありません。(免許状は、2021年3月末で失効しました。)

 

社会科教師として教員免許を行使したことはありませんが、11回の6年生担任の折には日本の歴史を教えてきました。

ところが、「専門分野」の教育について、在職中も退職後もまとまった文章を書いたことがありません。書くだけの中身がなかったというのが実情です。

 

その辺の事情も含めて、歴史教育の周辺(あくまでも「周辺」です)をそぞろ歩いてみようかと考えています。

 

 

怪しげな歴史教師の誕生

 

私は、教員養成系の大学の「小学校」課程を卒業しています。

私の時代、「小学校」課程は受験・入学時に「国語」「社会」など教科の別はなく、ひっくるめて「小学校」でした。そして、教養課程から専攻課程に移るときに教科を選択する仕組みでした。

 

大学1年の晩秋だったと記憶しています。

 

この年の6月に司馬遼太郎の『竜馬がゆく 一』の文庫本が刊行されました。

竜馬がゆく』は「産経新聞」夕刊に1962年6月21日から1966年5月19日まで連載され、1963年から1966年にかけて文藝春秋社から単行本全5巻で刊行されました。そして、文庫版全8巻の刊行が1975年6月に始まったのです。

最終巻『竜馬がゆく 八』の刊行は9月25日でした。その頃は、刊行日の1カ月も前から本屋の店先に並ぶことはなかったと思います。

1975年10月ごろの本屋さんでは、書架の前の平棚に『竜馬がゆく』全8巻が山のように積み上げられていました。

 

当時の私は、司馬遼太郎についても坂本竜馬についても予備知識ゼロの状態でした。ふと入った駅前書店の圧巻の山に圧倒され、なんとなく手に取ったことがすべての始まりでした。

 

歴史小説など読んだこともなかったのですが、この本の面白いこと。憑かれたように読みふけり、翌日の学校帰り書店によって次の巻を買うといった具合でした。各巻400ページほどあるものを、10日もかからずに読み終えたのでした。

 

ここから私の読書遍歴は2つのルートに分かれます。

1つは、司馬遼太郎作品への傾倒です。数多い司馬さんの作品のうち、幕末物と言われるものはほとんどすべて読破したと思います。

もう1つは、坂本竜馬への傾倒です。これも詳しく言うと2つに分けられて、1つは竜馬その人への興味関心であり、もう1つは竜馬の時代に生きた竜馬を取り巻く人たちへの興味関心です。

 

詳しくは後の稿で触れますが、この読書遍歴が専攻教科を決める段に強く影響したのでした。社会科・日本史・近代(幕末)という私の「専門」は、ルーツは坂本竜馬です。動機は学問としては不純、専門性はほとんどなし(近世文書のくずし字がちょこっと読める程度です)、じつに怪しげな社会科(歴史)教師の誕生です。