年金のこれから
年金の将来が明るくないことは、超高齢化と超少子化が同時進行する日本社会においては自明の理。
何もしなければ破綻は目に見えています。それを何とかするための方策が、2004年の年金法の改正です。政府は「100年大丈夫な制度」と胸を張り、野党は「大丈夫なのは制度だけで、年金生活は大丈夫でない」と言います。
まずはその中身を知ることから始めましょう。
すべての前提として、将来の年金が今よりも悪くなるのは致し方のないこととして議論をスタートします。
焦点となるのは、現役世代の負担増をどの程度で食い止め、年金の受取額減をどの程度で食い止めるのかというバランスです。
現役世代の負担増をどの程度で食い止めるか
国年年金の保険料は、国民年金法で定められています。
2004年に改正された同法第87条により、2017年までは毎年280円(月額)ずつ引き上げられ、2017年以後は17000円と定められました。
具体的な金額は、
法定金額 × 前年度保険料改定率 × 物価変動率 × 実質賃金変動率
で計算して、その年度の保険料が決まります。
2021年度の場合、
17000 × 0.973 × 1.005 × 0.999 = 16607.081
となり、「五円以上十円未満の端数が生じたときは、これを十円に切り上げるものとする」との規定により16610円となっています。
国民年金法の改正がない限り、保険料は17000円前後で固定されることになります。
厚生年金の保険料は、厚生年金保険法で定められています。
2004年に改正された同法第81条により、2017年まで少しずつ引き上げ、2017年9月以降は18.3%に固定されました。18.3%を労使折半しますから、個人負担としては賃金の9.15%で固定です。賃金が30万円だとほぼ27000円の保険料ということになります。賃金が上がれば保険料金も上がりますが、負担率としては一定になります。
つまり、国民年金保険料も厚生年金保険料も、いま現在の水準から大きく上がることはありません。
逆に言えば、国民年金法や厚生年金保険法の改正に注意を払う必要があるということです。
年金の受取額減をどの程度で食い止めるか
年金の受取額は、将来世代の受取額だけではなく、すでに年金受給が始まっている人も含めて減額の方向に動いています。これもまた、2004年の制度改正で始まった動きです。
2004年の年金制度改正により、「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されました。
日本年金機構のホームページから引用します。
マクロ経済スライドとは、平成16年の年金制度改正で導入されたもので、賃金や物価の改定率を調整して緩やかに年金の給付水準を調整する仕組みです。将来の現役世代の負担が過重なものとならないよう、最終的な負担(保険料)の水準を定め、その中で保険料等の収入と年金給付等の支出の均衡が保たれるよう、時間をかけて緩やかに年金の給付水準を調整することになりました。
具体的には、賃金や物価による改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことによって、年金の給付水準を調整します。
なお、このマクロ経済スライドの仕組みは、賃金や物価がある程度上昇する場合にはそのまま適用しますが、賃金や物価の伸びが小さく、適用すると年金額が下がってしまう場合には、調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめます(結果として、年金額の改定は行われません)。
賃金や物価の伸びがマイナスの場合は調整を行わず、賃金や物価の下落分のみ年金額を下げることになります。
〔賃金・物価の上昇率が大きい場合〕
マクロ経済スライドによる調整が行われ、年金額の上昇については、調整率の分だけ抑制されます。
〔賃金・物価の上昇率が小さい場合〕
賃金・物価の上昇率が小さく、マクロ経済スライドによる調整を適用すると年金額がマイナスになってしまう場合は、年金額の改定は行われません。
〔賃金・物価が下落した場合〕
賃金・物価が下落した場合、マクロ経済スライドによる調整は行われません。結果として、年金額は賃金・物価の下落分のみ引き下げられます。
簡単に言うと、「将来の現役世代の負担が過重なものとならないよう、年金の給付水準を調整する」(さらにわかりやすく言うと、「年金を引き下げる」)システムです。ちなみに、以前は物価スライド方式でした。
2018年度以降は未調整分のマクロ経済スライドが次年度以降に繰り越される「キャリーオーバー」の制度が施行されており、今後はさらに年金額の伸びを抑制する要因になりそうです。
2021年度は0.1%減額されました。
現行の年金制度で迎える30年後、40年後の社会。
2019年に厚生労働省から検証結果が公表されています。次回はそれをもとに検討します。