教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」④

「日本の初回報告に関する所見のまとめ」

 

2022年8月22、23日、スイス・ジュネーブにおいて国連の障害者権利委員会による締約国審査(「建設的対話」)が行われました。

日本からも多くの人が現地に行かれ、ネットではいくつもの報告を目にすることができます。

公的な記録はまだ出ていませんが、両者のやりとりは容易に想像できます。

 

9月9日、障害者権利委員会から「建設的対話」を経てなお残った「懸念」と改善のための「要請」が示されます。

「Concluding observations on the initial report of Japan」(私的仮訳「日本の初回報告に関する所見のまとめ」)がそれです。

 

「『障害者権利条約』と『インクルーシブ教育』①」でも触れたように、政府による公的な日本語訳はまだ出ていません。ここではMicrosoftの翻訳機能による日本語訳を掲載し、「私的仮訳」とします。

日本の初回報告に関する所見のまとめ

教育(第24条)
51.委員会は、次の事項について懸念する。     
(a)医学的評価を通じて、障害児の分離された特殊教育を永続させ、障害児、特に知的障害または心理社会的障害のある子どもおよびより集中的な支援を必要とする子どもにとって、通常の環境での教育を利用できないようにすること、ならびに通常の学校における特別支援教育クラスの存在。    

(b)障害児を正規の学校に入学させる準備ができていないと認識され、事実に即したため、障害児を通常の学校に入学させることを否定し、2022年に発行された閣僚通知により、特別クラスの生徒は学校時間の半分以上を通常の授業に費やすべきではない。    
(c)障害のある学生に対する合理的配慮の不十分な提供。    

(d)正規の教育教師のインクルーシブ教育に対するスキルの欠如と否定的な態度。

(e)ろう児のための手話教育、盲ろう児のためのインクルーシブ教育を含む、通常の学校における代替的かつ拡張的なコミュニケーションおよび情報方法の欠如。    

(f)大学入試や学習プロセスを含む高等教育における障害のある学生のための障壁に対処する、国家の包括的な政策の欠如。    

52.    委員会は、インクルーシブ教育の権利及び持続可能な開発目標4、目標4.5及び指標4(a)に関する一般コメント第4号(2016年)を想起し、締約国に対し、次のことを要請する。
(a)分離された特殊教育の停止を目的として、教育、法律及び行政上の取極めに関する国の政策の範囲内で、障害児のインクルーシブ教育を受ける権利を認識し、かつ、障害のあるすべての生徒が、あらゆる教育レベルにおいて必要な合理的配慮及び個別化された支援を提供されることを確保するため、特定の目標、時間枠及び十分な予算を伴って、質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択すること。    

(b)すべての障害児が正規の学校にアクセスできることを確保し正規の学校が障害のある生徒の正規の学校を拒否することを許可されないことを確保するための「拒絶されない」条項および方針を制定し、特別クラスに関する閣僚通知を撤回すること。    

(c)すべての障害児が、個々の教育要件を満たし、かつ、インクルーシブ教育を確保するための合理的配慮を保障すること。    

(d)インクルーシブ教育に関する正規の教育教員及び非教育職員の訓練を確保し、障害の人権モデルに関する意識を高めること。

(e)点字、イージーリード、ろう児のための手話教育、インクルーシブ教育環境におけるろう文化の促進、盲ろう児のためのインクルーシブ教育へのアクセスを含む、通常の教育環境における拡張的および代替的なコミュニケーションモードおよびコミュニケーション方法の使用を保証すること。    

(f)大学入試や学習プロセスを含む高等教育における障害のある学生のための障壁に対処する国家包括的な政策を策定する。

 

「懸念」および「要請」の(a)(b)に絞って稿を進めます。

 

(a)において、障害者権利委員会は「(日本の取り組みは)障害児の分離された特殊教育を永続させ通常の環境での教育を利用できないようにする」と懸念を示します。さらに、特別支援学級の存在も問題にしています。

日本のやっていることは、「分ける教育」を永続させ、普通学校・学級での教育を利用できないようにするものじゃないかと言っているのです。「アンチ・インクルーシブ教育」の烙印です。ーー日本政府の言葉を尽くした説明の後の評価がこれです。外からの目は冷静にことの本質を見抜いています。

 

その上で、こう「要請」しています。

分離された特殊教育の停止を目的として特定の目標、時間枠及び十分な予算を伴って、質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択すること

つまり、「分けない教育」の実現というゴールを示した上で、「分ける教育」をやめていく工程表を示すように求めているわけです。

「日本政府さん、そろそろインクルーシブ教育のスタートラインに着きなさいよ」と言われているのが2022年時点の現状です。

 

(b)については、次回に触れます。

 

                            (つづく)