教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」②

「障害者の権利に関する条約 第1回日本政府報告」

 

条約締約国は、批准した条約の内容と齟齬ないように国内法や制度の見直しを行う必要があります。その工程や進捗状況をまとめたものが、「政府報告」です。

 

日本が「障害者権利条約」を批准したのは2014年1月です。批准から2年以内に国連の障害者権利委員会に政府報告を提出しなければなりません。実際には、2016年5月になって「第1回政府報告」を提出しました。

教育部分を抽出して紹介します。

第24条  教育
154.憲法第26条は、すべての国民に対して、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を保障している。また、国民に対して、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を課しており、義務教育は無償と規定されている。


155.教育基本法第4条第2項において、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならないことが規定されている。また、障害者基本法第16条は、国及び地方公共団体に対して、障害者が、その年齢、能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童生徒が障害者でない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じること、また、国に対して障害者の教育に関する調査研究を推進すること等を義務付けている。


156.学校においては、学校教育法体系に基づき、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う特別支援教育が実施されており、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」が整備されており、引き続きこれらの場の充実に取り組んでいく。2014年5月現在、小・中学校において通級による指導を受けている児童生徒数は83,750人(2009年5月:54,021人)、小・中学校の特別支援学級に在籍する児童生徒数は187,100人(2009年5月:135,166人)、特別支援学校(幼稚部から高等部まで)に在籍する幼児児童生徒数は135,617人(2009年5月:117,035人)である。なお、特別支援学校に在籍する児童生徒等について、障害者基本法第16条の「障害者である児童及び生徒と障害者でない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって、その相互理解を促進しなければならない。」との規定等を踏まえ、小・中学校等に在籍する障害のない児童生徒との交流及び共同学習が行われている。また、我が国では、義務教育段階において、病弱・発育不全を理由として保護者の申し出により就学猶予・免除を受けている児童生徒は、2014年度は48人(0.0005%)である。


157. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校においては、日常生活上、学習生活上のサポート等を行う特別支援教育支援員の配置等による支援が行われている。特別支援教育支援員は年々拡充されており、2014年度については、前年度から3,400人増の49,700人分の地方財政措置を行っている。また、日常的に医療的ケアが必要な幼児児童生徒は公立特別支援学校において7,774人(2013年度:7,842人)、公立小・中学校において976人(2013年度:813人)である。なお、公立小・中学校において、日常的に校舎内において障害のある児童生徒に付き添っている保護者等の人数は1,897人である。


158.就学先決定の在り方については、2013年8月に学校教育法施行令を改正し、就学基準に該当する障害のある子供は特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとするとともに、保護者及び専門家からの意見聴取の機会を拡大した。その際、本人、保護者の意向を可能な限り尊重し、教育委員会が決定することとした。2014年度の小学校・特別支援学校就学予定者(新第1学年)として、市区町村教育支援委員会等の調査・審議対象となった人数は、42,352人(2013年度:39,208人)、うち、学校教育法施行令第22条の3(特別支援学校に就学することが可能な障害の程度)に該当する人数は8,651人(2013年度:8,453人)である。そのうち、公立特別支援学校に就学した人数は6,341人(2013年度:6,190人)である。


159.また、障害のある児童生徒等の保護者等の経済的負担を軽減するために、特別支援教育就学奨励費の支給等の支援が行われている。


160. 小・中学校等の学習指導要領において、障害のある児童生徒については、個別の教育支援計画等を作成することなどにより、個々の児童生徒の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的に行うこと、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習の機会を設けることのほか、誰に対しても公正、公平にし、差別や偏見のない社会の実現に努めること、障害のある人々などとの触れ合いを充実するよう工夫すること等を指導することが規定されている。なお、幼稚園、小・中学校、高等学校における個別の教育支援計画の作成率は年々向上しており、2014年度の作成率は81.5%である。


161.特別支援学校学習指導要領においては、障害種ごとの配慮事項が規定されている。視覚障害者である児童生徒を教育する特別支援学校の配慮事項として、小中学部においては「児童の視覚障害の状態等に応じて、点字又は普通の文字の読み書きを系統的に指導し、習熟させること。なお、点字を常用して学習する児童に対しても、漢字・漢語の理解を促すため、児童の発達の段階等に応じて適切な指導が行われるようにすること」等が規定されており、これらを踏まえた指導が行われている。また、聴覚障害者である児童生徒を教育する特別支援学校の配慮事項として、例えば小中学部においては「児童の聴覚障害の状態等に応じ、音声、文字、手話等のコミュニケーション手段を適切に活用して、意思の相互伝達が活発に行われるように指導方法を工夫すること」等が規定されており、手話をはじめとする多様なコミュニケーション手段を選択・活用した指導が行われている。また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における都道府県の指導者を対象とした研修の中で、手話又は点字に関する内容を扱っている。なお、小・中学校の通級による指導や特別支援学級で特別の教育課程を編成する場合は、特別支援学校の学習指導要領を参考とし、実情に合った教育課程を柔軟に編成することとしている。


162.「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」においては、障害のある児童生徒のための文字や図形等を拡大した教科書や点字教科書の発行の促進を図るとともに、その使用の支援について必要な措置を講ずること等により、教科用特定図書等の普及の促進等を図ることとされている。2014年度に小・中学校等の義務教育諸学校で使用される教科書に対応した拡大教科書は全点発行された。高等学校段階については、視覚障害特別支援学校高等部で使用されている主たる教科に関する拡大教科書は全点発行されたが、高等学校で使用される教科書については、教科書の種類が非常に多く、十分に普及していないため、普及促進を図るための調査研究を行っている。


163.教育職員免許法等において、幼稚園、小・中学校、高等学校の教諭の普通免許状を取得するためには、特別支援教育に関する事項を含んだ科目の単位を修得しなければならない。また、特別支援学校の教員は、原則として特別支援学校の教員の免許状を有していることが必要である。


164.教育基本法の趣旨も踏まえ、政府の障害者基本計画において、障害のある児童生徒の後期中等教育への就学を促進するための配慮及び福祉、労働等との連携の下での、就労支援の充実を図ることとしている。また、高等教育における支援の推進として、障害のある学生への個々の障害特性に応じた情報保障やコミュニケーション上の配慮、施設のバリアフリー化、入試等における適切な配慮、大学等における情報公開を推進することとしている。


165.教育基本法第3条において、障害者を含む国民一人一人の共通理解の下、国及び地方公共団体をはじめ、学校、家庭、さらに各種団体や企業等も含め地域を通じた社会全体で、生涯学習社会の実現が図られるべきという「生涯学習の理念」を規定している。また、同法第4条に教育の機会均等を規定し、その第2項として、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じる義務を国及び地方公共団体に課している。さらに、同法第12条に社会教育を規定し、個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならないとしている。


166.職業能力開発促進法第15条の6、第16条において、障害者職業能力開発校(全国に19校)の設置等を定めている。また、同法第3条の2第4項では、身体又は精神に障害がある者等に対する職業訓練は、特にこれらの者の身体的又は精神的な事情等に配慮して行わなければならないと規定されており、他の職業訓練施設においても障害者に対する配慮がなされている。なお、一般の公共職業能力開発校における障害者の受講状況は、2012年度は608人、2013年度は663人となっている。


167.なお、本条に関しては、政策委員会より、インクルーシブ教育を推進していくために、我が国が目指すべき到達点に関する議論、また、進捗状況を監視するための指標の開発とデータ収集が必要であるとの指摘があった。また、具体的な課題として、個別の教育支援計画、個別の指導計画の実効性の担保、合理的配慮の充実、本人及び保護者の意思の尊重、特別支援教育支援員の配置や教育的ニーズに応じた教材の提供といった環境の整備などについて問題提起があった。(より詳しくは、付属文書を参照のこと)

 

障害者権利条約」の教育条項と「政府報告」を対照します。

障害者権利条約

第二十四条 教育
1 締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は、次のことを目的とする。
(a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
(b) 障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(c) 障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。

2 締約国は、1の権利の実現に当たり、次のことを確保する。
(a) 障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと
(b) 障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること
(c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。
(d) 障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること
(e) 学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること

 

「政府報告」

第24条  教育
154.憲法第26条は、すべての国民に対して、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を保障している。また、国民に対して、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を課しており、義務教育は無償と規定されている。

155.教育基本法第4条第2項において、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならないことが規定されている。また、障害者基本法第16条は、国及び地方公共団体に対して、障害者が、その年齢、能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童生徒が障害者でない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じること、また、国に対して障害者の教育に関する調査研究を推進すること等を義務付けている。

156.学校においては、学校教育法体系に基づき、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う特別支援教育が実施されており、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」が整備されており、引き続きこれらの場の充実に取り組んでいく。

 

障害者権利条約」が求めているのはインクルーシブな社会でありインクルーシブ教育、障害のある者とない者を分けない教育です。

障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと

自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること

障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること

完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること

これに対する「政府報告」の記載はこうです。

障害者基本法第16条は、「可能な限り障害者である児童生徒が障害者でない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮」すること等を義務付けている。

特別支援教育が実施されており、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」が整備されており、引き続きこれらの場の充実に取り組んでいく。

両者は大前提の部分で明らかにズレています。

それでも日本政府はズレをただすということはしません。特別支援教育=インクルーシブ教育だと胸を張って報告書にしています。

 

                               (つづく)