教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

保護者とは子育て協働の関係でありたい⑦

シリーズの最終回です。

 

学級通信の「おうちの方へ特集号」では、教室の授業風景もしばしば届けました。教室の学びを知ってもらうことは、保護者が他所さまの子も含めて子どもを深く知る機会にもなりますし、どんな教育を目指しているのかといったことに触れる機会にもなります。そのことが、教師と保護者の目線が揃うことに有意だと私は確信しています。

ときには物語の読みの授業1単元分を丸ごと「授業通信」として出したこともあります。それは固有名詞の頻出で、とても公開できるものではありません。

今回は、「無難な」?2コマを紹介します。

 

 

おうちの方へ特集号 2008.6.12

 

学び合いのある教室へ


 今、国語で「生き物はつながりの中で」という学習をしています。説明文です。短い文章ですので、是非ご一読ください。子どもたちは、各学年で3つの説明文を学んできました。それらは、「自動車」「たんぽぽ」「あり」「大豆」「ハチ」といった目に見える具体的なものについて書かれていました。今回は「つながり」という抽象的な世界です。子どもたちが大人の精神世界に歩を進めていることを強く感じます。


 さて、授業の冒頭、「問題提起(問い)」の文はどこにあるかと聞きました。子どもたちは、1段落、3段落、8段落にある疑問文を見つけ出し、答えました。それらはすべて問いかけなのですが、私の問いに対する答えではありません。「問題提起文」とは「これから説明する内容の中心を予告する役割を果たす前置き文」であることを確認し、「問題提起文」には「疑問文」と「呼びかけの文」があることを説明しました。そして、やっとのことで、1段落の終わりの部分に解を求め、「ロボットの犬とホンモノの犬のちがいを考えながら、生き物の特徴をさぐってみましょう」とまとめることができました。この1時間で、「問い」に対する「答え」の文も見つける予定だったのですが、ちょっとした誤算です。


 回り道は時に予想外の成果をもたらしてくれるものです。


 誤算の結果、「答え」の文を見つける授業にたっぷり1時間を費やすことになりました。隣席の子とペアで朗読し、相談タイムに突入。13ペアの内10ペアは7段落の「生き物は、外の世界とつながり、一つの個体としてつながり、長い時間の中で過去の生き物たちとつながるというように、さまざまなつながりの中で生きていることが分かりました。」だと主張しました。その中の3ペアは、続きの文「このつながりこそが、生き物の生き物らしいところであり、ロボットとのちがいです。」を含む2文だと主張しました。残りの3ペアは、4段落の「外から取り入れたものが自分の一部になる、そのようなつながり方で外とつながっているのが、生き物の特徴です。」だと主張しました。意見が分かれると、授業は俄然おもしろくなります。


 なぜそう思うかと聞くと、4段落を選んだ1人が「生き物の特徴です」と書いてあるからと答えました。正解です。少数派の彼は思わずにっこりです。7段落組の反撃や如何に。


「それやったら、5段落にも『変化・成長しながら、一つの個体として時間をこえてつながっている、これも生き物の特徴です。』って書いたるで。」混乱に拍車をかけるヤツがどこの学級にもいるものです。「あっ、ほんまやな、それはどう思う?」と先ほどの彼に振ってみると、「一応見つけてたけど、先生が答えは一つと言ったから…。」と困ってしまいました。しばし沈黙。


「7段落にそれ書いたる。」と7段落組の1人。「どこ?」と聞くと、「外の世界とつながり」が4段落、「一つの個体としてつながり」が5段落のことだと言うのです。「と言うことは、7段落には4と5の中身が入ってるということやな。」(本当は6段落の中身もだけど、今はいい。)と言うと、7段落組は勝者の顔になりました。


 揺さぶりは続く。7段落組の2文選んだペアに、「2文のうちのどちらが主か?」と問うと、3ペアとも後の文と答えました。前の文は指示語「この」を言い換えるために使うのだと答えてくれました。脱帽です。学びの深さはもはや核心部に迫っています。まあ、ここまでくると、ポカンと口が開いたままの子もいますが…。


 これから段落ごとの読みが始まります。その後、文章の構成を整理して、要約文を書き、最後に筆者の主張に対する自分の考えをまとめます。今後の展開を考えると、1時間の回り道は元を取って十分にお釣りがくるものになりました。26人寄れば大文殊の知恵です。学び合いのある学級は、実に楽しいものです。この楽しさを独り占めしておくのは勿体なくて、お裾分けさせていただきました。


 来週の水曜日、この学習の終盤の授業を先生方に見ていただきます。

 

 

おうちの方へ特集号 2010.6.22


学びと学び合いのある教室


 先週の金曜日、県内のある先生が授業参観に来られました。5年生の教室では、4時間目の算数を参観されました。帰り際、その先生は「感銘を受けました。」と興奮気味に声をかけてくださいました。別に特別な授業をしたわけではありません。いつもの教室風景に「感銘」があるとすれば、それは何なのでしょう。今回は、木曜日と金曜日の「小数のわり算」の仕組みを学ぶ授業を再現して紹介したいと思います。

 

 木曜日。

 

 問題を4マス関係図に書いて、立式すると、「200÷2.5=」となりました。小数で割ったことがないので、計算できません。今までに習った方法を使って解けないかと問いました。子どもたちは、「小数のかけ算」の仕組みを学んだ時の経験を生かして、整数にすればできると答えました。そこから、試行錯誤が始まります。


 いち早く見つけたのは、Nくんでした。「200÷25」で計算して、答えの小数点を左に1つ戻せばいいというのです。かけ算の時の「教訓」が生きています。私はこれを「N流」と名付け、彼を「N流家元」に認定しました。
 みんなで筆算しました。「N流」で計算すると、答えは0.8になります。「先生の暗算では80になるはずなんだけどなあ。」と言うと、「家元」はそこで行き詰まってしまいました。


 代わって手を挙げたのがSくん。彼は、割る数と割られる数の両方を10倍して、「2000÷25」で計算すれば80になると言います。みんなで筆算すると、確かに80になります。そこで、彼を「S流家元」に認定しました。


 さて、「N流」です。答えの小数点を左ではなく右へ動かせば80になると、Fさんから助け船が出されました。確かにその通りです。かくして、「家元」は乗っ取られ、「N流」は「F流」と改称されました。私は、小数点を右に動かす(=10倍する)理由を、200÷2.5=200÷(25÷10)=200÷25×10=8×10と説明しました。


 その後、教科書で確認すると、「N改めF流」は「かずやさん」の考え方として、「S流」は「まみさん」の考え方として紹介されていました。期せずして、子どもたちから「すごい」と歓声が上がりました。ここで授業終了。

 

 金曜日。

 

 「F流」と「S流」のエキスを確認して、次なる問題に進みます。


 昨日同様に問題文を4マス関係図に書いて、立式すると、「7.8÷6.5=」となりました。昨日とどこが違うと聞くと、「両方とも小数になった。」とMくん。滑り出しは好調です。


 「○○流」を使って何とかしてみようと言うと、全員が「S流」。Fさんに家元を守るようお願いをして、両流派のやり方で筆算してもらいました。


【S流】7.8×10=78 6.5×10=65 78÷65=1.2


【F流】7.8÷65=0.12 小数点を右へ1つ移動するから 1.2


 どちらでもできるがどちらがやりやすそうかと聞くと、Fさんも含めて全員が「S流」だと言います。「F流」は計算の答えと本当の答えが違うので、書き間違いが起こりやすいというわけです。


 ここで、「S流」を使った筆算の仕方を教えました。みなさんご存知の、小数点を「\」で消して移動するヤツです。「×10」が「\」だと言うと、「早い」「便利」と感心しきり。その後、ここまでのまとめと練習問題をして、授業を終えました。

 

 「感銘」などと大仰な言葉をかけられて、改めて振り返ってみると、授業に向き合う子どもたちの姿が実に素晴らしいことに気付きます。塾などで得た予備知識で先走る子もなく、真摯に向き合い、真剣に考え、一生懸命発表しようとします。一人の学びに触発されて、周りの子の学びが進む場面もしばしばあります。それが学びの質を高めます。友だちの気づきに素直に拍手し、何のわだかまりもなく教え合いが始まります。一人ひとりの理解の速さと深さには自ずと差があります。しかし、この教室では、一人ひとりの学びと、みんなの学び合いが具体的に見えます。

--これは学校という場所の当たり前の姿かも知れません。

 でも、現実には、当たり前の姿が見られる教室というのはそれほど多くはありません。先の先生の「感銘」は、今般の状況の裏返しとも言えます。

 それにしても、教室の「原風景」とも言える学びの場にいる喜びを感じずにはいられません。ありがとう、子どもたち。そして、子どもたちを育ててくださったみなさんに、多謝。