教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「1ヶ月で勝負」したクラスの記録③

■「1ヶ月で勝負」したクラスの記録■その2

 

学級開きから1週間。

 

2005年4月14日、学級通信の8号です。

もっとすてきな明日のために


■四月十二日 なやんだ結果■KZ
 昼休みに学級委員を決めました。決め方は、今まで一度も学級委員になったことがない人で話し合って決めました。私は一度も学級委員になったことがなかったので、その話し合いをする人の中に入っていました。そして、みんなが集まったので話し合いが始まりました。私はやってみようかなあとは思ったけど、やっぱりみんなをまとめたりする自信がなかったので、やめようかなあと思ったりしました。そして、なかなか決まりませんでした。私はその時思いました。「よし、いい経験にもなるし、今までの学級委員の人もがんばっていたので私もがんばろう。」と思いました。そして、「一学期の学級委員やる。」と言いました。その後、二月期、三学期の学級委員もすぐに決まりました。私は、これからみんなをしっかりまとめたり、学級会の司会などを上手にしていきたいと思います。

 

 昨日のアンケートの結果をもとに、6年生スタートの1週間を振り返り、これからのことを考えたいと思います。


(1)6年生のスタートから1週間が過ぎました。クラスの空気・雰囲気で、どんな小さな変化でもいいですから、良くなっていると感じていることがあれば書いてください。

 「明るくなった」と10人が書きました。「楽しそう」が2人、「笑うことが多くなった」「笑顔でいることが多くなった」と書いた人もいました。授業の雰囲気では、「今までにないくらい落ち着いている」「はっきり物を言う」と感じている人や、「音楽の時大きな声で歌うようになった」(2人)、「ちゃんと話を聞くようになった」(2人)と感じている人もいました。M先生も、音楽の時間の雰囲気が変わったと言っておられました。まだ始まったばかりですが、クラスのエネルギーがプラスの方向に向かって動いていることを確認し合いたいと思います。


(2)一人ひとりが自分の力を発揮しながら、「連凧」のようにしっかりとつながりあったクラスにするためには、どうすればいいでしょう。あなたのアイデアを書いてください。
 ①クラスにあったらいいな、自分がやってみたいなと思う係や仕事(具体的に)
 ②たとえば去年の6年生が映画を作ったように、みんなで力を合わせて作り上げたいもの
 ①については、いくつかのアイデアが出されました。もう少し話し合いを重ねて、具体化していきましょう。②については、ほぼ全員が「映画」と書いていました。連凧を作って揚げるというのもありました。できれば希望通りになればいいなあと思います。(冷たいようだけど、今はまだ約束できません。)


 ぼくの思いを聞いてください。きみたちは6年生の始業式の日、何かすてきなことがありそうだと、とても大きな期待をしていたと思います。「期待」というのは「あてにして待つ」ことですが、待っていると時としてあてがはずれることもあります。中学校の入学式で、校長先生がこんなお話をされていました。
 くつを作っている会社の社員2人が、自社の製品を売り込むためにアフリカのある国を訪れました。しばらくして、社員Aから本社に電話が入りました。「すばらしい我が社のくつを売ろうと期待していたのですが、絶望です。この国の人たちには、くつをはくという習慣がありません。誰一人として興味を示しません。」社員Bからも電話が入りました。「この国の人はまだくつをはいていません。我が社のくつのすばらしさをアピールすれば、すべての人にはいてもらうことも夢ではありません。チャンスです。」2人の社員は同じ状況に出あいながら、Aは「期待はずれ」と感じ、Bは「期待通り」と感じています。つまり、積極的な働きかけがあって「期待」が現実になっていくのです。


 KZさんの日記を読んでいてうれしくなりました。KZさんが悩んだ末に出した結果こそ、社員Bの前向きな生き方なのです。3年ぶりに学級委員を選出した男子の思いも含めて、ぼくは一人ひとりの「なんとかしたい」という気持ちを大切にしたいと思います。(2)については、まだ「あてにして待つ」だけの人が多く、結論を出すことはできません。


(3)困っていることや悩んでいることがあれば、ちょっと打ち明けてみませんか。どうすれば解決できるか一緒に考えていきたいと思っています。
 友だち関係の悩みを書いてくれた人が3人いました。ここに書けなかった人もいるかもしれません。きのうから、朝の不連続小説『五年四組のイカダ』が始まりました。物語に出てくる子どもたちは、あなたのとなりの席の友だちかもしれませんと、「はじめに」に書いていました。自分の心の中やクラスの友だちのことを静かに振り返ってほしい、ぼくはそんな思いからこの本を選びました。そして、いつの日か必ず、一人の悩みをみんなで解決できるなかまになってほしいと願っています。

 

 

《余録》

『五年四組のイカダ』高科正信著・フレーベル館・1985年

『五年四組のイカダ』は児童書ですが、学級集団づくりを学ぶ秀作です。残念ながら絶版になっていますので、古本でしか手に入りません。でも、お薦めです。

高科さんは元教員で、集団づくりの学習会で何度か顔を合わせたことがあります。はやくに教員から作家に転向され、いまも絵話塾の講師などでご活躍の由。

そのころ学習会で一緒だった教員の一人に園田雅春さんがいます。園田さんにも集団づくりを学ぶに適した良書が多くあります。後年、大阪教育大学で教員志望の学生の指導にあたられました。

私は凡庸ながら、スゴイ人たちと学びをともにしていたんだなあと感慨深いです。