教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「1ヶ月で勝負」したクラスの記録⑤

■「1ヶ月で勝負」したクラスの記録■その4

 

6年生のスタートからちょうど1ヶ月、5月9日の学級通信です。 

 

私たちの課題が見えてきた


 6年生最初の1か月が過ぎました。ふわふわとした羽毛にくるまれたような、優しい時間が経過していきました。教室に流れる空気(ムードと言ってもいい)はとてもいいと思います。しかし、ムードだけではやがて物足りなさを感じる日がやってきます。ぼくが今感じている課題を示したいと思います。

 

        私たちのめあて


   一人ひとりがしっかりとした「凧」になろう!


   大空にも心にも「連凧」を揚げよう!


 私たちのめあては2つです。それぞれのめあてについて、具体的に述べていきましょう。


■一人ひとりがしっかりとした「凧」になるということ
 自分の五感で見聞し、自分の頭で考え、自分で判断したことを、自分の言葉と行動で表現する--そうした生き方をすることが、自分を大切にすることになるのです。ぼくが「自分」という言葉にこだわるのは、一人ひとりが人生の主人公になってほしいと願うからです。人の意見に耳を傾けることと、判断や行動を人任せにすることは全く違います。
 同じものを見聞きしても、感じ方や考え方はさまざまです。したがって、言葉や行動で表現されることも人によって違います。すべての人の顔が違うのと同様に、考え方や表現も違っていていいのです。この違いを「個性」と言います。
 一人ひとりがしっかりとした「凧」になるということは、個性(自分らしさ)を大切にするということです。静かすぎる授業はだめです。ワイワイガヤガヤが一杯の教室にしましょう。いろんな考えや答えがあるから学習が深まるのです。仕事をするときは、指示される前に動きましょう。新しいアイデアは、自分から働きかけることによって生まれるのです。


■大空と心に「連凧」を揚げるということ
 「凧」を1本の糸でつなぐと「連凧」になります。しかし、それでは「連凧」の魅力を説明したことにはなりません。「連凧」は、1枚1枚の「凧」をつないで作ります。それぞれの「凧」は揚がるように作られているのですが、ちょっとかたむくものや、すぐに落ちてくるものもあります。その点では人間の「個性」と似ています。それら1枚1枚の「凧」を25枚つないだ「連凧」は、最もよく揚がっていた1枚の「凧」よりもなお勢いよく揚がるのです。人間に置き換えて言えば、25人の「個性」が集まることによって30人分も50人分ものパワーになるのです。これが「連凧」の魅力です。
 きみたちの1つ先輩は、運動会の応援団や音楽発表会、映画作り、きみたちとのバスケットボール大会などで、すてきな「連凧」ぶりを見せてくれました。きみたちはどんな「連凧」を揚げるのでしょう。大空に勢いよく舞う「連凧」をぼくは毎日思い描いています。そのためにも、まずは自分という「凧」をみがいてほしいと思います。
 人が凧と違うのは、大空だけではなく心にも「連凧」を揚げられるところにあります。心に揚がる「連凧」は、目で見ることはできません。それは、大空にいくつ目かの「連凧」が揚がったとき、ポッと姿を見せてくれるのです。それがいくつ目かは分かりません。いつごろかも分かりません。見ないままに卒業を迎えることだってあるでしょう。
 心に揚がる「連凧」のことを「なかま」と言います。「仲良し」とはまた違って、言葉で言うのは難しいのですが、ぬくもりがあってほっとできるような時間と空間が広がっています。ぼくは、きみたちと一緒にこの時間と空間を見たいと思います。

 

おうちの方へ

 定期の家庭訪問が終わりました。ご協力ありがとうございました。子どもたちは、多くの人の思いや生活を小さなランドセルに詰め込んで登校しているんだと改めて感じました。私やクラスに温かいまなざしを注いでいただいていることをとてもうれしく思います。
 この1か月の生活や家庭訪問を踏まえて、1年間の学級目標を立てました。「凧」と「連凧」は、「個」と「集団」の課題をシンボル化したものです。「個」については、全体的に線の細さを感じています。「しっかりとした『凧』」をめざす中で、人間の根っこの部分を太くたくましいものに鍛えたいと思います。6年生のスタートを歓迎してくれた子どもたちを、「このクラスでよかった」と言って卒業させてやることが、私の仕事だと自らに課しています。そんななかま集団を育てることが、「心に『連凧』を揚げる」ということだと考えています。
 どうか知恵と技と体力を貸してください。 

 

かつて経験したことのないほど子どもたちから望まれ、歓迎された担任でした。出会いを綴り、1週間の振り返りを綴り、2週間の振り返りを綴り、わずかにでもいい変化は努めて通信で子どもに返しました。何とか最初の1か月の目標は達成できたように思います。

 

そこでやっと、クラスのめあての登場です。子どもたちが同じ土俵に乗るのに、1か月かかったことになります。

 

この時点で、発行した学級通信は26号。まさに全力疾走の1ヶ月でした。

 

「ものがたり」は、次の1ヶ月につづきます。