教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

安倍教育改革の遺したもの

先刻、安倍晋三内閣総理大臣がその職を辞しました。

 

安倍政権は、第1次政権(2006年9月26日~2007年8月27日)の11ヶ月と第2次政権(2012年12月26日~2020年9月16日)の7年8ヶ月をあわせると、8年7ヶ月に及びました。

 

安倍政権が教育の世界に遺したものは、教育基本法(2006年)の改正と道徳の教科化(2015年)がその代表的なものと言えるでしょう。

加えて、教員の立場からすれば教員免許更新制を導入するための教育職員免許法の改正(2007年)も外すことはできません。

 

朝日新聞は、9月6日の特集「安倍政権 教育現場では」で、教育基本法と道徳の「いま」を取り上げました。

 

教育基本法変わり「つくづく窮屈」

 

国が成果目標設定 縛られる学校

 

 「教育の憲法」と呼ばれ、戦後教育の根幹となってきた教育基本法が3年ぶりに改正されたのは、2006年2月4日。 第1次安倍政権が発足し、安倍首相が所信表明演説で改正案の早期成立を語ってから3カ月足らずのことだった。
 東京都内の市立中学校で社会科を教える教諭(33)は、学生として国会前の抗議集会に参加していた。 改正の一報が届いたとき、「とうとうか」と力が抜けた。
 13年たって、改正の影響を感じる。 例えば、来年からの学習指導要領は冒頭に基本法を掲げている。 基本法の2条は「我が国と郷土を愛する」をはじめ、「道徳心」「公共の精神」「伝統と文化の尊重」などの「態度を養う」よう求めているが、 「いま思えば、道徳の教科化と重なっている」。
 教科書では領土の記述が増えた。「しかも国の見解の紹介が中心。 中国や韓国がどんな見解かを扱わないと、なぜ対立が生まれているかわからないのに」
 岡山県の中学校教諭(58)は、県が策定した教育振興基本計画に、教育基本法改正の影響を感じる。 基本法1条では、自治体は国の計画をふまえて定めるよう努めなければならないとされている。
 県の計画では、成果目標を定めた国の計画にならって、「全国学力調査10位以内」「不登校の出現割合1千人当たり9・6人以下」「授業エスケープをしている児童生徒がいる学校数12校」などと、数値を明確に示した目標が盛り込まれている。「予算を増やしてくれる計画だと思っていたら、目標が独り歩きして子どもや学校を縛る計画になってしまっている。窮屈になったとつくづく思う」と教諭は話す。

 

道徳教科化 決まった見方求めがちに

 

 第1次政権での教育基本法改正に続き、第2次政権では、教科外活動だった道徳が小学校で18年度、中学校で19年度から「教科」になることが決まった。
 教科書は学習指導要領が学年ごとに定める「節度、節制」「国や郷土を愛する態度」など、およそ20の「内容項目」を網羅することが求められた。
「内容項目というお題は決まっている。授業もそこに向かって水路づけされ、外れた発言を取り上げてみんなで考えることはしにくくなった」と、埼玉県内の公立小学校教諭(45)は言う。
 今夏、大阪府内のある公立小学校1年生の道徳の授業。担任の若手教師は、教科書にある「はしのうえのおおかみ」を読み上げた。あらすじはこうだ。
  一本橋で出会ったウサギに「戻れ」と怒鳴ったオオカミ。大きなクマに出会うと、クマは抱き上げて渡らせてくれる。 再びウサギと出会ったオオカミは、クマと同じ行動をとり、「いい気持ち」になったーー。
 教師はオオカミの変化の理由を問いかけた。親切なクマとの山会いを挙げる発言が続くなが、ある女子児童が「ウサギさん、かわいそう」と言った。教師は、自ら手を挙げて発言したことをほめたうえで「質問をよく聴いてね」と返した。
 授業を補助したベテラン講師が女子児童に発言の理由を聞くと、「オオカミに怖いことをされたのに、抱っこされるのは……」。児童の真意を教師が受い止め損ねた形だが、「この先生だけの問題ではない」と講師は指摘する。「『親切」「礼儀」など1年間で学ぶ項目が多く、それに沿った答えを求めがちになる」
 評価をめぐる課題もある。
 通知表には、評価が数値ではなく記述式で書かれる。東京都内の公立小学校教論の宮澤弘道さん(43)は、「(定番教材の一つ)手品師」の学習を通して、どんなに自分にとって大切なことをふいにしても、約束を守る主人公の誠実さに気付き、誠実であることのよさを理解することができました」のように、内容項目ごとに「教材の伝える価値」を機械的に定型文化し、記入している教員が多いと指摘する。
 子どもが記入したワークシートを見ながら所定の項目を入力していくと、文例が示されるソフトも広まっているという。
 宮澤さんは、規則の順守や障書を「自力で」乗り越えることなど、教材が自己責任論で貫かれている点、また、それに疑問をもつ教員が減っている点にも危機感を感じている。「教科書、ひいては公権力が『良し』としている価観をそのまま教え、評価することが、完全にシステム化されてしまった」
           (編集委員・氏岡真弓、宮崎亮、三島あずさ)

                      2020.9.6 「朝日新聞

 

新聞記事を読んで、「ああ、やっぱりな」と思いました。 

 

しかし、納得して終わるわけにはいきません。

 

「覆水は盆に返らず」

 

近いうちに私なりの特集を組みたいと思います。