教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

安倍教育改革の遺したもの(その6)

教員免許更新制の導入②

 

教員免許更新制導入の経緯とねらいについて考えます。

 

教員免許更新制導入に関して、自民党においては1980年代から議論が始まっていました。

それが表舞台に出てくるのは、「教育改革国民会議」の「教育改革国民会議報告 -教育を変える17の提案-」(2000年12月22日)からです。

 

教育を変える17の提案

4.新しい時代に新しい学校づくりを

◎教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる
 学校教育で最も重要なのは一人ひとりの教師である。個々の教師の意欲や努力を認め、良い点を伸ばし、効果が上がるように、教師の評価をその待遇などに反映させる。

提言

(1)努力を積み重ね、顕著な効果を上げている教師には、「特別手当」などの金銭的処遇、準管理職扱いなどの人事上の措置、表彰などによって、努力に報いる。
(2)すべての教師が、退職するまで児童・生徒に直接接し、教える仕事に就くことが望ましいとは限らない。学校内でも適性によって異なる役割を負い、また、必要に応じて学校教育以外の職種を選択できるようにする。
(3)専門知識を獲得する研修や企業などでの長期社会体験研修の機会を充実させる。
(4)効果的な授業や学級運営ができないという評価が繰り返しあっても改善されないと判断された教師については、他職種への配置換えを命ずることを可能にする途を拡げ、最終的には免職などの措置を講じる。
(5)非常勤、任期付教員、社会人教員など雇用形態を多様化する。教師の採用方法については、入口を多様にし、採用後の勤務状況などの評価を重視する。免許更新制の可能性を検討する

 

教育改革国民会議の提言では、免許更新制は明らかに「不適格教員」への対応という文脈のなかで語られています。

 

これを受けて、中央教育審議会中教審)は2002年2月21日、「今後の教員免許制度の在り方について(答申)」を出しました。

 

教員免許更新制の可能性


1.教員免許更新制をめぐる背景と検討の視点


(略)

このような期待が高まる中,平成12年12月,教育改革国民会議最終報告において,「教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる」観点からの提言の一つとして,「教員免許更新制の可能性の検討」が提言された

(略)

我々は,教員免許更新制の導入の可能性を議論するに当たって,次のような視点を設定し,検討することとした。すなわち,今教員に求められているのは1教職への使命感,情熱を持ち,子どもたちとの信頼関係を築くことのできる適格性の確保であり,2教科指導,生徒指導等における専門性の向上である。そして,これからの学校に求められるのは,説明責任を果たすことを通じての3信頼される学校づくりであると考える。このような学校づくりを支えるべき教員には,1及び2の教員の適格性の確保や専門性の向上を当然としつつも,新たな資質能力が求められているのではないかと考える。
本審議会としては,教員免許更新制の導入の目的を,これら三つの視点のうち個々の教員の基本的な資質に直接かかわる上記1及び2の二つに置いて制度を想定し,その導入の可能性を検討した。また,これら三つの視点について検討を行い,教員の資質向上に向けて実効性ある具体的方策を模索した。我々は,一部の適格性を欠く教員には厳しく対処していく一方,とかく閉鎖的であるとされる学校組織や教員社会に良い意味での緊張感を醸成し,子どもたちのために日々地道に努力している教員を適切に評価することによって,多くの教員の士気を高めその専門性の向上を促したいと考えている。

(略)

 

3.教員免許更新制の可能性の検討

 

(1)検討の視点 教員免許更新制の可能性について検討する視点として,その目的を,1教員の適格性確保に置く場合2教員の専門性向上に置く場合とに分けて,その仕組みを想定し検討する。

 

(略)


(2)教員の適格性確保のための制度としての可能性


1 形態
免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時に教員としての適格性を判断する制度の可能性について検討する。


2 意義
これまで,公務員全体について分限制度がうまく機能しなかったことから,教員免許に更新制を導入することができれば,適格性を欠く教員への対処が格段に進む可能性が広がる。


3 検討

(略)
現行の教員免許制度において,免許状は大学において教科,教職等に関する科目について所要単位を修得した者に対して授与されることとの関係が問題となる。すなわち,免許状授与の際に人物等教員としての適格性を全体として判断していないことから,更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みは制度上とり得ない

 

(3)教員の専門性を向上させる制度としての可能性


1 形態
免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時までに教員に新たな知識技能を修得させるための研修を義務付けることにより免許を更新する制度の可能性について検討する。


2 意義
科学技術や社会の急速な変化に伴い,教員としての専門性の維持向上を図るには教員一人一人の不断の努力が不可欠であるが,教員免許の更新制が導入され,更新のために厳しい研修を課すことができるならば,個々の教員がその力量の維持向上のため日々研鑽に努めることになり,教員の研修全体が活性化する。

3 検討
(略)

現職教員に更新制の対象を絞ることができず,また,人によって研修内容に差異を設けることにも一定の限界があることから,教員の専門性向上のためという政策目的を達成するには必ずしも有効な方策とは考えられない

 

以上見てきたように,現時点における我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において,教員にのみ更新時に適格性を判断したり,免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは,なお慎重にならざるを得ないと考える。 

 

中教審は、教育改革国民会議の提言を否定したわけです。

ところが4年後、その中教審が「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」(2006年7月11日)を出し、免許更新制を提言します。

 

今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)

 

3.教員免許更新制の導入-恒常的に変化する教員として必要な資質能力の確実な保証-


(1)導入の基本的な考え方


 教員として必要な資質能力は、本来的に時代の進展に応じて更新が図られるべき性格を有しており、教員免許制度を恒常的に変化する教員として必要な資質能力を担保する制度として、再構築することが必要である。
 教員免許状に一定の有効期限を付し、その時々で求められる教員として必要な資質能力が確実に保持されるよう、必要な刷新(リニューアル)を行うことが必要であり、このため、教員免許更新制を導入することが必要である。
 更新制の導入により、我が国全体における公教育の改善・充実が期待でき、公教育に対する保護者や国民の信頼が確立する。
 更新制は、いわゆる不適格教員の排除を直接の目的とするものではなく、教員が、社会構造の急激な変化等に対応して、更新後の10年間を保証された状態で、自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ていくという前向きな制度である。
 更新制を導入し、専門性の向上や適格性の確保に関わる他の教員政策と一体的に推進することは、教員全体の資質能力の向上に寄与するとともに、教員に対する信頼を確立する上で、大きな意義を有する。

 

2006年中教審答申は、教育改革国民会議の「不適格教員」対策という目的を否定する一方で、2002年答申が否定した「専門性の維持向上」(資質能力保持のための刷新)を目的としたわけです。

 

この答申が出された直後に、安倍内閣が誕生します。

安倍首相はすぐさま「教育再生会議」なるものを設置します(2006年10月10日)。

 

教育再生会議の学校再生分科会第1回会議(2006年11月8日)に、「教員免許更新制の導入について」という資料が配付されます。

資料の内容は、中教審の答申を紹介したものです。

これに関して会議の事務局である山谷えり子総理補佐官から、次のような説明がありました。

まず「教員免許更新制の導入について」は、当会議に対して安倍総理から検討要請があったものです。これまでの会議の中で、指導力不足の教員を退場させる仕組みが必要だとの御意見がございました。
この教員免許更新に関しては、中教審が今年の7月に答申を出しております。10 年で更新、30 時間の座学というようなもので、法改正が来年の通常国会にも審議が予定されておりますので、そうしますと、1月の報告にはどうしても入れないと法の改正に間に合わないということがございます。

          (内閣官房教育再生会議担当室作成「議事録」)

 

つづく第2回会議(2006年11月8日)には、「良い教員への強力な支援と不適格教員の退出(議論のたたき台)」という資料が配付されています。

資料2
第1分科会
良い教員への強力な支援と不適格教員の退出
(議論のたたき台)
-教員の資質能力の向上-

 

4.教員の質を高めながら、不適格教員排除に役立つ教員免許更新制とする


教員免許更新制については、教員の更なる資質向上に資するものとするとともに、30時間の座学の講習修了のみで更新するのではなく、不適格と判断された教員は更新の際に厳格に評価し、免許を更新しない仕組みにする。
評価に当たって、校長、保護者、児童・生徒の内申を添付し、それを免許更新時の評価にも反映する仕組みとする。

この日の会議には、小宮山委員(東京大学総長)から「教員の資質能力の向上について(資料2関連)」 という資料が提出されています。

その中で小宮山氏は、「教員の資質能力の向上のひとつの方策として、『良い教員への強力な支援と不適格教員の退出』も大事ではあるが、教員の資質能力の向上はそれだけで達成することはできない。」として、具体的な検討事項を提起しています。

議事録を読むと、小宮山氏の主張に賛意を示す委員が多かったようです。

 

こうした会議の流れを受け、第3回会議(2006年12月8日)に「教員の資質能力の向上
(議論のたたき台)」という修正提案がなされています。

資料2
第1分科会
教員の資質能力の向上(議論のたたき台)
-意欲ある優れた教員の登用、優れた教員への支援、不適格教員の退出-

 

指導力不足教員が教壇に立つことがないよう指導力不足教員認定の仕組みを実効あるものとする


指導力不足教員の認定に際しては、校長、保護者、児童・生徒の評価を添付し、その反映のさせ方、重み付けの仕方を適切に判断するなど、その認定方法を改善したり、認定の基準の明確化を図る。
各教員の日頃の勤務状況、業績評価を経年的に蓄積し、指導力不足の教員にどのような指導がなされたか、どのような改善が図られたかなどのプロセスの評価の上に、認定を行う。
これらの見直しにより、不適格教員が、子供の教育に携わることがないよう、退出させるルールを作る。
「規制改革・民間開放推進3か年計画(再改定)」(平成 18 年3月 31 日閣議決定
・平成17年度中に55の教育委員会が、教員の能力や実績を評価するためのシステムに取り組んでいるところであり、そのシステムにおける結果を配置や処遇、研修等に反映するよう、取り組みを促す。
・分限処分とすべき教員を判定するための具体的で明確な運用の指針を任命権者が早急に策定するよう促す。

 

教員の質を高めながら、指導力不足教員退出に役立つ教員免許更新制とする


教員免許更新制については、教員の更なる資質向上に資するものとするとともに、30時間の講習受講のみで更新するのではなく、更新の際に厳格に評価し、指導力不足と認定されている教員は、免許を更新できない仕組みとする。

 

12月8日資料をベースとして、「第一次報告」が2007年1月24日に出ます。

 

社会総がかりで教育再生を~公教育再生への第一歩~
第一次報告

 

7つの提言(初等中等教育を中心に)

 

<教員の質の向上>
4.あらゆる手だてを総動員し、魅力的で尊敬できる先生を育てる

 

(4)真に意味のある教員免許更新制の導入

        平成19年通常国会教育職員免許法改正案を提出
教員は、教員養成課程で身に付けた能力・技術を日々磨き続け、専門性を深化させていくことが必要です。しかし、教育現場は多忙を極め、また、自らの能力・技術を把握する明確な指標もなく、有効な自己研鑽の機会が提供されていないことも事実です。
教員が、時代の変化や要請に合わせた教育を行える能力や資質を確保するため、教員免許更新制を導入することが必要です。ただし、10年ごとに30時間の講習受講のみで更新するのではなく、厳格な修了認定とともに、分限制度の活用により、不適格教員に厳しく対応することを求めます。

○ 国は、教育職員免許法等を改正して、教員免許更新制を導入し、教員の更なる資質向上を図る。その際、講習受講のみで更新するのではなく、メリハリのある講習とし、教員の実績や外部評価も勘案しつつ、講習の修了認定を厳格に行う仕組みとする。
指導力不足と認定されている教員については、更新講習ではなく、指導力を上げるための研修を優先的に行い、改善が図られない教員については、分限制度を有効に活用し、教員免許状を取り上げるなど、不適格教員に免許を持たせない仕組みとする。 

 

このあと「教育職員免許法改正案」が提出され、2007年6月27日に可決・成立します。

 

こうしてみてくると、制度導入に至る紆余曲折、せめぎ合いが見えてきます。

そして、ここに至ってもなお思うのです。

本当はいったい何のための更新制なんだろうと……。