教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

教員免許更新制廃止、そして… ③免許更新制度の本質

教員免許更新制廃止、そして…

③ 免許更新制度の本質

 

教員免許更新制の本質は、制度成立の過程に見ることができます。

 

教員免許更新制は、2007年6月27日に公布された「教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律」(平成19年法律第96号) によって、教育職員免許法(昭和24年法律第147号)を改正施行することによって実施されました。

第一次安倍内閣の時期です。

そこに至る経緯については、安倍さんが退場した2020年9月に特集を組んでまとめました。

安倍教育改革の遺したもの(その5)教員免許更新制の導入①
安倍教育改革の遺したもの(その6)教員免許更新制の導入②
安倍教育改革の遺したもの(その7)教員免許更新制の導入③

 

復唱になりますが、簡単に経緯を追います。

 

教員免許更新制導入が 表舞台に出てくるのは、「教育改革国民会議」の「教育改革国民会議報告 -教育を変える17の提案-」(2000年12月22日)からです。

教育改革国民会議は、2000年3月に内閣総理大臣の諮問機関として設けられました。

その報告書が「教育を変える17の提案」です。

 

教育を変える17の提案

4.新しい時代に新しい学校づくりを

◎教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる
 学校教育で最も重要なのは一人ひとりの教師である。個々の教師の意欲や努力を認め、良い点を伸ばし、効果が上がるように、教師の評価をその待遇などに反映させる。

提言

(1)努力を積み重ね、顕著な効果を上げている教師には、「特別手当」などの金銭的処遇、準管理職扱いなどの人事上の措置、表彰などによって、努力に報いる。
(2)すべての教師が、退職するまで児童・生徒に直接接し、教える仕事に就くことが望ましいとは限らない。学校内でも適性によって異なる役割を負い、また、必要に応じて学校教育以外の職種を選択できるようにする。
(3)専門知識を獲得する研修や企業などでの長期社会体験研修の機会を充実させる。
(4)効果的な授業や学級運営ができないという評価が繰り返しあっても改善されないと判断された教師については、他職種への配置換えを命ずることを可能にする途を拡げ、最終的には免職などの措置を講じる。
(5)非常勤、任期付教員、社会人教員など雇用形態を多様化する。教師の採用方法については、入口を多様にし、採用後の勤務状況などの評価を重視する。免許更新制の可能性を検討する

 

教育改革国民会議の提言では、免許更新制は明らかに「不適格教員」への対応という文脈のなかで語られています。

 

これを受けて、中央教育審議会中教審)は2002年2月21日、「今後の教員免許制度の在り方について(答申)」を出しました。

 

教員免許更新制の可能性


1.教員免許更新制をめぐる背景と検討の視点


(略)

このような期待が高まる中,平成12年12月,教育改革国民会議最終報告において,「教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる」観点からの提言の一つとして,「教員免許更新制の可能性の検討」が提言された

(略)

我々は,教員免許更新制の導入の可能性を議論するに当たって,次のような視点を設定し,検討することとした。すなわち,今教員に求められているのは1教職への使命感,情熱を持ち,子どもたちとの信頼関係を築くことのできる適格性の確保であり,2教科指導,生徒指導等における専門性の向上である。そして,これからの学校に求められるのは,説明責任を果たすことを通じての3信頼される学校づくりであると考える。このような学校づくりを支えるべき教員には,1及び2の教員の適格性の確保や専門性の向上を当然としつつも,新たな資質能力が求められているのではないかと考える。
本審議会としては,教員免許更新制の導入の目的を,これら三つの視点のうち個々の教員の基本的な資質に直接かかわる上記1及び2の二つに置いて制度を想定し,その導入の可能性を検討した。また,これら三つの視点について検討を行い,教員の資質向上に向けて実効性ある具体的方策を模索した。我々は,一部の適格性を欠く教員には厳しく対処していく一方,とかく閉鎖的であるとされる学校組織や教員社会に良い意味での緊張感を醸成し,子どもたちのために日々地道に努力している教員を適切に評価することによって,多くの教員の士気を高めその専門性の向上を促したいと考えている。

(略)

 

3.教員免許更新制の可能性の検討

 

(1)検討の視点 教員免許更新制の可能性について検討する視点として,その目的を,1教員の適格性確保に置く場合2教員の専門性向上に置く場合とに分けて,その仕組みを想定し検討する。

 

(略)


(2)教員の適格性確保のための制度としての可能性


1 形態
免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時に教員としての適格性を判断する制度の可能性について検討する。


2 意義
これまで,公務員全体について分限制度がうまく機能しなかったことから,教員免許に更新制を導入することができれば,適格性を欠く教員への対処が格段に進む可能性が広がる。


3 検討

(略)
現行の教員免許制度において,免許状は大学において教科,教職等に関する科目について所要単位を修得した者に対して授与されることとの関係が問題となる。すなわち,免許状授与の際に人物等教員としての適格性を全体として判断していないことから,更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みは制度上とり得ない

 

(3)教員の専門性を向上させる制度としての可能性


1 形態
免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時までに教員に新たな知識技能を修得させるための研修を義務付けることにより免許を更新する制度の可能性について検討する。


2 意義
科学技術や社会の急速な変化に伴い,教員としての専門性の維持向上を図るには教員一人一人の不断の努力が不可欠であるが,教員免許の更新制が導入され,更新のために厳しい研修を課すことができるならば,個々の教員がその力量の維持向上のため日々研鑽に努めることになり,教員の研修全体が活性化する。

3 検討
(略)

現職教員に更新制の対象を絞ることができず,また,人によって研修内容に差異を設けることにも一定の限界があることから,教員の専門性向上のためという政策目的を達成するには必ずしも有効な方策とは考えられない

 

以上見てきたように,現時点における我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において,教員にのみ更新時に適格性を判断したり,免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは,なお慎重にならざるを得ないと考える。 

 

中教審は、教育改革国民会議の提言を否定したわけです。否定理由の中に、この問題を検証するきわめて重要なポイントがあります。

目的1 教員の適格性確保に置く場合

免許状授与の際に人物等教員としての適格性を全体として判断していないことから,更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みは制度上とり得ない

免許更新制による不適格教員排除は「制度上とり得ない」という、明確な否定です。

 

目的2 教員の専門性向上に置く場合

教員の専門性向上のためという政策目的を達成するには必ずしも有効な方策とは考えられない

教員の資質向上のために更新制を導入するというのは「必ずしも有効な方策とは考えられない」とやんわりと否定しています。

 

そして、極めつけの「そもそも論」です。

我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において教員にのみ更新時に適格性を判断したり,免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは,なお慎重にならざるを得ない

我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において」というところがポイントです。いくつもある「資格制度」や「公務員制度」の中で、教員にのみ更新制を導入するということには「なお慎重にならざるを得ない」と、疑義を呈しています。不公平感、それを払拭するに足る積極的意義がないと指摘しているわけです。

 

その後、同じ中教審が「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」(2006年7月11日)を出し、免許更新制を提言します。

教員免許状に一定の有効期限を付し、その時々で求められる教員として必要な資質能力が確実に保持されるよう、必要な刷新(リニューアル)を行うことが必要であり、このため、教員免許更新制を導入することが必要である。

 更新制は、いわゆる不適格教員の排除を直接の目的とするものではなく……

 

この答申が出された直後に、安倍内閣が誕生します。

安倍首相はすぐさま「教育再生会議」なるものを設置します(2006年10月10日)。

 

教育再生会議の学校再生分科会第1回会議(2006年11月8日)に、「教員免許更新制の導入について」という資料が配付されます。

資料の内容は、中教審の答申を紹介したものです。

これに関して会議の事務局である山谷えり子総理補佐官から、次のような説明がありました。

まず「教員免許更新制の導入について」は、当会議に対して安倍総理から検討要請があったものです。これまでの会議の中で、指導力不足の教員を退場させる仕組みが必要だとの御意見がございました。

 

このあと曲折を経て「教育職員免許法改正案」が提出され、2007年6月27日に可決・成立します。

成立した「免許更新制」は、教員の資質向上を目的とするものです。それとても2002年中教審は「必ずしも有効な方策とは考えられない」と断じています。2006年中教審は「必要な資質能力が確実に保持されるよう教員免許更新制を導入することが必要」とお墨付きを与えたわけですが、たび重なる諮問圧力に屈したとみるのが妥当でしょう。梶田叡一さんなど審議委員は重複しているのですから。

 

制度成立までの過程において忘れてならないのは、政治権力は一貫して「不適格教員」「指導力不足教員」排除を追求していたという事実です。

 

このたびの中教審・「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会教員免許更新制小委員会における議論では、原点に立ち戻っての検証はまったく行われませんでした。

中教審に審議を諮問するのは政治(窓口としては文科大臣)です。政治が純粋にそして深く「教員の資質能力」を心配しているなどと思っている人は、まずいないでしょう。そもそも「資質能力」を心配するなら、他の資格職業だって公務員だって心配があるはずです。

教員免許更新制の本質は、「制度上とり得ない」という「指導力不足教員」排除です。それが無理なので「必ずしも有効な方策とは考えられない」資質能力の向上を目的としたというのが実情です。

10年経ってみると、「必ずしも有効な方策とは考えられない」どころか弊害だらけの制度だとわかったのです。ならば当然廃止すればいいのに、腐った株に接ぎ木の提言が出ます。

ところが、じつは「腐った株に接ぎ木」ではなく、本質に立ち戻った方策のようなのです。

次回に…