教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

小学校高学年からの教科担任制導入へ

先ごろ、中央教育審議会中教審)の時代の初等中等教育の在り方特別部会が、「答申案作成に向けた骨子(案)」をまとめました。

 

その中に、「2022年度より、小学校高学年に教科担任制を導入する。対象とすべき教科は外国語、理科、算数」といったことが書かれています。

 

今後、具体的な内容の検討が加えられ、今年度中に「答申」が出される予定だということです。

細部はともかくも、「2022年度から小学校高学年に教科担任制を導入」という点については「決定」と言っていいでしょう。

 

令和2年8月 20 日 第 12 回新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会


資 料 3

中教審答申案の作成に向けた骨子(案)
誰一人取り残すことのない「令和の日本型学校教育」の構築を目指して
~多様な子供たちの資質・能力を育成するための,個別最適な学びと,社会とつながる協働的な学びの実現~

 

Ⅱ.各論
2.9年間を見通した新時代の義務教育の在り方について

(3)義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方

 

①小学校高学年からの教科担任制の導入

 

○ 義務教育の目的・目標を踏まえ,育成を目指す資質・能力を確実に育むためには,各教科等の系統性を踏まえ,学年間・学校間の接続を円滑なものとし,義務教育9年間を見通した教育課程を支える指導体制の構築が必要である。

 

○ 児童生徒の発達段階を踏まえれば,児童の心身が発達し一般的に抽象的な思考力が高まり,これに対応して各教科等の学習が高度化する小学校高学年では,日常の事象や身近な事柄に基礎を置いて学習を進める小学校における学習指導の特長を生かしながら,中学校以上のより抽象的で高度な学習を見通し,系統的な指導による中学校への円滑な接続を図ることが求められる。

 

○ また,多様な子供たち一人一人の資質・能力の育成に向けた個別最適な学びを実現する観点からは,GIGA スクール構想による「1人1台端末」環境下での ICT の効果的な活用と相俟って,個々の児童生徒の学習状況を把握し,教科指導の専門性を持った教師によるきめ細かな指導を可能とする教科担任制の導入により,授業の質の向上を図り,児童一人一人の学習内容の理解度・定着度の向上と学びの高度化を図ることが重要である。

 

○ さらに,小学校における教科担任制の導入は,教師の持ちコマ数の軽減や授業準備の効率化により,学校教育活動の充実や教師の負担軽減に資するものである。

 

○ これらのことを踏まえ,小学校高学年からの教科担任制を(令和4(2022)年度を目途に)本格的に導入する必要がある

 

○ 導入に当たっては,地域の実情に応じて多様な実践が行われている現状も考慮しつつ,専科指導の対象とすべき教科や学校規模(学級数)・地理的条件に着目した教育環境の違いを踏まえ,義務教育9年間を見通した効果的な指導体制の在り方を検討する必要がある。また,義務教育学校化や広域・複数校による小中一貫教育の導入を含めた小中学校の連携を促進する必要がある。

 

○ 専科指導の対象とすべき教科については,系統的な学びの重要性,教科指導の専門性といった観点から検討する必要があるが,グローバル化の進展や STEAM 教育の充実・強化に向けた社会的要請の高まりを踏まえれば,例えば,外国語・理科・算数を対象とすることが考えられる。当該教科の専科指導の専門性の担保方策や専門性を有する人材確保方策と併せ,教科担任制の導入に必要な教員定数の確保に向けた検討の具体化を図る必要がある。

 

制度が導入されるときには、当然のことながらメリットが強調されます。

今回の場合、「教科指導の専門性を持った教師によるきめ細かな指導を可能とする」「(教科担任制である)中学校への円滑な接続」「教師の持ちコマ数の軽減や授業準備の効率化により,学校教育活動の充実や教師の負担軽減に資するもの」といった点がそれにあたります。

制度が設計通りに運用されれば、基本的にはそうだと私も思います。

また、教科担任制になることで複数の教師が一人の子どもと関わるようになり、担任とうまくいかない子が救われるということをメリットとしてあげる人もいます。しかしこれは結果の問題であって、制度導入の目的にはなりません。

 

ところで、制度が設計通りに運用されるには、担保されねばならない事柄があります。

効果的な指導体制の在り方を検討する」「小中学校の連携を促進する」「専科指導の専門性の担保方策や専門性を有する人材確保」「教科担任制の導入に必要な教員定数の確保」がそれです。

 

とりわけ「人材確保」「教員定数の確保」は、予算措置を伴います。これまでの歴史では、文科省の計画に財務省が予算措置をしないことが多々ありました。その結果、計画が立ち消えになるのではなく、「教師個々の努力」と「学校現場の創意工夫」に委ねられることも多くありました。

 

「学校現場の創意工夫」は、すでに行われている事例があります。

具体的には担任間での担当教科の交換方式が多いようです。

これによって、「教科指導の専門性を持った教師によるきめ細かな指導を可能とする」という点については、教師個々人の力量に依拠しますがいくらか担保されることもあるでしょう。

しかし、「教師の負担軽減に資するもの」ではまったくありません。担当教科の交換は私も経験がありますが、指導・評価対象児童の増加、担任との連絡調整など逆に負担が増します。

「子どものために」という言葉に弱い現場教師のお人好しに支えられる制度など、まともな制度とは言えません。

 

教科担任制の対象となる教科は、「外国語・理科・算数」が例示されています。例示とは言え単なる「例」ではありません。この3教科を念頭に制度設計しているものと考えられます。

外国語については、ALTの方に入っていただいた経験から、専門家の有用性を十分に認識しています。

理科についても、かつて元高校の理科教師だった人に支援を受けた経験があります。指導の主は担任でしたが、実験準備や実際の指導場面で専門性にずいぶん助けていただきました。これも有用性を認めます。

算数については、TTによる支援程度の経験しかありません。

 

算数を教科担任制にすることについては賛否相半ばすると思います。

教科の「専門性」において、専科教員とすべきかどうか。私個人としては、これについては否定的です。

それよりも大きな問題は、小学校教育に何を求めるかという問題です。

 

昔から「読み書きそろばん」と言いますが、「読む」「書く」「計算」は小学校教育のコア部分です。授業時数も多く、また家庭学習の課題も「読み」「書き」「計算」にかかわるものが大半です。

小学校では、高学年も例外ではなく、子どもの学習習慣(家庭学習も含めて)や生活習慣に関する指導を担任がになっています。「読み書き計算」の指導のなかで子どもの学力状況や学習への向き合い方をつかんでいます。「読み書き計算」の課題の総量を調整することで、家庭学習の定着をはかっています。その意味では国語と算数は外せないのです。

 

4半世紀も前に訪れたドイツの小学校では、担任の先生は午前中の授業だけを担当していました。子どもの午後の時間は親や地域が受け持ちます。生徒指導的なことも担当しません。

そんな学校なら「専門性」だけで論じていいのですが。

 

文科省が2018年度に全国の公立小学校に行った調査では、6年生で教科担任を置いているのは音楽で55・6%、理科で47・8%、国語は3・5%、算数は7・2%、外国語活動は19・3%でした。

音楽や理科の多さは、まさに「専門性」ゆえでしょう。

外国語は正式に教科として指導する前の調査ですから、今後は様子が違ってくると思われます。

案の定、国語と算数は低いです。

「専門性」だけで論じるならば、私はむしろ国語について検討してもらいたいです。国語力こそが学力の根幹であるにもかかわらず、教師の国語指導力があまりに弱いのです。

 

さて、2022年度まで1年半、走り出した車はどこへ 向かうのでしょう。注意深く見守りたいと思います。