教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「いじめ認知件数最多」報道に思う

10月22日、文部科学省が2019年度のいじめ等に関する調査結果を発表しました。

 

『令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について』というのがそれですが、130ページに及ぶ冊子です。

まずは、報道機関の記事で概要を見ていきます。

 

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「自殺317人」がとても気になります。

少し詳しく見ていきます。

「調査結果」によると、317人の内訳は小学生4人、中学生91人、高校生222人となっています。

小学生4人の置かれていた状況は、「家庭不和」1、「いじめの問題」2、「不明」2(複数回答)で、いじめが自殺原因の半数を占めました。

胸が痛みます。

 

厚生労働省が発表している「令和元年版自殺対策白書」によると、10~14歳の小中学生の死因の第1位が「自殺」です。

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いのちの教育のありようが問われています。

 

 

いじめ問題に戻ります。

いじめの認知件数について、冊子のグラフはかなり見づらいものですので、時事通信社が作成したものを紹介します。

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「いじめ防止対策推進法」が施行された2013年以降、いじめの認知件数は毎年「過去最多」を更新しています。

これは、文科省が言うように、「積極的な認知の重要性が学校現場に浸透した結果」だろうと思います。

 

しかし、本当に「積極的な認知の重要性が学校現場に浸透した」のかどうか、私はなお懐疑的な見方をしています。

 

小学校のいじめ発見の状況は、「学校の教職員が発見」したのが70%(概数、以下同じ)、「学校の教職員以外からの情報により発見」したのが30%です。

「教職員」70%の内訳は、担任10%、アンケート60%。

「教職員以外」30%の内訳は、本人15%、本人の保護者10%、他の児童・保護者が5%です。

 

小学生のいじめの相談状況(複数回答)は、学級担任82%、家族21%、友人6%で、「だれにも相談していない」も5%あります。

これは、学校がいじめを認知した時点で当該児童がだれに相談しているかを問うたものです。学級担任の82%は、アンケートによる発見の60%を差し引い20%余が相談の実態に近い数字と思われます。

 

都道府県別のいじめ認知件数を示します。

これは、『令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について』(令和2年 10 月 22 日 文部科学省初等中等教育局児童生徒課)の46ページに掲載されています。

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表の右端に「1000人当たりの認知件数」が出ています。

最も高いのが山形県の115.7で、最も低いのが佐賀県の13.8。全国平均は40.9です。

 

25人の学級が40あるとします(合計1000人)。1つの学級に1つのいじめ事例があれば、40学級で40になります。

全国平均の40.9は、まさにそういった数字です。

 

しかし、「平均して40」ではなく、「少なくとも40」なのではないでしょうか。教職にあった身からすると、1年間を通していじめが全くない学級がそれほど多くあるとは思えないのです。

私が文科省の発表に懐疑的なのは、この部分です。

 

都道府県によって数字が大きくばらつくのはなぜでしょう。

個別の県の数字に言及する材料はありません。

一般論として、さしあたり3つの可能性を考えています。

 

① 実際にいじめがない

いじめ問題のない学級はあって然りです。

しかし、毎年極端に多い県と、毎年極端に少ない県があるというのは、ちょっと違和感があります。

 

② 数字が実態を反映していない

数字を改竄しているというのではありません。

しかし、いじめを隠蔽したり、過小評価したりする傾向が、多かれ少なかれどこの学校にもあるような気がします。

たとえば子ども間の問題をいじめではなく、「トラブル」「もめごと」として処理しているケースがあります。意図してそうする担任や管理職もいないとは言えません。

文科省の調査はいじめの「発生件数」ではなく、「認知件数」です。いじめと認知しない限り、数字には反映されません。

 

③ いじめに対する感度が違う

「いじめ防止対策推進法」は、「総則」でいじめを次のように定義しています。

「いじめ」を「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」と定義すること。 

 つまり、「心理的又は物理的な影響を与える行為」を受けた当事者が「心身の苦痛を感じ」れば、それはいじめです。行為を受けた子の感じ取り方、受け止め方の問題です。

 

教職員がいじめの認知に積極的でなければ、日常の指導や問題への対処にそれは表れます。そして、畑に水が浸み込むごとく、子どもに伝わっていきます。いわゆる「背中の教育」、隠れたカリキュラムによる教育です。

いじめの60%がアンケートによって発見されています。子どもがアンケートにいじめがあると答えるかどうかは、「行為を受けた子の感じ取り方、受け止め方の問題」です。そこの感度に違いがあれば、同じような問題があったとしても結果の数字は当然違ってきます。

 

 

私は、どこの県がどうとか、そんなことには興味はありません。

ただ、子どもの声なき声に耳を傾けられるアンテナをもつおとなでありたいと、心から願います。