教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

GIGAスクール構想は学校を変える?

国の政策がこんなに速く現場に下りてくることもあるんだと、妙な感心をしたことがあります。

コロナ禍対策のなかで、文部科学省GIGAスクール構想が前倒しで実現されることになりました。そして、10月下旬の教室では届いたばかりの端末を使った授業が始まっていました。

 

そもそも、「GIGAスクール構想」ってなんでしょう。

 

GIGAスクール構想」の「GIGA」は、「Global and Innovation Gateway for All」 の頭文字を取ったものです。 これは「全ての人にグローバルで革新的な入り口を」という意味です。

 

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文科省が作成した資料によると、「GIGAスクール構想」とは「1人1台の端末と高速通信環境を整備すること」によって、子どもたちの「資質・能力を一層確実に育成」する「令和の学びの『スタンダード』」ということになります。

 

GIGAスクール構想」の当初計画では2022年度末までに環境整備を終え、2023年度より運用開始となっていました。

それが今春のコロナ禍休校を機に、コロナ対策のための補正予算で「今年度末まで」に前倒しされることになったわけです。

 

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私が教室で見た端末は、補正予算の「『1人1台端末』の早期実現 1,951億円」の一部ということになります。

子どもが使っている端末には、「NEC Chromebook」とありました。Chromebook(クロームブック)は、GoogleChrome OS を搭載したコンピューターです。5万円台で市販されている機種ですが、補助上限4.5万円と出ていますのでそれに近い金額で落札しているのでしょう。

 

またしても、そもそもの話になります。

そもそも、なぜ「GIGAスクール構想」なのでしょう。

 

「Society5.0」というAIとIoTを基礎として産業革命に匹敵する変革を実現しようとする政府の提言があります。

これは、2016年1月に閣議決定され、政府が策定した「第5期科学技術基本計画」のなかで提唱されている新しい社会のあり方です。

「5.0」は、「狩猟社会=Society 1.0」「農耕社会=Society 2.0」「工業社会=Society 3.0」「情報社会=インターネット社会(現在)=Society 4.0」として、これに続く5番目の社会システムを示しています。「テクノロジーによってオンライン空間と現実世界をつないで、さまざまな社会の問題を解決する、人々が暮らしやすい社会」です。

こうした社会を担う子どもたちに求められる能力が、「GIGAスクール構想」の背景になっています。

 

もう1つの背景としては、日本の学校のICT活用が諸外国に比べて遅れていると指摘される中、2018年度のPISA調査で「読解力」の正答率が下がったことがあります。

この低下には、デジタル機器で長文を読み、デジタル機器で回答するといった経験がほとんどないことが影響していると言われています。

 

まあ時代の流れですから、「1人1台の端末」も「高速通信網」も実現されるに越したことはありません。

 

しかし、それだけでは「仏作って魂入れず」です。

 

問題はここからです。

先だって活用現場を見て、改めてそう感じました。

 

先生たちのスキルアップも必要です。

効果的な活用の研究も必要です。

これらは少し長い目で見守るしかありません。

 

それよりも気になるのは、「中途半端」な整備のありようです。

 

現段階の整備の完成形は、「1人1台の端末」と「高速通信網」までです。

その結果、教室はおよそ次のようになります。

まず、教室の前面には黒板があります。その脇に大型モニターが鎮座します。

教師は、黒板とチョークを使った指導をしつつ、必要に応じて小型端末を操作し大型モニターに映し出します。

子どもの机には、教科書とノートと筆箱と、さらにはドリルや資料集が乗っています。それに加えて、取扱注意、落下注意の端末が乗ります。

 

授業場面において、子どもは黒板に注目し、ときに大型モニターに注目することになります。視線の移動が大きいです。

この状況下で集中力を切らせる子どもがいます。

 

ノート、プリント、端末といった対象物の多さに対応しきれない子、整理できない子がいます。

 

「誰一人取り残すことのない、個別最適化された学びの実現」を標榜しながら、憂いを増大させる結果になりかねません。

 

GIGAスクール構想」を本気ですすめるつもりがあるのなら、検討して欲しいことがあります。

 

紙の教科書の廃止です。「デジタル教科書も認める」ではなく、「デジタル教科書しか認めない」のです。物の煩雑さが解消されます。

 

教科書のデジタル化にあわせて、教室の黒板を撤去します。

前面の真ん中に大型モニターを据え、その左右は電子黒板になっています。少なくとも、モニターとシームレスな平面のホワイトボードであるべきです。教師にとっては、小型端末をのぞき込んだりすることなく授業が進行できる環境が提供されるべきです。こうした環境が整うことで、子どもの視線が落ち着きます。

 

子どもの机の上からアナログツールを原則として取り除きます。

デジタル端末がノートであり、プリントです。手書きペンの文字をファイリングしておけば、従来のノートと同様の使い方ができます。もちろん例外的にアナログツールを使うこともあるでしょうが。

 

現実の「GIGAスクール構想」はどこをめざすのでしょう、どこまで行くのでしょう。

いま、その幕が開きました。