歴史学習を考えるとき、教壇に立つ者として自覚しなければならないことが2つあります。
1つは、現代史の正しい知識をほとんど身につけていないということです。
このことについては、「半藤一利さんに学ぶ現代史 」で触れました。
他の1つは、古代・中世・近世社会に対するステレオタイプです。
たとえば、網野善彦さんのある著書の見出しに「百姓は農民か」というのがあります。この見出しに「えっ?」「なに?」と思った人は、要注意です。
固定観念にとらわれると、ものごとの本質を見誤る、あるいは見えなくなってしまうことがあります。そしてそれは子どもたちに伝播します。
日本の歴史を学び直すことは、一人の社会人としての「私」のためでもありますし、「私」に歴史を教えられる子どもたちのためでもあります。
学び直しのテキストには、網野善彦さんの著書を強くお薦めします。
網野さんには多くの著書がありますが、私が読んでよかったと思うものをいくつか紹介します。
まず最初に読むのはこれですね。
『日本の歴史をよみなおす』(筑摩書房、1991年)
『続・日本の歴史をよみなおす』(筑摩書房、1996年)
先の「百姓は農民か」は、『続・日本の歴史をよみなおす』に出てきます。
2005年に文庫本になっています。
『日本の歴史をよみなおす(全)』(筑摩書房、2005年、1320円)
内容(「BOOK」データベースより)
さらに、通史を学び直すには…
『日本社会の歴史(上)』(岩波新書、1997年)
内容(「BOOK」データベースより)
現代の日本人・日本国は、いかなる経緯をへて形成されたのか―。周辺諸地域との海を通じた切り離しがたい関係のなかで、列島に展開した地域性豊かな社会と「国家」とのせめぎあいの歴史を、社会の側からとらえなおす。十数年にわたる学問的営為の結実した本格的通史。上巻は列島の形成から九世紀(平安時代初期)まで。
『日本社会の歴史(中)』(岩波新書、1997年)
内容(「BOOK」データベースより)
自律的に進展する社会と「国家」とのせめぎあいの前近代史を、社会の側からとらえなおす通史の続編。近畿を中心とした貴族政権日本国―朝廷と、武人勢力によって樹立された東国王権。この二つの王権の併存と葛藤のなかで展開する活力あふれる列島社会の姿を描く。中巻は十~十四世紀前半、摂関政治から鎌倉幕府の崩壊まで。
『日本社会の歴史(下)』(岩波新書、1997年)
内容(「BOOK」データベースより)
社会と「国家」とのせめぎあいの前近代史を、社会の側からとらえなおす通史の完結編。下巻は南北朝の動乱から地域小国家が分立する時代を経て、日本国再統一までを叙述し、近代日本の前提とその問題点を提示。十七世紀前半、武士権力によって確保された平和と安定は列島社会に何をもたらしていくのか。
次の2冊も刺激を受けました。
『歴史を考えるヒント』(新潮文庫房、2012年)
内容(「BOOK」データベースより)
日本、百姓、金融…。歴史の中で出会う言葉に、現代の意味を押しつけていませんか。「国名」は誰が決めたのか。「百姓=農民」という誤解。そして、聖なる「金融」が俗なるものへと堕ちた理由。これらの語義を知ったとき、あなたが見慣れた歴史の、日本の、世界の風景が一変する。みんなが知りたかった「本当の日本史」を、中世史の大家が易しく語り直す。日本像を塗り替える名著。
『東と西の語る日本の歴史』(講談社学術文庫、1998年)
内容(「BOOK」データベースより)
日本人は同じ言語・人種からなるという単一民族説にとらわれすぎていないか。本書は、日本列島の東と西に生きた人々の生活や文化に見られる差異が歴史にどんな作用を及ぼしてきたかを考察し、考古学をはじめ社会・民俗・文化人類等の諸学に拠りながら、通説化した日本史像を根本から見直した野心的な論考である。魅力的に中世像を提示して日本の歴史学界に新風を吹き込んだ網野史学の代表作の一つ。
『東と西の語る日本の歴史』の視点に関連して、赤坂憲雄さんの次の本も参考になりました。
赤坂憲雄『東西/南北考 -いくつもの日本へ-』(岩波新書、2000年)
内容(「BOOK」データベースより)
東西から南北へ視点を転換することで多様な日本の姿が浮かび上がる。「ひとつの日本」という歴史認識のほころびを起点に、縄文以来、北海道・東北から奄美・沖縄へと繋がる南北を軸とした「いくつもの日本」の歴史・文化的な重層性をたどる。新たな列島の民族史を切り拓く、気鋭の民俗学者による意欲的な日本文化論。
とりあえず、『日本の歴史をよみなおす』のご一読を。