教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

出口式「タテ・ヨコ・算数」思考法 ~情報過多社会の航海術~

いま読みかけの本が4冊あって、その1つが『自分の頭で考える日本の論点』です。

 

『自分の頭で考える日本の論点

  (出口治明著、幻冬舎新書、2020.11.25、1210円)

内容(「BOOK」データベースより)
玉石混淆の情報があふれ、専門家の間でも意見が分かれる問題ばかりの現代社会。これらを自分で判断し、悔いのない選択ができるようになるには、どうしたらいいのか。「経済成長は必要か」「民主主義は優れた制度か」「安楽死を認めるべきか」等々。ベンチャー企業の創業者であり大学学長、そして無類の読書家である著者が、私たちが直面する重要な論点を紹介しながら、自分はどう判断するかの思考プロセスを解説。先の見えない時代を生きるのに役立つ知識が身につき、本物の思考力を鍛えられる、一石二鳥の書。
著者について
1948年三重県生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)学長。ライフネット生命創業者。京都大学法学部卒。1972年、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退社。同年、ネットライフ企画を設立、代表取締役社長に就任。2008年に免許を得てライフネット生命と社名を変更、2012年上場。社長・会長を10年務めたのち、2018年より現職。『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『全世界史(上・下)』(新潮文庫)、『人類5000年史(I~III)』(ちくま新書)、『座右の書 『貞観政要』』(角川新書)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『還暦からの底力』(講談社現代新書)など著書多数。

 

出口さんは、『自分の頭で考える日本の論点』の「はじめに」で、いきなり同書の「キモ」を紹介しています。

 物事を考えるとき、僕がいつも大切にしているのは、「タテ・ヨコ・算数」の3つです。

 タテ、すなわち昔の歴史を知り、ヨコ、すなわち世界がどうなっているかを知り、それを算数すなわち数字・ファクト(事実)・ロジック(論理)で裏づけていく。…日頃からそのような訓練を積み重ねることが、想定外のことが起きたときに生き残る力につながります。

 

400ページを超える著述は、この「キモ」を22の具体例で学んでいく「ドリル」の役割を持っています。

 

具体例「論点1」のテーマは、「日本の新型コロナウイルス対応は適切だったか」です。(同書の24ページから47ベジまで)

ページの前半は「基礎知識」です。

「感染拡大の経緯」「新型コロナウイルス感染症とはどんな病気か」「感染者・死者ともに少ない日本」「強制力を伴わない緊急事態宣言」「浮き彫りになった多くの問題」「経済はいつ回復するのか」という項目について、タテとヨコ、すなわち2019年12月から2020年10月までの経緯と、日本と世界の動きがまとめられています。

後半は「自分の頭で考える」です。

ここでは、「基礎知識」を踏まえた上で、グラフや事実を引きながら筆者の考えが展開されていきます。

 

「論点2」以下は次の通りです。

2 新型コロナ禍でグローバリズムは衰退するのか

3 日本人は働き方を変えるべきか

4 気候危機(地球温暖化)は本当に進んでいるのか

5 憲法9条は改正すべきか

6 安楽死を認めるべきか

7 日本社会のLGBTQへの対応は十分か

8 ネット言論は規制すべきか

9 少子化は問題か

10 日本は移民・難民をもっと受け入れるべきか

11 日本はこのままアメリカの「核の傘」の下にいていいのか

12 人間の仕事はAIに奪われるのか

13 生活保護ベーシックインカム、貧困対策はどちらがいいのか

14 がんは早期発見・治療すべきか、放置がいいのか

15 経済成長は必要なのか

16 自由貿易はよくないのか

17 投資はしたほうがいいか、貯蓄でいいか

18 日本の大学教育は世界で通用しないのか

19 公的年金保険は破綻するのか

20 財政赤字は解消すべきか

21 民主主義は優れた制度か

22 海外留学はしたほうがいいのか

 

いずれもオトナとして関心のあるテーマであり、お薦めです。

 

しかし、私がここで取り上げているのは、単なる「読書案内」ではありません。

同書に触れることが、これからの教育活動の大きな「武器」になると確信するからです。

 

私たちはいま、情報過多の荒海に生きています。そして、その荒海の情報は真贋ない交ぜの状態です。

子どもたちは、そうした社会に生まれ、これからを生きていきます。

情報の真贋を見極めるには、出口さんの「タテ」と「ヨコ」の力が必要です。そうして得た情報をもとに、論理的に整理していく「算数」が必要です。

「主体的・対話的で深い学び」が成立するためには、「タテ・ヨコ・算数」思考法が不可欠なのです。そして、その力は、日々の教育活動のなかで「石筍」のごとく育つものです。

 

あなた自身と、そして子どもたちのために、ご一読を。