小学校3・4年生の教科書に登場する故事成語の第1回は「温故知新」です。
温故知新
「温故知新」の読み方
おんこちしん
「温故知新」の意味
(古い事柄も新しい物事もよく知っていて初めて人の師となるにふさわしい意)昔の物事を研究し吟味して、そこから新しい知識や見解を得ること。(広辞苑)
「温故知新」の使い方
「温故知新の精神で……」などと使いますが、それより何より座右の銘として有名な四字熟語です。
「温故知新」の語源・由来
出典は『論語』です。
『論語』は孔子(紀元前552年または紀元前551年~紀元前479年)が述べたことを弟子たちがまとめたもので、その第2章「為政第二」の第11に出てきます。
子曰、温故而知新、可以為師矣。
読みは、「子曰く、故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る、以って師と為るべし。」です。
「温ねて」は、「たずねて」のほかに「あたためて」と訓読しているものもあります。
現代語に訳しますと、「孔子先生はおっしゃいました。『古くからの伝えを大切にして、新しい知識を得て行くことができれば、人を教える師となることができるでしょう。』と。」といった意味合いです。
「温故知新」の蘊蓄
なぜ「温故」を「故(ふる)きを温(たず)ねて」と読むのでしょう。
「温」は、通常は「あたたかい」「ぬくい」などと読みます。
とすると、日本語の読みの問題の前に、『論語』で「温」が使われているのはなぜかという問題が浮かんできます。
「温」とは何でしょう。
「日」はもともと「囚」で、「皿」に蓋をして熱が逃げないようにしている様子を表しています。「温度」に関係する文字であることが分かります。
『論語』に「子温厲而」とあります。〈子は温にして而厲(はげ)し〉と読みますが、「 孔子(先生)は、なごやかではあるが厳格さがある」という意味です。人の「ぬくもり」という「温度」に関係する使用例です。
同じ『論語』でも、「温故知新」は「ぬくもり」ではありません。
「温(あたためる)」には、「古いもの、冷えたものを、もう一度あたためてよみ返らせる」という意味があります。「温習」(おさらい、復習の意)という言葉もあります。
「温故」は、ふるいものを「もう一度あたためてよみ返らせる」、つまり「おさらい、復習」するということで、原文の『論語』のなかでは上の使用例と何の矛盾もなく使われていたのです。
問題は、言葉を輸入した日本語にあります。
漢字の「温」は、「温度(ぬくもり)」に関係する字として認識し、「あたたかい」「ぬくい」といった日本語の読みを付しました。
「温故知新」の語が伝わったとき、なんと読み下したのかは分かりません。
意味としては、当時の日本語の語感で「たずねる」に近いと感じたのでしょう。
万葉集に「うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道をたづねな」とあって、ここでは「たずねる」を「手がかりをたどりつつ物事の淵源・道理をさぐり求める」の意味で使っています。
「温故知新」の訓読が出てくる最古の文献は、14世紀に書かれた『太平記』だそうです。そこでは「故(ふる)きを温(たず)ねて」と読んでいます。この読みが伝承なのか作者のオリジナルなのかは不明です。
時期はともかく、「温故知新」の意味内容から「温」に「たずねる」というそれまでになかった読みが付されたということのようです。