教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

どうなるデジタル教科書時代

2021年6月8日、「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議(第一次報告)」が公表されました。

 

デジタル教科書をめぐる動向は、先に「デジタル教科書時代・2035年の物語①」(2021.2.15)で触れました。

 

2020年の暮れから21年はじめごろの萩生田光一文部科学相の発言を読んでいると、次の教科書検定時期である2024年度から一気にデジタル教科書時代に突入かと思われました。

 

6月1日の朝日新聞に、萩生田光一文部科学相のインタビュー記事が掲載されました。インタビューが行われたのは先月(2021年5月)23日で、内容は「デジタル教科書について」 です。

 

朝日新聞 2021.6.1

どうなる? 教科書

萩生田文科相に聞く
紙・デジタル併用「一番いい」
効果的な学習場面の検証・家庭環境の差ないように

 今春から、小中学校で「1人1台」の情報端末を使った教育が本格化し、デジタル教科書の実証研究も全国の約4割の小中学校で始まろうとしている。賛否の声があるデジタル教科書について、萩生田光一文部科学相はどんな展望と理想を描いているのか。5月23日に行ったインタビューを詳報する。


■デジタル教科書になると、どんな効果が。
 書き込んだり消したりなど試行錯誤が容易で、動画などのデジタル教材と連携して活用することで、学びの幅を広げたり内容を深めたりできる。一方、紙の教科書は、一覧性に優れ、書籍に慣れ親しませる役割なども指摘されている。 教科書というツールが、紙じゃなきゃいけないのか、紙じゃなくてもできるのか。全国的な実証研究で見極めるのが、この数年になる。


■2024年度からの全面デジタル化はないのか。
 私個人は、紙とデジタルをしばらく併用していくのが望ましいと思っている。
 「24年度から本格化」などと報道され、文科省が前のめりでデジタル教科書に全面移行するかのように思われているが、そうではない。 次に小学校の教科書が変わる24年度は一つのタイミングだったが、今年度、来年度、再来年度と実証研究を続けることを考えると、その次の検定サイクルを念頭に、検討することが適当ではないか。
 (国が小中学生に1人1台の情報端末を配る) GIGAスクール構想も前倒しになり、デジタル活用の良い点はたくさんある。ただ、全面的にデジタルに移行すればバラ色の学校現場が待っているかといえば、そういうわけでもない。幅広く見ながら、スモールステップで前に進めたい。


■検討会議でも複数の併用案があるが、理想は。
 紙もデジタルも使えるのが一番いい。 デジタルを主にして、紙の教科書はクラスに置いて使い回すなど、いろんな方法がある。逆もあって悩ましい。デジタルの強みはたくさんある。見学した学校では、算数の立体を3Dで映していた。算数では力を発揮しそうだ。ただ、デジタルになじまない教科もあるのでは。
 発達の段階や教科ごとの特性を踏まえつつ、紙、デジタルのそれぞれの教科書をどの学習場面でどのように使用することが効果的か、さらに検証を積み重ねていくことが重要だ。


■子どもの健康への影響、自治体格差や家庭の経済的格差への懸念も指摘されているが。
 恐れを持って前に進もうと呼びかけてきたつもりだ。視力など健康面は大丈夫だろうか、という点もしっかり見ていかなきゃならない。家庭環境の違いで差が生じないようにすることは重要だ。日本がデジタル庁をつくって本格的なデジタル社会を構築するなら、「WiFiアクセスフリー」の世の中を作っていくべきではないか。


■検定制度もデジタルに対応する方針か。
 もちろん。誤解を恐れずに言うと、今の教科書会社がすべてデジタル対応できるのか。今まで教科書と無縁だったところが参入してきて、すごいデジタル教科書や教材を作る可能性も否定できない。


■財政的な問題は。
 財務省が「紙も残し、デジタルも全額国費負担でいい」とは、簡単には言ってくれないと思う。義務教育なのに (デジタル教科書は有償なら)「うちの子は紙の教科書でいい」という話になる。だから国の責任で、大きな政策で進めていくしかない。
           (聞き手=伊藤和行編集委員・宮坂麻子、同・増谷文生)

 

デジタル教科書に前のめりに思われていた大臣の姿勢が、後退した印象を受けました。

 

何があったのでしょう。

 

「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」は、3月に「中間まとめ」を出し、パブリックコメントを募集しました。

そこに寄せられた310件の意見、及び25団体への意見聴取の結果が、大臣のインタビューに反映していると思われます。

 

「検討会議」はパブリックコメントを踏まえて、4月26日、5月27日の会議で「中間まとめ」の修正を加え、「第一次報告」に至ったわけです。

 

「第一次報告」から見えてくるデジタル教科書時代の未来図です。

 

○ なお、令和6年度の小学校用教科書の改訂については、教科書の編集・検定・採択をそれぞれ令和3年度、4年度、5年度に行う必要があり、実際には教科書発行者において既に準備が進められている状況にある。これを踏まえれば、検定制度の本格的な見直しについては次々回の検定サイクルを念頭に検討することが適当と考えられ、令和6年度時点においては、デジタル教科書の内容は、紙の教科書の内容と同一であることを維持することが基本と考えられる。

 

日程的に考えると順当な、落ち着くところへ落ち着いたという感じです。

2024年度のデジタル教科書は、紙の教科書と同一の内容です。

資料や動画へのアクセスにおいて、紙の教科書ではQRコードを読み取っていたものが、デジタル教科書ではワンクリックで済むという利便性はあります。

 

【紙の教科書とデジタル教科書との関係についての検討】


○ 令和6年度からのデジタル教科書の本格的な導入を目指すに当たり、児童生徒に対する教育の質を高める上で、紙の教科書との関係をどのようにすべきかについて、全国的な実証研究や関連分野における研究の成果等を踏まえつつ、更には財政負担も考慮しながら、今後詳細に検討する必要がある。


○ 紙の教科書とデジタル教科書の使用については、概ね以下のような組合せの例が考えられる。


・ 全ての教科等において、デジタル教科書を主たる教材として使用する(紙の教科書を全てデジタル教科書に置き換える)


・ 全て又は一部の教科等において、紙の教科書とデジタル教科書を併用する


・ 発達の段階や教科等の特性の観点を踏まえ、一部の学年又は教科等においてデジタル教科書を主たる教材として導入する


・ 設置者が、学校の実態や、紙の教科書とデジタル教科書それぞれの良さや特性を考慮した上で、当該年度で使用する教科書を紙の教科書とするかデジタル教科書とするかを選択できるようにする


・ 全ての教科等において、デジタル教科書を主たる教材として使用し、必要に応じて、紙の教科書を使用できるようにする(学校に備え付けた紙の教科書を貸与する、紙の教科書で学習する方が教育効果が高いと考えられる部分に限定した紙の教科書を配布する等)


○ なお、紙の教科書とデジタル教科書との関係を検討するに当たっては、特別な配慮を必要とする児童生徒に対する対応を考慮する必要がある。障害のある児童生徒の中には、教科書にアクセスする際に、発達の段階や教科等の特性にかかわらずデジタル教科書が必要不可欠なケースがあり、外国人児童生徒等も同様のニーズがある。そのため、特別な配慮を必要とする児童生徒の場合は、デジタル教科書を必要に応じて利用できるように配慮することが重要である。


○ また、教科書無償給与制度との関係については、今後も義務教育段階において教科書が無償であることを前提としつつ、全国的な実証研究の成果や、デジタル教科書の普及状況を踏まえながら、前述の紙の教科書とデジタル教科書との関係に関する検討と併せて、義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律に基づく無償措置の対象について検討することが望まれる。

 

つまり、2024年度に紙の教科書と同一内容のデジタル教科書が発行されるということは確定です。しかし、それ以外はまだ何も決まっていない、これから検討するということです。

 

「第一次報告」から見えてくるデジタル教科書時代の未来図は「五里霧中」、依然として霧の中です。