小学校のうちに知っておきたい故事成語の第35回は「逆鱗」です。
逆鱗
「逆鱗」の読み方
「逆鱗」の意味
天子の怒り。宸怒(しんど)。また、目上の人の怒り。「逆鱗に触れる」(広辞苑)
「逆鱗」の使い方
主人は大に逆鱗の体で突然起ってステッキを持って、往来へ飛び出す。(夏目漱石『吾輩は猫である』1905年)
※「逆鱗に触れる」は、自分より下の地位・年齢の人が怒ることに用いると、日本語として誤りです。
「逆鱗」の語源・由来
「逆鱗」の出典は、『韓非子』の「説難(ぜいなん)」篇で、君主を臣下が説得することの困難さについて述べたくだりにあります。龍の喉元には一枚逆向きに生えた鱗(逆鱗)があり、これに触ると怒って人を殺してしまうとの故事によります。
夫龍之爲蟲也 柔可狎而騎也
然其喉下有逆鱗徑尺 若人有嬰之者 則必殺人
人主亦有 逆鱗
說者能無嬰人主之逆鱗 則幾矣
【読み下し文】
夫(そ)れ龍の蟲(むし)たるや、柔(じゅう)なるときは狎(な)れて騎(の)るべきなり。
然(しか)れども其(そ)の喉下(こうか)に逆鱗の径尺(けいしゃく)あり、若(も)し人之(これ)に嬰(ふ)るる者有らば、則(すなわ)ち必ず人を殺す。
人主(じんしゅ)も亦(ま)た逆鱗有り。
説者(ぜいしゃ)能(よ)く人主の逆鱗に嬰るること無くんば、則ち幾(ち)かからん。
【現代語訳】
龍という生きものは、穏やかな時には、馴染めば(背中に)またがる事もできるものだ。
しかし、竜の喉元には鱗が逆さに生えた部分があり、これに触れる者がいると、(竜は怒り)その者をすぐに間違いなく殺してしまう。
君主にも同じように逆鱗がある。
(臣下の)発言者は、(具申の際に)自ら君主の逆鱗に触れるようなことがなければ、(上手くいく結果が)近いものである。
「逆鱗」の蘊蓄
「逆鱗」は龍(竜)のうろこ、「竜」の出てくる故事成語を集めました。
龍は中国で生まれた想像上の動物で、中国人にとって最も神聖な霊獣です。
中国の竜は、伝統的に、特に水、降雨、台風、洪水を制御する、強力で縁起の良い力を象徴しています。さらに、貴人の力、強さ、そして幸運の象徴でもあります。
画竜点睛を欠く(がりょうてんせいをかく)
ほぼ完全に出来上がっているのに、肝心の部分が抜けているために不完全な状態になっているさま。「睛」は瞳を表し、「晴」とするのは本来は誤り。
※「画竜点睛」は、日本語探訪(その98)故事成語「画竜点睛」で紹介しています。
雲は竜に従い風は乕に従う(くもはりゅうにしたがいかぜはとらにしたがう)
《「易経」乾卦から》相似た性質を持った者どうしが互いに求め合う。りっぱな君主のもとにはすぐれた臣下が現れるということのたとえ。
亢竜悔いあり(こうりょうくいあり)
《「易経」乾卦から》天に昇りつめた竜は、あとは下るだけになるので悔いがある。栄達を極めた者は、必ず衰えるというたとえ。
飛竜雲に乗る(ひりょうくもにのる)
《「韓非子」難勢から》英雄が時に乗じて勢いを得るたとえ。
飛竜天に在り(ひりょうてんにあり)
《「易経」乾卦から。竜がそのところを得て天にいる意》聖人が天子の位にあって、万民がその恩沢を受けるたとえ。
竜乕相搏つ(りゅうこあいうつ)
力の伯仲した二人の強豪が勝負する。
竜頭蛇尾(りゅうとうだび)
※「竜頭蛇尾」は、「日本語探訪(その139)」で紹介予定です。
竜に翼を得たる如し(りゅうにつばさをえたるごとし)
竜という強大な存在が翼を持つことで更に強力になるさま。もともと力の強いものが更なる力を手に入れるさま。「鬼に金棒」と同様の意味。
竜の雲を得る如し(りゅうのくもをえるごとし)
竜が天にある様子。転じて、英雄豪傑などが大活躍するさまなどを意味する表現。
竜の鬚を撫で乕の尾を踏む(りゅうのひげをなでとらのおをふむ)
きわめて危険なことをすることのたとえ。
竜門の滝登り(りゅうもんのたきのぼり)
立身出世することのたとえ。→登竜門
驪竜頷下の珠(りりょうがんかのたま)
《「荘子」列禦寇から》黒色の竜のあごの下にある珠。危険を冒さなくては手に入れることのできない貴重なもののたとえ。