教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

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日本語探訪(その119) 故事成語「出藍の誉れ」

小学校のうちに知っておきたい故事成語の第41回は「出藍の誉れ」です。

 

出藍の誉れ

 

出藍の誉れ」の読み方

しゅつらんのほまれ

 

出藍の誉れ」の意味

弟子がその師匠を越えてすぐれているという名声。(広辞苑

 

出藍の誉れ」の使い方

酒の上では完全に師匠格の私より出藍の誉(ほまれ)である。(吉田健一河上徹太郎』1954年)
 

出藍の誉れ」の語源・由来

出藍の誉れ」の出典は、荀子(じゅんし)の『勧学』です。

荀子は、中国戦国時代末の思想家・儒学者です。

 

君子曰、
「学不可以已。」
青、取之於藍、而青於藍
氷、水為之、而寒於水。
木直中縄、輮以為輪、
其曲中規、雖有槁暴不復挺者、
輮使之然也。
故木受縄則直、金就礪則利、
君子博学而日参省乎己、
則智明而行無過矣。

故不登高山、不知天之高也、
不臨深谿、不知地之厚也、
不聞先王之遺言、不知学問之大也。
干越夷貉之子、生而同声、
長而異俗、教使之然也。

詩曰、
「嗟、爾君子、無恒安息。
靖共爾位、好是正直、
神之聴之、介爾景福。」
神莫大於化道、福莫長於無禍。

【読み下し文】

君子曰はく、
「学は以て已むべからず。」と、
青は、之を藍より取りて、藍より青く
氷は、水之を為して、水より寒し。
木直くして縄に中るも、輮めて以て輪と為さば、
其の曲なること規に中り、槁暴有りと雖も復た挺びざるは、
輮むること之をして然らしむるなり。
故に、木、縄を受かば則ち直く、金、礪に就かば則ち利く、
君子博く学びて日に己を参省せば、
則ち智明らかにして行ひに過ち無し。

故に高山に登らざれば、天の高きを知らず、
深谿に臨まざれば、地の厚きをしらず、
先王の遺言を聞かざれば、学問の大なるを知らざるなり。
干越夷貉の子、生まれたるときは而ち声を同じくするも、
長ずれば而ち俗を異にするは、教へ之をして然らしむるなり。

詩に曰はく、
「嗟、爾君子よ、恒に安息すること無かれ。
爾の位を靖共し、是の正直を好み、
之を神とし之を聴き、爾の景福を介いにせよ。」と。
神、道に化するより大なるは莫く、福、禍無きより長なるは莫し。

【現代語訳】

昔の君子が言っている、
「学問は途中でやめてはならない。」と。
青は、藍草から取ってできるものだが、藍草より青く
氷は、水が変化してできるものだが、水より冷たい。
木がまっすぐで定規にぴったり合うようでも、
湾曲させて輪にすれば、其の曲がりようはコンパスにぴったり合うようになり、
枯れて乾燥しても二度とまっすぐにならないのは、湾曲させることがそうさせたのである。
同様に木は定規に当てられれば、まっすぐになり、金属は砥石で磨かれれば鋭くなり、
君子は幅広く学んで一日に我が身を何度も振り返るならば、物事に通じ行動を誤らなくなるものである。

ところで、高い山に登ってみなければ天の高さを知ることはできず、
深い渓谷を間近に見てみなければ大地の厚さを知ることはできず、
古代に聖王の残した言葉を聞いてみなければ、学問の重大さを知ることはできないものである。
干や越、夷や貉といった異民族の子供らは、生まれたときは同じように産声を上げるが、
成長すれば異なった風俗を身に付ける、これは教育がそうさせているのである。

詩経にこうある、
「ああ、おまえたち君子よ、常に安逸をむさぼることがあってはならぬ。
自らの職責を全うし、その正しく嘘のないところを好み、
神的なものを畏敬してこれに従い、自分の大いなる幸いをさらに大きなものにせよ。」と。
ここにいう「神的なものを畏敬する」とは、聖人の学問に感化されることより重要でなく、
ここにいう「幸い」とは、災いのないことより良いものはないものなのだ。

 

出藍の誉れ」の蘊蓄

筍子故事成語

青は藍より出でて藍より青し(あおはあいよりいでてあいよりあおし
《「荀子」勧学から》青色の染料は草の藍からとるが、それはもとの藍草よりももっと青い。弟子が師よりもすぐれていることのたとえ。出藍(しゅつらん)の誉れ。

 

麻の中の蓬(あさのなかのよもぎ
《「荀子」勧学の「蓬麻中に生ずれば扶(たす)けざるも直し」から》蓬のように曲がりやすいものでも、まっすぐな性質の麻の中に入って育てば曲がらずに伸びる。人は善良な人と交われば自然に感化を受け、だれでも善人になるというたとえ。麻につるる蓬。

 

一を以て万を知る(いちをもってばんをしる)
《「荀子」非相から》「一を聞いて十を知る」に同じ。

 

風に順いて呼ぶ(かぜにしたがいてよぶ)
《「荀子」勧学から》風上から風下に向かって呼べば声がよく届くように、勢いに乗じて事を行えば成功しやすいというたとえ。

 

氷は水より出でて水よりも寒し(こおりはみずよりいでてみずよりもさむし)
《「荀子」勧学から》弟子が師よりも勝ることのたとえ。青は藍(あい)より出でて藍より青し

 

出藍(しゅつらん)
《「荀子」勧学の「青はこれを藍(あい)より取りて藍より青し」から》そこから生まれたものが、そのもとのものよりもすぐれていること。弟子が師にまさることにいう。

 

鶉衣(じゅんい)
《子夏は貧しく、着ている衣服が破れていたのを鶉にたとえた「荀子」大略の故事から》継ぎはぎだらけの衣。みすぼらしい衣服。弊衣。うずらごろも。

 

楚腰(そよう)
《(「荀子」君道篇)楚の霊王が、腰の細い美人を好んだという故事から》美人の細い腰。腰(やなぎごし)。

 

水は方円の器に随う(みずはほうえんのうつわにしたがう)
水は、容器の形によって、四角にも丸くもなる。人は、交友関係や環境によって、よくも悪くもなるというたとえ。