人権教育の「流行」。
ここで使っている「流行」というのは、「はやり」という意味ではありません。「今日(こんにち)的な課題」という意味です。
谷口真由美さんが「30年前に習った人権は当てはまらない」と言われるのは、人権教育の「流行」にかかわります。
社会の変化とともに人権の状況も変化します。当然、人権課題も変化します。
変化の大きいこの時代、「30年前」の課題意識では通用しないと警鐘しているのだと読み取っています。
30年前の人権課題。「人権教育のための国連10年」(1995-2004)のころ、日本の人権課題として次のものが掲げられていました。
■同和問題
■女性
■子ども
■高齢者
■障害者問題
■外国人
■あらゆる感染症の患者とその家族
■アイヌの人々等
■刑を終えて出所した人
■環境問題
「あらゆる感染症の患者とその家族」が取り上げられるに至った最大の要因は、「エイズ問題」です。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と、HIVが引き起こす感染症である後天性免疫不全症候群 (AIDS エイズ)の問題で、日本で最初に感染が認知されたのは1985年のことでした。当時としては極めて新しい課題でした。
1990年代、私が人権教育副読本の編集に関わっていた時のことです。
「HIV感染者」の問題を教材化することになり、「座長」を務めていた私が「支援する会」の活動をしていた女性に原稿依頼をすることになりました。
女性が書いてくれた初稿には、「同性愛者」の男性が登場していました。
私は、「課題意識が分散してしまうこと、子どもの発達段階(性の知識)における段差が大きいこと、教室で使ってくれる教員たちの理解を得るのが困難なこと」を理由に、原稿の書き換えを求めました。
何度かのやりとりの中で、彼女が言いました。
「理解を得るのが難しいと言われるが、部落問題だって最初に教材化した時は理解を得るのが難しい状況だったでしょ」
「理解を得るのが難しい状況を何とかするために教材化するのじゃないんですか」
もっともです。
しかし、結局は私の側の理屈を通してしまいました。
その時点では、教員としての私の判断は間違ってはいなかったと思います。と同時に、「同性愛者」に対する私の理解や意識(差別的な意識)そのものであったことを認めなければなりません。
新たな人権課題を教育の課題にしていく難しさを思います。
今なら、とも考えます。
30年のときが経った今なら、彼女の初稿のままで教材化していたでしょう。社会の状況が当時とは変わったのです。
「性」をめぐる多様性
30年前に「性」というとき、多くは「ジェンダーバイアス」の問題を指しました。
30年経った今も、重要な課題であることには相違ありません。
それとは別に、近年では「性」をめぐる多様な課題が提起されています。
性同一性障害とは、医学的な概念である「男女」という2つの性別の原理に基づき、「体は男性だけど自分は女性」、あるいは、「体は女性だけど自分は男性」という認識を持つことです。
上戸彩さんが「体は女性だけど自分は男性」という認識を持つ中学生役で出演した「3年B組金八先生」が放送されたのは2001年のことでした。
小山内美江子さんが提示した課題は衝撃的でさえありました。「性同一性障害」という言葉を知ったのも、このドラマが最初だった気がします。
トランスジェンダーとは、こころとからだの性が一致していない人を指し、医学用語の”性同一性障害”とは、厳密には異なる言葉になります。例えば、生まれた時の性は男性ですが、自身のことを女性と認識している方はトランスジェンダー女性。その反対をトランスジェンダー男性といいます。
トランスジェンダーは一般的に、性自認と身体的性が一致していない方全般を表す言葉ですが、その中にもいろいろな状態の方が存在しています。
トランスジェンダーに含まれる「トランスセクシュアル」には、英語として2つの意味を持っています。
1つは、身体的性と性自認が一致しておらず、それらに対して違和感や嫌悪感を抱き、場合によっては外科的な手術を望む状態。もう1つは、性別適合手術を受けた状態です。
現在では、トランスジェンダーの中でも手術を望む(又は受けた)一部の方が自認する呼称、いわばトランスジェンダーのサブカテゴリとして、認識されることも多くなってきました。
性同一性障害とは、医学用語です。GID(Gender Identity Disorder)ともいわれ、性自認と身体的性が一致しておらず、外科的手術による一致を望む状態を指します。「トランスセクシュアル」と非常に近い意味の言葉です。つまり、広い意味では、トランスジェンダーの中に、性同一性障害は包括されることになります。
※「トランスジェンダーとは?【性同一性障害との違いも詳しく解説(当事者監修/2021年最新版)】」より引用させていただきました。
SOGI(ソジ)
「SOGI」とは、Sexual Orientation(性的指向) と Gender Identity (性自認) の頭文字を取った、「人の属性を表す略称」です。異性愛の人なども含めすべての人が持っている属性のことを言います。
「LGBT」とは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティ(性的少数者)を表す総称のひとつとしても使われることがあります。
LGBTQ
Qを表すQueer(クイア)やQuestioning(クエスチョニング)。
「クイア」は、もともと「不思議な」「風変わりな」「奇妙な」などを表す言葉で、同性愛者への侮蔑語でしたが、現代では、規範的な性のあり方以外を包括する言葉としても使われています。
「クエスチョニング」は、自らの性のあり方について、特定の枠に属さない人、わからない人等を表す言葉です。
「性的指向」にも「性自認」にも、こころのあり方が深く関わっています。
こころの問題というのはアプローチの難しい領域です。
かつて同和教育で部落問題を教材化していたころ、実体的差別に比べて心理的差別へのアプローチにより多くの時間と労力を要しました。そのプロセスを教訓として、この課題にも生かしたいものです。