教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「学びの共同体」と「授業のユニバーサルデザイン化」で授業改革を③

「学びの共同体」③

 

「学びの共同体」事始めです。

2013年6月執筆の実践記録を紹介します。

 

 

「学びの共同体」をめざして ~教室革命事始め~

 

1 はじめに ~今やらずに、いつやる~


 岩波ブックレットから佐藤学さんの『学校を改革する』が発行されたのは、昨年(2012年)の7月である。


 佐藤さんが提唱する「協同的な学び」や「学びの共同体」は、『「学び」から逃走する子どもたち』(2000年)や『学校を創る-茅ヶ崎市立浜之郷小学校の誕生と実践』(2000年)、『学校を変える-浜之郷小学校の五年間』(2004年)で知った。だがそれは、遠い世界の特別な実践だった。


 10年ほどの時が流れて、久しぶりに佐藤さんの著書に触れた。


「この授業と学びの様式(注:協同的学び)は、途上国や北朝鮮のような特殊な国を除けば、今日、グローバル・スタンダードとなっている」。近年は、アジアのいくつかの国が国家の教育システムとして導入し(ヨーロッパは以前からそうであった)、日本でも「2012年現在、学びの共同体の学校改革に挑戦している小学校は約1500校(注:全国の小学校数は約21000校)、中学校は約2000校(注:全国の中学校数は約10000校)ある」という。--なんという衝撃。


 私は、間もなく教員生活を終える。学校ぐるみの「学びの共同体」は、一朝一夕にはいかない。だが、教室における「協同的学び」の取り組みは一人でも可能だ。今やらずに、いつやる。


 かくして2013年度を迎えた。

 

 

2 教室風景が変わる


 今年は、3年生を担任することになった。


 (中略)


 さて、「50日が勝負」を経過した時点での教室風景をレポートしておこう。


 黒板の前に教卓がある。そこに立って授業を始めてみると、どうも勝手が違う。教室のレイアウトを変えることは、授業のあり方を変えることなんだと実感する。最初の変化は、子どもの学びにではなく、教師の教えに表れた。


 まず、私の立つ位置が変わった。教卓の前に立つこともあるが、子どもたちの机の近くにいることが多くなった。それに伴って、演説口調が語り口調になり、声も小さくなった。


 つづいて、課題の出し方が変わってきた。具体的に言うと、一問一答式の質問がめっきり減った。これは、すぐれた問いを作る鍛錬の場になっているし、ひいては授業の質の向上に繋がるはずだ。


 子どもの変化を「成果」として記せる状況には、まだない。ましてや、従前の授業形態を続けていた場合との比較など不可能だ。だが、小さな変化がないわけではない。


 個別の支援が欠かせない2人のうちの1人(以下、X として登場する)は、一斉指導の中で耳から入ってくる情報はほとんど処理できない。もう1人(以下、Y として登場する)は、2年の漢字で読めるものが25%にすぎない。彼らはしばしば課題を投げ出し、学びからドロップアウトしてきた。その2人が、「丸写し」というワザも含めて、ともかくも学びの場に踏みとどまり、学びに参加し続けている。


 学びの質という点では、佐藤さんの言う「学び合い」には遠く及ばず、「教え合い」にも届かないレベルである。それでも子どもたちは、この学びのカタチを肯定的に受け入れ、結構楽しんでくれている。

 

以下、次回に続きます。