教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「学びの共同体」と「授業のユニバーサルデザイン化」で授業改革を④

「学びの共同体」④

 

 

「学びの共同体」をめざして ~教室革命事始め~

 

1 はじめに ~今やらずに、いつやる~

 

2 教室風景が変わる

 

 (ここまでは前回をご覧ください)

 

3「ゆうすげ村の小さな旅館」(東京書籍)の授業から


 (1)「ゆうすげ村…」で何をめざすか


  ①教育内容として(授業のユニバーサルデザイン化の視点から)


 この単元のねらいは、「物語のあらすじをとらえよう」である。学習指導要領の「目的や必要に応じて、…要約したりすること」が指導事項であり、説明文の要約の仕方と対をなすものとして、物語文のあらすじのまとめ方を習得させることが目標の「論理」になる。子どもたちには、「2年生に『ゆうすげ村…』のお話を紹介しよう」というねらいを提示し、あらすじをまとめる必然性をもたせた。


 指導書では、全9時間の学習の流れを、
一次 学習のねらいを確かめ、学習の見通しを持つ …第1時
二次 人物像について考え、物語の「しかけ」を確かめる …第2・3時
三次 時を表す言葉を手がかりに、場面を分ける …第4~7時
四次 だいじなところを確かめ、あらすじをまとめる …第8・9時
としている。


 学習に入るずっと前に、ファンタジーの「しかけ」が明らかになる後半部分をセロテープで封印した。場面を「隠す」という「しかけ」である。授業においては、あらすじをまとめる過程をスモールステップ化し、課題のハードルを下げるように工夫した。すなわち、
二次 人物像について考える …第2時
三次 時を表す言葉を手がかりに場面を分け、場面ごとのあらすじをまとめる
   第3時 時を表す言葉を手がかりにして、場面を分ける
   第4時 第1・2場面を読み、あらすじをまとめる
       ※一斉授業、みんなで確かめながらあらすじをまとめる
       ※1場面1文で「いつ」「どこで」「だれが」「どうした」
   第5時 第3場面を読み、あらすじをまとめる
       ※以後、グループで確かめながらあらすじをまとめる
   第6時 第4・5場面を読み、あらすじをまとめる
   第7時 物語の「しかけ」を見つける
   第8時 第6・7場面を読み、あらすじをまとめる
四次 だいじなところを確かめ、あらすじをまとめる …第9時
   ※各場面のあらすじをつなぎ、必要に応じて気持ちを表す文などを書き加える。

 

授業のユニバーサルデザイン化については、次回以降に再度詳しく取り上げます。

 

  ②「学びの共同体」の視点から


 先にも触れたように、現時点でのねらいは、全員が学習に参加することである。指示を視覚化したり、教科書にルビを付けたりといった個別支援の工夫もしているが、そんなことは学ぶ意欲づけにはならない。劣等感を払拭し、自己効力感を高めるには、学ぶことが楽しいと思える体験を重ねるしかない。その場を「協同的学び」に求めている。学びの質については、今しばらく横に置いておきたい。

 

 

 (2)6月4日、学校アドバイザリー参観授業


 6月4日、学校アドバイザリーチームの学校訪問があり、3時間目に国語の授業を見ていただいた。困難さが最も顕著に表れる国語の考える学習を見ていただいて、何かしらの示唆を与えてもらえればと思惑からだ。


 参観授業は、指導計画の「三次 第7時 物語の『しかけ』を見つける」であった。案の定、苦しい授業になった。しかし、授業後の懇談では、思いの外高い評価をいただいた。その内容を要約すると、
・授業者のマクロな発問で、子どもたちはじっくり考えを深めていた。子どもへの「返し」もよかった。
・要支援児童は頼りっぱなしという状況もあったが、頼られている子の学びが深まっていた。
という2点に尽きる。老教師へのリップサービス分を割り引いたとしても、「協同的学び」でめざしていることの本質に関わる評価である。気分が悪いわけがない。そんなわけで、この日の授業をスケッチしておこう。

 

 

 授業の冒頭にワークシートを配り、「物語の『ひみつ』を見つけよう」という課題を示した。


 教科書は、主人公のつぼみさんが、山の畑で2匹のウサギがダイコンを抜いているのを目撃し、(そういうことだったの……。)という心内語を発するところで終わっている。厳密に言うと、そこから後のページが隠されている。

 

【学習活動1】吹き出しに「そういうことだったの…。」の続きを書く。


(1)吹き出しに書く。…一人学習。


  ワークシートの吹き出しに、「つぶやき」の続きを書くように指示。しばらくして、早く書けた子には、そう考えた理由を書くように伝えた。


A (そういうことだったの……。やっぱり、美月さんはウサギで、宇佐見さんもウサギだったのね。)《理由》美月がダイコンをしゅうかくすると言っていたから。


B (そういうことだったの……。やっぱり美月さんとうさみという男がウサギだったの。)《理由》美月の色がダイコン色だから。ダイコンを持ってきたから。


C (そういうことだったの……。ダイコンをきれいにぬいているから、もしかして美月さんとうさみさんかもしれないと思ったわ。)《理由》動物がダイコンをきれいにぬくわけがないから。


D (そういうことだったの……。この畑を知っているのは、美月さんとうさみという男とわたしだけなのに、なぜかしら。わかったわ、このウサギはうさみという男と美月さんね。)《理由》人間はダイコンをぬくのがうまくて、動物はダイコンをぬくことはできないから。

 

(2)グループ内で交流


 A とB は同一グループに属している。A が真っ先に書き込みを行い、A のつぶやきに触発されるようにB が書き込んでいった。理由の記述が全く違うことから、B は自分なりに納得し咀嚼して書いていったことが窺える。この2人の間では意見交流が成立し、B はA の考えに傾倒していった。


 このグループには、個別支援が必要なX とY の2人がいる。X は吹き出しに書き込むことはできなかったが、交流の中で、「2ひきのウサギ=美月と宇佐見さん」ということには合意できたようである。一方 Y は、A のワークシートを写してはいたが、内容を理解できているようにはなかった。


 C とD はもう1つのグループに属している。C は学力は高いが、ファンタジーの世界に浸れるタイプの子ではない。そのC に引っ張られる形で、D の書き込みがなされている。したがって、意見交流が成立せず、考えを深めるには至らなかった。


 このグループに属するZ は、漢字や計算はトップクラスの力を持っているが、考える学習になるとしばしば思考停止状態に陥る。この時間も「分からない」を連発し、最後まで交流に参加できなかった。

 

(3)全体で交流


 全体交流では「2ひきのウサギ=美月と宇佐見さん」という結論部分での一致だけを確認し、そう考えた理由を深めることはしなかった。C とD の理由は論理的に間違っているが、それも不問にした。

 

【学習活動2】「ひみつ」何かを確かめる。


 教科書の伏せてある部分を開き、その部分を黙読させた。「やったぁ」「あたってた」という声が上がる。「おお、やったじゃん。」程度の押さえで、ここは終わった。

 

【学習活動3】作者の「しかけ」を見つける。


(1)「ひみつ」に迫るヒントを見つけてワークシートに書き出す。


… 一人学習・3分間+グループ内情報交換。


 「ヒント」は、物語の各所に6個埋め込まれている、と私はみている。ワークシートには、5つの記述枠を設けておいた。3分間の一人学習とその後の情報交換で、A のグループは5個、C のグループは4個の「ヒント」を見つけた。予想以上の出来だった。

 

(2)全体で交流

 

 全体交流は、A のグループから交互に1つずつ発表させた。グループの発表者は1回ずつ互選で決めた。X とY の2人もこれには進んで参加していた。「作業-確認-指名」という手順を踏むことで、自信をもって臨めたようだ。


 A のグループが5つ目の「ヒント」を発表した時、C のグループから「あぁ」という感嘆の声が漏れた。学び合うってこういうことなのかなと、振り返って漠然と思う。

 

 

4 これからの展望


 この舟はどこへ向かおうとしているのか。未だ五里霧中の状態ではあるが、向かう先の景色ははっきりしている。その景色とは、ユニバーサルデザイン化された授業の中で学び合う子どもたちの光景だ。授業のUD化という授業内容・授業方法からの改革と、「学びの共同体(協同的学び)」という授業形態からの改革が1つになった時、それは実現する。--というのが青写真なのだが、恐らく霧の中で私は教員生活を終えることになるのだろう。10年後の教室風景を覗いてみたい気もするが…。

 

 

私の教職生活はこの1年と次の1年で終わりました。

「学びの共同体」については、事始めレベルからほとんど進歩しませんでした。したがって「実証」はできていないのですが、たしかに「手応え」はありました。