教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「学びの共同体」と「授業のユニバーサルデザイン化」で授業改革を②

「学びの共同体」②

 

 

学びの共同体の学校のヴィジョン

「学びの共同体の学校は、子どもたちが学び合う学校であり、教師たちも教育の専門家として育ち合う学校であり、さらに保護者や市民も学校の改革に協力し参加して学び育ち会う学校である。」

 

学びの共同体 3つの哲学

■公共性の哲学……教室を開くこと

■民主主義の哲学……子どもと子ども、子どもと教師、教師と教師の間に「聴き合う関係」を創造すること

■卓越性の哲学

 

学びの共同体 3つの活動システム

■教室における協同的学び

■職員室における教師の学びの共同体と同僚性の構築

■保護者や市民が改革に参加する学習参加

 

 

■教室における協同的学び

 

前回(「学びの共同体」と「授業のユニバーサルデザイン化」で授業改革を①)で紹介した2013年4月の文章の続きです。

 

 「協同的学びによる授業改革」という項の冒頭、佐藤さんは衝撃的な事実を告げる。曰く、「学びの共同体の学校改革においては、小学校低学年においては全体学習とペア学習による協同的な学び、小学校3年以上、中学校、高校においては男女混合4人グループによる協同的学びを中心に授業を組織している。この授業と学びの様式は、途上国や北朝鮮のような特殊な国を除けば、今日、グローバル・スタンダードとなっている。」


 そして、学びの共同体の学校改革が協同的学びを中心に授業を組織している理由として、次の4点を挙げている。


① 協同的学びは、学びの本質である。
② 一人残らず子どもの学びの権利を実現するためには、協同的学びによって子ども同士が学び合うより他に方法はない。4人以下の小グループの学び合いは、どの形態の授業よりも強制的に学びを促す機能がある。
③ 小グループの協同的学びが、学力の低い子どもの学力を回復する機能を発揮することである。
④ 協同的学びが、学力の高い子どもにも、より高い学力を保証することである。ただし、〈ジャンプの課題〉への挑戦を含んでいることが条件である。

 通常、学びの共同体の学校の協同的学びにおいては、誰もが理解すべき〈共有の課題〉(教科書レベル)と、その理解を基礎として挑戦する〈ジャンプの課題〉(教科書レベル以上)の2つの課題で授業をデザインしている。


 〈共有の課題〉においては、個人作業の共同化ともいうべき、小グループの協同的学びによって組織する。個人作業の共同化においては、分からない子どもが「ねえ、ここどうするの?」という問いを発することから学び合いが出発する。佐藤さんの観察では、この学びで最も利益を受けているのは学力の高い子どもだそうだ。


 〈ジャンプの課題〉は、クラスの半分から3分の1が達成できるレベルが妥当だという。佐藤さんによれば、この学びで最も恩恵を受けるのは低学力の子どもであり、〈ジャンプの学び〉を組織することで低学力問題の解決に効果を上げた学校がいくつもあるそうだ。

 

  

 協同的学びを導入するにあたって、「教え合う関係」と「学び合う関係」の違いを整理しておく必要がある。「教え合う関係」は、分かっている子どもが分かっていない子どもに一方的に教える関係で、両者の間に互恵的関係はない。それに対して「学び合う関係」は、分からない子どもが「ねえ、ここどうするの?」と質問することから出発する学び合いであり、両者に恩恵をもたらす互恵的関係が成立している。協同的学びがめざしているのは、「学び合う関係」である。

 

 いくつかの技術的問題について触れておきたい。

 

 

 小グループは、男女混合の4人グループで組織する。5人のグループができる時は、3人グループを3つにするなどして対応する。男女混合の方が探求が活性化される。小グループの組織は、多様な個性や能力の子どもが偶発的に組織されるのが好ましく、クジで決め、適宜編成を変えるのがよい。

 

 

 1つの授業において、〈共有の学び〉と〈ジャンプの学び〉の両方を組織する。小学校中学年においては、全体の協同的学びと小グループの協同的学びを適宜組み合わせて授業を進める。高学年以上では、〈共有の学び〉と〈ジャンプの学び〉を前半と後半に割り当てるのが基本型である。なお、小グループの活動の間、教師は声を掛けない。歩き回るのも子どもたちの学びの妨げになる。ただし、参加できていない子どもは援助し、学び合いが滞っているグループに対しては最小限の援助を行う。

 

 

 クラス全体を対象とする授業は、コの字型(ゼミナール形式)の配置で行う。高学年以上では、最初から最後まで小グループの配置のままで、全体の協同的学びと小グループの協同的学びの両方を実施してもよい。

 

 

 


 2012年現在、学びの共同体の学校改革に挑戦している小学校は約1500校、中学校は約2000校ある。公開研究会も年間1000回近くに達し、「学びの共同体研究会」のホームページ(http://www.justymstage.com/home/manabi/)に実施計画が掲載されている。

 

 私自身は、10年ほど前から佐藤さんの著書を通して「学びの共同体」を知ってはいたが、手つかずの状態で過ごしてきた。今、教室からの小さな改革を始めたばかりだ。

 

 

 私は、自分の実践をくぐっていないことは書かないようにしているのだが、今回は例外的に紹介した。授業のユニバーサルデザイン化にも通じるし、時代の要請でもあると感じるからだ。

 

 

次回は、いよいよ「学びの共同体」(「協同的学び」)の事始めです。