教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(その21) 慣用句「瓜二つ」

小学校3・4年生の教科書に登場する慣用句の第8回は「二つ」です。教科書の表記は、「うり二つ」となっています。

 

二つ

 

二つ」の読み方

うりふたつ 

 

二つ」の意味

瓜を二つに割った形がそっくりなところから、兄弟などの容貌が甚だよく似ていることにいう。(広辞苑

 

二つ」の使い方

「あの親子は瓜二つだ」 

 

※「瓜二つ」の使い方については2つの考え方があります。

①「そっくり」が、外見や外形だけでなく、性格、性質や内容、そして状態や行動の様子など、あらゆる面についていうのに対して、「瓜二つ」は人間の顔形がよく似ている場合にいう。

② 「瓜二つ」は、人や物、思想など多岐にわたって使える。

最後は日本語のセンスの問題になってしまいますが、私は①派です。

 

二つ」の語源・由来

瓜を縦に2つに割った形がそっくりであることが「瓜二つ」の由来です。

ちなみに、この瓜は「マクワウリ」(真桑瓜)です。

農林水産省のホームページから引用します。

マクワウリはウリ科キュウリ属の一年生草本です。
東アジアで発達した東洋系のメロンの仲間で、日本へは2000 年以上前に中国や朝鮮半島から伝来したとされます。
古事記」や「万葉集」にも記載があり、古くは‘ウリ'といえばマクワウリのことを指し、カラウリ、アジウリとも呼ばれていました。マクワウリの名前は美濃国真桑村(現、岐阜県本巣市)が特産地と知られたことによります。

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『新レインボー 写真でわかる はじめてことわざ・四字熟語辞典』より

 

 

二つ」の蘊蓄

「瓜」という漢字の蘊蓄

「瓜に爪あり爪に爪なし」 (うりにつめありつめにつめなし)

「瓜」という字にはつめがあり、「爪」という字にはつめがないの意で、瓜と爪の字画のちがいを教える文句です。

「つめ」は

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です。

「うりにつめあり、つめにつめなし」は、「瓜」と「爪」を覚える時にしばしば登場するフレーズです。

いまさら聞けない SDGs ③小学校におけるSDGs教育

今回のテーマは、「小学校におけるSDGs教育」です。

 

小学校におけるSDGs教育というとき、2つの側面があると思います。

1つは「教師が取り組むSDGs教育」の側面で、もう1つは「子どもが取り組むSDGs教育」の側面です。

 

教師が取り組むSDGs教育

「教師が取り組むSDGs教育」というのは、授業環境や授業方法など教師の指導力に関するものです。

 

SDGsの目標には、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という条件が付いています。

包摂的かつ公正な質の高い教育を提供」するという目標も、「すべての人々へ」(=「誰一人取り残さない」)という言葉から始まっています。

 

GIGAスクール構想に出てくる「個別最適化された学び」というフレーズは、正確には「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」です。

 

SDGsの「誰一人取り残さない包摂的かつ公正な質の高い教育」と、GIGAスクール構想の「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」。両者は酷似しているというより、GIGAスクール構想はSDGsの具象だということでしょう。

 

GIGAスクール構想については、「『個別最適化された学び』を考える」()に書きました。

GIGAスクール構想は、全ての人々に「教育を目的としたインターネット」「教育を目的としたコンピュータ」をいうSDGsの指標に合致しています。

 

しかし、「誰一人取り残さない包摂的かつ公正な質の高い教育」をGIGAスクール構想の枠内だけで語るのはいかがなものでしょう。

 

GIGAスクール構想の「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」はSDGsの具体として、現場の先生たちにストンと落ちているのでしょうか。それともよくあるお役所の「言葉いじり」「言葉遊び」に終わっているのでしょうか。

 

現場の先生たちの一人ひとりがSDGsの示す課題を自身の実践に引き寄せて、課題が「我がこと」となったとき、SDGsの取り組みが始まると私は思っています。

手始めに、前回の稿で概観した日本の教育の課題をフィルターにして、自身の教育を検証してみてはいかがでしょう。

 

「日本の教育の課題」を「我がこと」とするにおいて、加えておきたいことがあります。 

 

文科省の教育には、人権教育の視点が致命的に欠如しています。これはもう、現場が自覚的に補強しない限り、どうにもなりません。人権教育の課題は現場によってさまざまでしょうが、意識的に手を打たない限りは欠けているのだという現状認識は共有したいです。

 

さらに、「雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能」の指標を「 ICTスキル」に限定している点についてです。

ICTスキルはだいじなのですが、「働きがいのある人間らしい仕事」はICTだけではありません。私は、小学校においては将来の人生観や職業観の基盤となるキャリア教育をデザインしてほしいと思っています。

 

 

子どもが取り組むSDGs教育

「子どもが取り組むSDGs教育」というのは、教室におけるSDGs実践、つまり授業内容のことです。

 

「子どもが取り組むSDGs教育」は、2つに大別できます。

SDGsそのものについての理解を深める」取り組みと「SDGsの目標の1つを探究する」取り組みです。

 

SDGsそのものについての理解を深める

SDGsについて知る、SDGsが掲げている目標について知り、その背景についての理解を深める。--正しく知ることは、考え方や生き方の基盤になります。

学習時間を特設するだけでなく、社会科や理科の学習内容と関連づけて学ぶこともできます。高学年が中心になると思いますが、年度初めにカリキュラムを通覧して、学習計画を立てるとよいです。

 

SDGsの目標の1つを探究する

こちらは、SDGsの目標の1つ(たとえば「福祉」)を取り上げ、調べ学習、体験学習等を教科の枠を超えて展開します。総合的な学習の時間の活用が想定されます。

「福祉」などは従来の総合でも主要なテーマの1つでした。その際の取り組みの目線は、「わたしの町」であることが多く、よほど大きく問題設定しても「わたしたちの国」までだったと思います。

そうした今までの取り組みをだいじにしながら、そこでの学びや教訓を世界の課題につなげていくのです。

 

「そこ(今までの取り組み)での学びや教訓を世界の課題につなげていく」ということには補足が要るかもしれません。

10年あまり前、世界遺産の学習に取り組んだことがあります。

まず、世界遺産とは何かということや、世界遺産になるための基準などを調べました。

ユネスコは、世界遺産を「人類が共有すべき顕著な普遍的価値をもつもの」としています。私のクラスでは、「地域遺産」を、「地域みんなの宝物」「今までも、これからも変わらずに大切なもの」と定義しました。

次に、世界遺産の認定基準をもとに、地域遺産の基準を定めました。

1 地域に住む人たちが大切にしてきた建物や芸術であること。(文化遺産無形遺産の基準)
2 とてもめずらしく、大切な自然であること。(自然遺産の基準)
3 その文化や自然を地域の人たちが守り、次の世代に伝える努力をしていること。
文化遺産・自然遺産共通の基準)

そうして選定した校区の地域遺産について探究しました。現地調査や聞き取りを重ねてプレゼンにまとめ、あるいは劇化しました。

地域遺産学習を通して学んだ人々の思いや願いを「ものさし」にして、世界遺産への理解を深めようとしたのです。

目指したのは、世界(地球)規模の視点を持ちながら、地域を活動のフィールドする営みです。

 

小学校における取り組みが、すぐさま具体的なカタチある成果を生むことなどまずありません。

しかし、こうした学びや活動の積み重ねが、問題を自分に引き寄せて理解し、課題解決のために具体的に行動するスキルと行動力と、そして生き方をも醸成していくのだと信じます。

日本語探訪(その20) 慣用句「馬が合う」

小学校3・4年生の教科書に登場する慣用句の第7回は「馬が合う」です。

 

馬が合う

 

「馬が合う」の読み方

うまがあう 

 

「馬が合う」の意味

(乗り手と馬とが一体になる意か)気が合う。意気投合する。(広辞苑

 

「馬が合う」の使い方

浄瑠璃、山崎与次兵衛寿の門松「町人とは馬が合ふまい」

 

「馬が合う」の語源・由来

馬が合うとはもともと乗馬で使われた言葉である。騎手と馬が合わない場合、振り落とされることがあり、逆に騎手と馬の息が合うと騎手の実力以上の力を馬が発揮するとも言われている。ここから馬と息があうことを馬が合うといった。後にこれが人と人との関係にも使われるようになり、人と気が合い、しっくりいくことや意気投合することを意味するようになる。また、人以外にも車や楽器などクセのある物に対しても使われる。(日本語俗語辞書)

 

 

「馬が合う」の蘊蓄

「TRANS.Biz」の解説がなかなか深いです。

「馬が合う」は2つの物の相性が合う様子を表現する時に使う
「馬が合う」は、2つの物の相性がぴったり合う様子を表現したいときに使います。その2つは「人と人」とは限らず、「人と物」の場合もあります。「馬が合う」は、肯定的・否定的の両方の場面で応用して使うことができます。“ただ気が合う”というよりも、“相手が特別な存在である”という印象を与えることができます。

否定形で使うと「付き合いにくい人」というニュアンスにもなる
「馬が合う」を否定形にすると「考え方や方向性が合わない」「気が合わない」となり、「付き合いにくい人」という印象を対象者に与えます。ビジネスシーンで使われることも多いです。

 

「馬が合う」の類語

反りが合う(そりがあう)

これもまた「TRANS.Biz」の解説がなかなか深いです。

「馬が合う」の類義には、意味がほとんど同じの「反りが合う(そりがあう)」があります。異なる点は「馬が合う」は「人と物」でも使うことがあるのに対し、「反りが合う」は「人と人」との関係を主に表現しているということです。とくに男女の関係を表現することが多く、「反りが合わない」とネガティブなニュアンスで使われることがほとんどです。 

 

 

 

日本語探訪(その19) ことわざ「犬も歩けば棒に当たる」

小学校3・4年生の教科書に登場することわざの第6回は「犬も歩けば棒に当たる」です。教科書の表記は、「犬も歩けばぼうに当たる」となっています。

 

 

 

犬も歩けば棒に当たる

 

「犬も歩けば棒に当たる」の読み方

いぬもあるけばぼうにあたる

 

「犬も歩けば棒に当たる」の意味

物事を行う者は、時に禍いにあう。また、やってみると思わぬ幸いにあうことのたとえ。(広辞苑

 

「犬も歩けば棒に当たる」の使い方

本来は、犬がうろつき歩いていると、人に棒で叩かれるかもしれないというところから、でしゃばると災難にあうという意味でした。

浄瑠璃・蛭小島武勇問答(ひるがこじまぶゆうもんどう)(1758)三「じたい名が気にいらぬ、犬様の、イヤ犬房様のと、犬も歩けば棒にあふ」


現在では、「当たる」という言葉の印象からか、何かをしているうちに思いがけない幸運があるという、反対の意味で使われています。

雑俳・三番続(さんばんつづき)(1705)「ありけば犬も棒にあたりし・夜参の宮にて拾ふ櫃(ひつ)の底」

 

「犬も歩けば棒に当たる」の語源・由来

犬がふらふら街中を歩いていると、棒で殴られたり追われたりする光景をいったもののようです。 

 

「犬も歩けば棒に当たる」の蘊蓄

「犬も歩けば棒に当たる」はよく知られたことわざであると同時に、よく分からないことわざです。

 

よく知られている理由は、「犬も歩けば棒に当たる」が「江戸いろはガルタ」の最初の札に採用されているからです。「江戸いろはガルタ」は、別称「犬棒(いぬぼう)カルタ」とも言います。

 

よく分からないのは、「犬も歩けば棒に当たる」には「でしゃばると災難にあう」(災難説)と「思いがけない幸運がある」(幸運説)という殆ど真逆の意味があるからです。

 

「犬も歩けば棒に当たる」の由来ははっきりしません。

出典を「江戸いろはガルタ」に求めている人もいますが、正しくありません。「江戸いろはガルタ」ができたのは、嘉永年間(1848-1854)頃と推定されています。

1705年に「幸運説」の使用文献、1758年に「災難説」の使用文献が残っています。2つの文献だけではどちらの説が古いかは断定できません。確かに言えることは、江戸いろはガルタが成立するより以前に、「犬も歩けば棒に当たる」は「災難説」と「幸運説」の両方で使われていたということです。

 

しかるに、「災難説」が「本来の意味」とされているのはなぜでしょう。

「犬棒カルタ」の絵は、犬が棒に当たって顔をしかめているものが多いということです。それが災難説が「本来の意味」の根拠になっているようです。

 

それにしても、なぜ「犬」なのでしょう。

徳川綱吉が将軍職にあったのは、1680年から 1709年までです。その治世の後半に「生類憐れみの令」が登場します。(「生類憐れみの令」については、「『生類憐れみの令』を授業する」をご覧ください)

「幸運説」の文献は1705年で、まさに「生類憐れみの令」がエスカレートしていた時代です。そして、「災難説」の文献の1758年は「生類憐れみの令」が廃止されて半世紀後です。

「生類憐れみの令」と「犬も歩けば棒に当たる」の直接の関係は証明できませんが、時代背景としては推測の具になるかと思います。

 

 

 

日本語探訪(その18) ことわざ「一を聞いて十を知る」

小学校3・4年生の教科書に登場することわざの第5回は「一を聞いて十を知る」です。

 

 

一を聞いて十を知る

 

「一を聞いて十を知る」の読み方

いちをきいてじゅうをしる

 

「一を聞いて十を知る」の意味

聡明で、一部分を聞いて他の万事を理解すること。(広辞苑

 

「一を聞いて十を知る」の使い方

あの人はまさに、一を聞いて十を知る天才肌の学者だ。

 

「一を聞いて十を知る」の語源・由来

出典は『論語』三巻「 公冶長」第五です。

 

子謂子貢曰 汝與回也孰愈 對曰 賜也何敢望回 回也聞一以知十 賜也聞一以知二 子曰 弗如也 吾與汝弗如也

 

子、子貢(しこう)に謂いて曰く、「汝と回と孰れか愈(まさ)れる。」 対えて曰く、「賜や、何ぞ敢て回を望まん。回や、一を聞いて十を知る、賜や、一を聞いて以て二を知るのみ。」 子曰く、「如かざるなり、吾と汝と如かざるなり。」

 

孔子が子貢(しこう  注:孔子の弟子)に「お前と顔回(がんかい 注:孔子の弟子)では、どちらが優れているかな」と尋ねた。子貢が、「どうして、回と比べることができるでしょう。回は、一を聞いて十を知ることができますが、私はようやく二を知る程度です」と答えると、孔子が言った。「そう及ばないね、私もお前同様(回には)及ばないよ」と。

 

 

「一を聞いて十を知る」の蘊蓄

「一を聞いて十を知る」の類義語

一を推して万

一を以て万を知る

目から鼻に抜ける

 

「一を聞いて十を知る」の対義語

一知半解

一を知りて二を知らず

其の一を知りて其の二を知らず

十を聞いて一を知る ※これは「一を聞いて十を知る」の派生語か?

目から耳へ抜ける ※これは「目から鼻に抜ける」の派生語か?

 

いまさら聞けない SDGs ②SDGsと教育

今回のテーマは、「SDGsと教育」です。

 

SDGsには、「17の目標」があります。

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17の目標は、21世紀の世界が抱える課題を包括的に挙げたものです。

 

目標の「4」が教育に関するものです。

4 質の高い教育をみんなに (Quality Education) - 「すべての人々へ包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」

Goal 4
Ensure inclusive and equitable quality education and promote lifelong learning opportunities for all

 

17の目標をより具体的にしたものが、「169のターゲット」です。

目標4は10のターゲットで構成されています。

 

「4-1」のように数字で示されるものは、それぞれの項目の達成目標を示しています。
「4-a」のようにアルファベットで示されるものは、実現のための方法を示しています。

 

4: すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する


・4.1 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。


・4.2 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。


・4.3 2030年までに、すべての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。


・4.4 2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。


・4.5 2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。


・4.6 2030年までに、すべての若者及び大多数の成人が男女ともに、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする。


・4.7 2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、世界的・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。


・4.a 子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。


・4.b 2020年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、ならびにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術 (ICT)、技術・工学・科学プログラムなど、先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる。


・4.c 2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員研修のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる。

 

教育に関する「ターゲット」と「指標」の原文と仮訳文を、総務省のホームページから引用します。

ターゲット 指標(仮訳)
4.1   2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。
By 2030, ensure that all girls and boys complete free, equitable and quality primary and secondary education leading to relevant and effective learning outcomes
4.1.1   (i)読解力、(ii)算数について、最低限の習熟度に達している次の子供や若者の割合(性別ごと)
(a)2~3学年時、(b)小学校修了時、(c)中学校修了時
Proportion of children and young people: (a) in grades 2/3; (b) at the end of primary; and (c) at the end of lower secondary achieving at least a minimum proficiency level in (i) reading and (ii) mathematics, by sex
4.2   2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。
By 2030, ensure that all girls and boys have access to quality early childhood development, care and pre-primary education so that they are ready for primary education
4.2.1   健康、学習及び心理社会的な幸福について、順調に発育している5歳未満の子供の割合(性別ごと)
Proportion of children under 5 years of age who are developmentally on track in health, learning and psychosocial well-being, by sex
4.2.2   (小学校に入学する年齢より1年前の時点で)体系的な学習に参加している者の割合(性別ごと)
Participation rate in organized learning (one year before the official primary entry age), by sex
4.3   2030年までに、全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。
By 2030, ensure equal access for all women and men to affordable and quality technical, vocational and tertiary education, including university
4.3.1   過去12か月に学校教育や学校教育以外の教育に参加している若者又は成人の割合(性別ごと)
Participation rate of youth and adults in formal and non-formal education and training in the previous 12 months, by sex
4.4   2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
By 2030, substantially increase the number of youth and adults who have relevant skills, including technical and vocational skills, for employment, decent jobs and entrepreneurship
4.4.1   ICTスキルを有する若者や成人の割合(スキルのタイプ別)
Proportion of youth and adults with information and communications technology (ICT) skills, by type of skill
4.5   2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子供など、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。
By 2030, eliminate gender disparities in education and ensure equal access to all levels of education and vocational training for the vulnerable, including persons with disabilities, indigenous peoples and children in vulnerable situations
4.5.1   詳細集計可能な、本リストに記載された全ての教育指数のための、パリティ指数(女性/男性、地方/都市、富の五分位数の底/トップ、またその他に、障害状況、先住民、紛争の影響を受けた者等の利用可能なデータ)
Parity indices (female/male, rural/urban, bottom/top wealth quintile and others such as disability status, indigenous peoples and conflict-affected, as data become available) for all education indicators on this list that can be disaggregated
4.6   2030年までに、全ての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする。
By 2030, ensure that all youth and a substantial proportion of adults, both men and women, achieve literacy and numeracy
4.6.1    実用的な(a)読み書き能力、(b)基本的計算能力において、少なくとも決まったレベルを達成した所定の年齢層の人口割合(性別ごと)
Proportion of population in a given age group achieving at least a fixed level of proficiency in functional (a) literacy and (b) numeracy skills, by sex
4.7   2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。
By 2030, ensure that all learners acquire the knowledge and skills needed to promote sustainable development, including, among others, through education for sustainable development and sustainable lifestyles, human rights, gender equality, promotion of a culture of peace and non- violence, global citizenship and appreciation of cultural diversity and of culture’s contribution to sustainable development
4.7.1   ジェンダー平等および人権を含む、(i)地球市民教育、及び(ii)持続可能な開発のための教育が、(a)各国の教育政策、(b) カリキュラム、(c) 教師の教育、及び(d)児童・生徒・学生の達成度評価に関して、全ての教育段階において主流化されているレベル
 Extent to which (i) global citizenship education and (ii) education for sustainable development, including gender equality and human rights, are mainstreamed at all levels in (a) national education policies, (b) curricula, (c) teacher education and (d) student assessment
4.a   子供、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、全ての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。
Build and upgrade education facilities that are child, disability and gender sensitive and provide safe, non-violent, inclusive and effective learning environments for all
4.a.1   以下の設備等が利用可能な学校の割合
(a)電気、(b)教育を目的としたインターネット、(c)教育を目的としたコンピュータ、 (d)障害を持っている学生のための適切な設備・教材、 (e)基本的な飲料水、(f)男女別の基本的なトイレ、(g)基本的な手洗い施設(WASH指標の定義別)
Proportion of schools with access to: (a) electricity; (b) the Internet for pedagogical purposes; (c) computers for pedagogical purposes; (d) adapted infrastructure and materials for students with disabilities; (e) basic drinking water; (f) single-sex basic sanitation facilities; and (g) basic handwashing facilities (as per the WASH indicator definitions)
4.b   2020年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、並びにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど、先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる。
By 2020, substantially expand globally the number of scholarships available to developing countries, in particular least developed countries, small island developing States and African countries, for enrolment in higher education, including vocational training and information and communications technology, technical, engineering and scientific programmes, in developed countries and other developing countries
4.b.1   奨学金のためのODAフローの量(部門と研究タイプ別)
Volume of official development assistance flows for scholarships by sector and type of study
4.c   2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員研修のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる。
By 2030, substantially increase the supply of qualified teachers, including through international cooperation for teacher training in developing countries, especially least developed countries and small island developing States
4.c.1   各国における適切なレベルでの教育を行うために、最低限制度化された養成研修あるいは現職研修(例:教授法研修)を受けた (a)就学前教育、(b)初等教育、(c)前期中等教育、(d)後期中等教育に従事する教員の割合
Proportion of teachers in: (a) pre-primary; (b) primary; (c) lower secondary; and (d) upper secondary education who have received at least the minimum organized teacher training (e.g. pedagogical training) pre-service or in-service required for teaching at the relevant level in a given country

 

 

他の目標がそうであるように、教育に関する目標もまた、一見すると途上国の課題のように見えます。事実、途上国には解決しなければならない課題が山積しています。

 

それでは、日本には取り組むべき課題はないのでしょうか。

 

4.1 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。

4.1.1   (i)読解力、(ii)算数について、最低限の習熟度に達している次の子供や若者の割合(性別ごと)
(a)2~3学年時、(b)小学校修了時、(c)中学校修了時

途上国の困難さと同じ「ものさし」で測っていては、日本の課題は見えてきません。

しかし、「適切かつ効果的な学習成果をもたらす」「質の高い初等教育」を「すべての子ども」に届けられているかと言われると、はてなマークがつきます。「(i)読解力、(ii)算数」の「最低限の習熟度」を仮に60%(100点満点のテストで60点)としたとき、間違いなく取り残されている子がいます。教科書を含む教材、教師の指導法等々、改善すべきことは多々ありそうです。

 

4.2   2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。

保育園の待機児童の問題は今なお解消されていません。2020年4月1日時点での待機児童数は、1万2439人です。

 

4.4 2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。

4.4.1   ICTスキルを有する若者や成人の割合(スキルのタイプ別)

ICTスキルを有する若者や成人」の育成は、まさにこれから取り組みが始まろうとしている課題です。(「雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能」の指標を「 ICTスキル」1つに代表させてしまうのもどうかと思いますが)


4.5 2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。

親の経済格差が子どもの学力格差になっている現実、不登校児童・生徒の問題、教室でのいじめなど、大きく括れば「脆弱な立場にある子ども」です。「脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする」というのは、日本においても重い課題です。


4.6 2030年までに、すべての若者及び大多数の成人が男女ともに、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする。

4.6.1    実用的な(a)読み書き能力、(b)基本的計算能力において、少なくとも決まったレベルを達成した所定の年齢層の人口割合(性別ごと)

これを識字率の問題として捉えるならば、ほぼ満足できるレベルだと思います。しかし、「すべての若者及び大多数の成人」を「日本人」に限定せず、「日本に暮らす人々」とすると、「実用的な(a)読み書き能力」を持たない人たちが多数存在します。夜間中学に学ぶ生徒さんの多くが、日本で暮らす外国人労働者です。これに対する根本的な施策は皆無の状態です。


4.7 2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、世界的・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

4.7.1   ジェンダー平等および人権を含む、(i)地球市民教育、及び(ii)持続可能な開発のための教育が、(a)各国の教育政策、(b) カリキュラム、(c) 教師の教育、及び(d)児童・生徒・学生の達成度評価に関して、全ての教育段階において主流化されているレベル

これは、これからの教育内容の大きな柱になると思われます。現実の日本は、世界で一流の「人権後進国」。国や文科省に期待するのは「ない物ねだり」に等しいです。現場の教師の「本気」が試されている、と私はみています。

 

4.a   子供、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、全ての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。

4.a.1   以下の設備等が利用可能な学校の割合
(a)電気、(b)教育を目的としたインターネット、(c)教育を目的としたコンピュータ、 (d)障害を持っている学生のための適切な設備・教材、 (e)基本的な飲料水、(f)男女別の基本的なトイレ、(g)基本的な手洗い施設(WASH指標の定義別)

(b)教育を目的としたインターネット」「教育を目的としたコンピュータ」は、GIGAスクール構想で実現しつつあります。ソフト面や指導面を含めた「効果的な学習環境」をいかに構築できるかがこれからの課題です。

子供、障害及びジェンダーに配慮した教育施設」ということでは、たとえばトイレのあり方、図書館(室)のあり方、更衣室のあり方、ランチルームのあり方等々、改良の余地は随所にあります。

 

こうして見ていくと、ざっくりと概観しただけでも、日本の教育の課題はいくつもあります。

じっくり腰を据えて精査し、地に足のついた取り組みが望まれます。

 

日本語探訪(その17) 故事成語「守株」

小学校3・4年生の教科書に登場する故事成語の第6回は「守株」です。

 

 

守株

 

「守株」の読み方

しゅしゅ

 

「守株」の意味

古い習慣を固守して時に応ずる能力のないこと。少しの進歩もないこと。株(くいぜ)を守る(広辞苑

 

「守株」の使い方

年齢を重ねると、どうも守株になっていく

 

「守株」の語源・由来

出典は『韓非子』(かんぴし)の「五蠹」(ごと)です。

 

宋人有耕田者。田中有株。兎走触株、折頸而死。因釋其耒而守株、冀復得兎。兎不可復得、而身為宋国笑。

 

宋人に田を耕す者有り。田中(でんちゅう)に株(かぶ)有り。兎(うさぎ)走りて株に触れ、頸(くび)を折りて死す。因(よ)りて其(そ)の耒(らい)を釋(す)てて株(かぶ)を守り、復(ま)た兎を得んことを冀(こいねが)ふ。兎復た得(う)べからずして、身(み)は宋国(そうこく)の笑(わら)ひと為(な)れり。

 

(現代語訳)

宋の国の人で、田を耕している人がいた。その田んぼの中に、木の切り株があった。そこへ兎が走ってきて切り株にぶつかり、首すじを折って死んだ。そこで(この男は)自分の耒(すき)を捨てて切り株を見守り、もう一度兎を得ようと切望した。(しかし)兎は二度とは手に入れることができず、自分自身は宋の国じゅうの笑いになってしまった。

 

「守株」の蘊蓄

「守株」の四字熟語

守株待兎(しゅしゅたいと)

 

「守株」のことわざ

株を守りて兎を待つ

 

「守株」の慣用句

「株を守る」(くいぜをまもる)

 

 

「守株」と「待ちぼうけ」

北原白秋作詞、山田耕筰作曲「待ちぼうけ」

 

待ちぼうけ 待ちぼうけ
ある日せっせと 野良かせぎ
そこへ兎が飛んで出て
ころり ころげた 木のねっこ

待ちぼうけ 待ちぼうけ
しめた これから寝て待とか
待てば獲ものは 駆けて来る
兎ぶつかれ 木のねっこ

待ちぼうけ 待ちぼうけ
昨日鍬とり 畑仕事(はたしごと)
今日は頬づえ 日向ぼこ
うまい伐(き)り株 木のねっこ

待ちぼうけ 待ちぼうけ
今日は今日はで 待ちぼうけ
明日は明日はで 森のそと
兎待ち待ち 木のねっこ

待ちぼうけ 待ちぼうけ
もとは涼しい黍畑(きびばたけ)
いまは荒野(あれの)の箒草(ほうきぐさ)
寒い北風 木のねっこ

 

この童謡の「原作」が、『孟子』の「守株」だったのです。

阿辻哲治著『故事・ことわざ・四字熟語 教養が試される100話』(青春文庫、2017年)で知りました。